【SH考察:077】"神聖"帝国からみるサンホラにおける宗教観を共有する地平線(後編)
1つ前の記事で、Sound Horizonの宗教観の理解を深めるため現実のヨーロッパの歴史や宗教観と照らし合わせた。
今回は、サンホラの世界の中でも宗教観が現実と大幅に異なる地平線と、現実に近い地平線がある点から、地平線を分類しつつ世界観への理解を深めていこうと思う。
対象
Sound Horizonの楽曲すべて
考察
キリスト教の世界と黒の教団の世界
前回整理した内容から、少なくともChronicle 2ndの世界は黒の教団が存在しカトリックは存在しない(か、存在が極めて薄い)宗教観であることがわかった。
さらに他の地平線についても、その宗教観を考察することで、以下の3種類に分類することができる。
現実と宗教観が大幅に異なる地平線
現実と宗教観が近い地平線
どちらとも言えない地平線(両方を跨いでいる地平線?)
1. 現実と宗教観が大幅に異なる地平線
今回題材に挙げたChronicle 2ndや、Roman、Moiraあたりがあてはまるだろう。絵馬に願ひを!も入るかも。
Moira
Moiraもまた宗教観が実際の古代ギリシャとは異なる。
ギリシャ神話に登場する神と同名の神も登場するものの、神同士の親子関係などが大幅に異なる。
国の構成も異なることから、宗教観と同時に国の関係性も異なるというChronicle 2ndとの類似性を感じさせる。
絵馬に願ひを!
現実では神である者たちがことごとく人間になり、我々人間であるローランがまさかの狼樂大神になってしまった。
宗教観という意味であれば、明らかに日本とは異なる。
2. 現実と宗教観が近い地平線
これはキリスト教の存在から判別しやすい。
わかりやすいところで言うと聖戦のイベリア、イドへ至る森へ至るイド、Märchen、ハロウィンと夜の物語があてはまる。
聖戦のイベリア
非常にわかりやすくキリスト教が存在する。
というか、そもそものテーマがキリスト教とイスラム教の領土獲得争いで、キリスト教勢力がイスラム教勢力からイベリア半島を奪還する運動であるレコンキスタがメインで描かれている。
イドへ至る森へ至るイド & Märchen
これまたキリスト教の存在感が強い。カトリックが存在している上にそれに対するプロテスタントによる宗教改革が起きている。
また、ドイツ(っぽい世界)が舞台で、皇帝を選出する権限を持つ選帝侯がおり、神聖ローマ帝国っぽさも強い。
ハロウィンと夜の物語
これもまたキリスト教ありきの世界だ。
アメリカに渡ったシェイマスだかウィリアムだかは、プロテスタントの多い大隊に所属していた。
3. どちらとも言えない地平線(両方を跨いでいる地平線?)
Lost、Thanatos、Elysion、Romanだ。
Lost
Lostは『緋色の花』があり、この曲はRomanの『緋色の風車』と繋がっている可能性が高い。
となると、Romanと同じく現実と宗教観が大幅に異なる地平線の可能性はある。
一方でLostには『ゆりかご』もあり、この曲の改編であるNeinの『言えなかった言の葉』に登場する医者が、ハロウィンと夜の物語に登場するジョニーと考えられる。
となると、ハロ夜は現実と宗教観が近い地平線であるため、『緋色の花』と矛盾が起こる。
(ただしNeinはノエルが見させられている世界で、ノエルは絵馬に願ひを!と共通の世界にいるようだから、『ゆりかご』『言えなかった言の葉』の件はスルーでも良いのかもしれない)
Thanatos
Lostが確定しないと、同時にThanatosも確定しなくなる。
Lostには『檻の中の遊戯』があり、Thanatosには『そこに在る風景』『壊れたマリオネット』『タナトスの幻想』といったミシェル関連の曲があるため、LostとThanatosは同じ世界観を共有しているはずだからだ。
Elysion
『Baroque』でキリスト教教会らしきものがあったり(曲自体が教会での告解の様子に見える)、『Sacrifice』でも神父がいたりマリアやガブリエルの名が登場したり受胎告知の概念が浸透していたり魔女狩りが起きている様子から、一見2. 現実と宗教観が近い地平線のように思える。
しかし『エルの天秤』は明らかにRomanの『歓びと哀しみの葡萄酒』と繋がっている。
もしこの「継母の《宝石》」=『呪われし宝石』の「殺戮の女王」だった場合、『呪われし宝石』には双児人形を作る人形師がいる。
つまり『焔』のフランドルが帝政を敷いている世界観と共通する可能性が高く、辿っていくと『エルの天秤』は1. 現実と宗教観が大幅に異なる地平線ということになる。
Roman
Romanはおそらく、曲によって2つの世界観どちらに属するかが異なる。
たとえば『焔』及びその改変世界であるNeinの『涙では消せない焔』で、フランス革命時の国家体制が帝政であることがわかる。
現実では王政だったため、明らかに神聖フランドル帝国の世界観を引き継いでいる。
また、『見えざる腕』で「アルヴァレス将軍に続けー!」という叫び声も聴こえるため、アルヴァレスが活躍した戦いがあり、Chronicle 2ndと同じ世界である可能性が高い。
一方で、『天使の彫像』を代表として、曲中に「天使」という言葉を使う曲も存在する。
天使はキリスト教(やユダヤ教やイスラム教)で信じられている存在だ。
そのため、現実と宗教観が異なる世界と近い世界観、両方の曲が混在していると考えられる。
終焉の洪水と新世界
現実と宗教観が大幅に異なる地平線であるChronicle 2ndにて、ノアがこのように述べている。
もしノアが言うように、書の魔獣?洪水?によって世界が作り変えられたとしよう。
その場合、以下のように言い換えることが出来る。
現実と宗教観が大幅に異なる地平線=旧世界の地平線
現実と宗教観が近い地平線=新世界の地平線
この作り変えが1度で済んだかもわからないため、何度か繰り返された可能性もあるが、最低でも旧世界・新世界の2つあるとすれば宗教観の差異も理解できる。
結論
現実の宗教観の違いから、これまでの地平線が旧世界で起きたことと新世界で起きたこと(またそれらを行き来しているもの?)で分けられそう、という説はある程度成り立つ。
一つの地平線内で旧世界と新世界が入り混じっているパターンもあったため、単純には整理しきれなかった。
ただ少なくとも2つ以上の世界観が同時並行的に成立しているとみてよさそうだ。
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他にもSound Horizonの楽曲考察記事を書いています。
更新履歴
2024/02/10
初稿
2024/02/20
Romanの扱い変更
2024/04/24
一部歌詞引用について「※ルビは書き起こしのため誤差がある可能性あり」の注釈追記
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