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第1話「夢を諦めた大学時代」

野球一家の佐原家は男に生まれたからには
野球をするという宿命になっていた。


家族や親戚の子ども達は学校でいい点数を取る
ことよりも、野球の試合で活躍する方が褒めて
もらえるような家庭環境だった。


〔ちなみに私が初めて見たアニメは巨人の星〕


親戚の兄ちゃんが野球推薦で強豪高に進学が
決まった時のお祝いのされ方を見て、当時小学校
高学年だった私は勉強に時間を割くのをやめて、
野球だけに打ち込むことにした。


野球さえやっていれば、勉強の成績が悪くても
いい高校に入れるんだ。そして、偏差値の高い
学校に行くよりも甲子園の行けそうな高校に行く
方が家族も親切も喜んでくれるんだ。

子どもながらにそんなことを思っていた。



中学時代は5教科の点数が160点くらいの私でも
野球推薦で大阪の強豪高に進学することができた。


高校は補欠だったけど野球部のコネで岐阜県
の大学に進学することができた。


私は人生で受験勉強をした経験がない。


野球さえやっていれば、勉強なんてしなくても
進学できることを経験として知った。


しかし、18歳の総将青年は壁にぶち当たる。


高校野球までは金属バットを使っていたので
ある程度のパワーとミート力があれば打つこと
ができた。

バッティングには自信があった。

しかし、大学生からは金属バットは使用できず、
木バットで打たないといけない。


大学に入ってからの1番最初のバッティング練習、
それも初球に、内角高めに来たボールを打ちに
いったら、どん詰まりになり木バットが折れた。


その瞬間、総将青年の心も折れた。。。


全国から野球推薦で来た同級生の奴らは
木バットで普通に柵越えホームランを打ってるのに、
私は全く木バットに対応できない。


守備もそんなにうまいわけじゃない。


足も速いわけじゃない。


野球を10年以上本気で取り組んできたから
分かる自分の実力ではレギュラー争いにする
参加できない現状と今後の伸び率。


100名を超えるこのチームの中ではレギュラーに
なることは難しいどころか、ベンチに入れるか
どうかもかなり難しい。


高校、大学までは野球部のコネで進学する
ことができた。


でも、大学野球部のコネでプロ野球に
行けるわけではない。

社会人野球でプレーできるのも、チーム内で
毎年1人か2人だと聞いていた。


野球でご飯を食べていくのは私には無理だ!


では野球選手以外の仕事をしないといけない。


大学4年生になり就職活動をする時に
ベンチにも入れない私は何の持ち味もない。


野球一家で育った私は野球選手になれることを
1ミリたりとも疑ってなかったので、勉強なんて
ほとんどしてない。


野球を差し引いたら小学生のホームベース
くらいペラッペラの人間だった。


人生詰んだ。


いや、まだ18歳や。


就活が始まるまで後3年半あるぞ。


野球推薦で大学に来てる以上野球をやめる
ことはできない。


でも、野球をしながら何か一つだけ極めれば、
就職活動の時に武器を持っていけるのではないか。



何か一つだけ、この4年間を使って勉強しよう。


そしてその何か一つを「英語」に選んだのだ。


理由は簡単で「英語話せたら女性にモテる」
と思ったからだ。


むしろ今モテてないのは、英語が話せない
からだという頭の悪い計算式ができていた。


「英語勉強するわ」


って野球部の仲間に言った時は、みんな野球推薦
で進学してきて、これまで勉強してきてない人ら
ばっかりやったから、

「今からやっても遅いって。俺らは野球しか
してないんやから、今から英語話せるように
なるなんて無理や」

と言われた。


でも私は今からでも英語勉強したら
話せるようになると思った。


それはお母さんがいつもこんなこと
言ってくれてたからだ。


「あんたはな、勉強でけへんのとちゃうで。
勉強してないだけや。

あんたは勉強したらできる子や。頭ええねんで。

いつかその時が来たら勉強したらできるからな。」


せやねん。


俺、勉強してないだけやねん。


18歳の春、大学に進学したと同時に
プロ野球選手の夢を諦めた。


そして、人生初、自ら勉強をやり始めた。


本屋さんで1番薄い中学一年生の参考書を
500円くらいで購入した。


それまで野球の自主練に費やしてた時間を
英語を勉強する時間に費やした。


と言っても、最初は1日30分くらい。


寝る前に購入してきた英語の参考書1ページ
を解いて、答え合わせをする。


10問中2問くらいは正解。


後の8問は不正解。


答え合わせをしてまずは英語の基本的
なルールを覚える。


「Iの後はamなんだな。

You の後はareなんだな、、、」


こんな感じで中学一年生の問題を解いて
答え合わせをしながら勉強していた。


そして朝起きて昨夜解いた問題をもう一回
やってみる。


不思議なことが起きた。


10問中5問正解していた。


え、俺、頭良くなってる!!


昨日分からんかったことが、3つも分かるよう
になってる。


そしてその時に気づくのである。


"英語の勉強むっちゃコスパええやん"


野球は前日に素振り1000回しても次の日の
試合で打てない時もあるのに、英語は寝る前に
30分勉強したら次の日着実に成長してるんや。


英語の勉強って、掛け捨てやない。


積立なんや!! 
〔さすがに当時掛け捨てとか積立の意味は分かってなかったけどそういうイメージは持っていた〕


それから英語の勉強がどんどん楽しく
なっていき、みるみる英語は上達していった。


その英語の勉強がやがて「世界一周したいと
思うきっかけ」になるなんて、この時は想像
もしてなかった。


お母さんの言う通りやった。


俺は勉強できひんのじゃなくて、
勉強してないだけやった。


続く
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次回、フィリピンで起きたある事件が
靴磨きトラベラーの元になる。




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