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(提言解説シリーズ)霞が関の中途採用、何が問題なの?後編

こんにちは!ソトナカプロジェクトの東です。
今回の記事は、「提言解説シリーズ」です。

前回の提言解説記事では、ソトナカプロジェクトのメンバーと同じように、民間から霞が関に飛び込んだ約100名のアンケート結果をもとに、霞が関の中途採用に応募する立場から見えた様々な課題をお伝えしました。

さて、今回の記事では、
・「ナカ」視点での課題
・「ソトナカ」視点での課題
について、わかりやすくお伝えしていければと思います!

※ナカ視点の課題とは、霞が関のナカ、例えば、各府省の人事担当や職場上司・同僚が課題と感じること、また、ソトナカ視点での課題とは、それら(ソトとナカ)の双方ともに課題と感じること、という意味です。

新卒採用の延長線上で行っている中途採用

私たちはこれまで、各府省の人事担当者との意見交換を重ねてきました。そこから様々な課題が見えていますが、まずもって、霞が関には中途採用のノウハウが足りないことが大きな課題だと考えています。

しかし、無理もないと思います。霞が関の中途採用はまだまだマイノリティであり、各府省とも試行錯誤の真っ最中です。そんな段階ですから、専任の中途採用担当者がいるわけでもなく、(中途採用に限りませんが)人事のプロフェッショナルにノウハウを教えてもらえるわけでもありません。新卒採用担当者が片手間で行い、その手法も、新卒採用の方法論からなかなか脱却できていないのが実情です。

そもそも「中途採用のノウハウ」とは、何でしょうか?。
このことを考えるに当たり、まず、私たちが「採用活動」と呼んでいるものを、採用する人事側の目線でかみ砕いてみます。一般的に採用活動は、大きく以下のような一連のフローで成り立っています。
① 採用戦略の立案
② 採用コミュニケーションの具体設計
③ ②で設計した施策の実行

採用戦略の立案フェーズというのは、要するに、何故採用するのか、を突き詰めるフェーズです。経営目標を達成するための人材戦略に基づき、採用目的や求める人物像を明確化。また、組織として、応募者や内定者に伝えたいメッセージを特定します。
採用コミュニケーションの具体設計フェーズは、受験母集団形成、説明会・選考、内定後の辞退防止、入社後の組織適応などの各プロセスでの、メディアやツールの選定も含めたコミュニケーションの在り方をデザインします。
そして、これらをタイムリーに確実に実行していく、といった具合です。

霞が関には、新卒採用であれば、採用広報、筆記試験、各省の面接や入職者への研修など、それなりに知見のある一連の仕組みがあります。
一方、中途採用の場合は、まだまだ手探りです。何故、新卒採用ではなく中途採用を行うのか。新卒採用ではなく中途採用で求める人物像はどのようなものか。中途採用者に提供するキャリアパスはどのようなものか。中途採用者が入職した後、組織再適応のために、何を支援したらよいのか。新卒生え抜き職員との均衡の観点も踏まえて、処遇をどう考えるか。中途採用を本格的に実施する場合、どの程度のマンパワー・予算が必要か。

こうしたことについて、一つずつ、しかし早急に議論し整備していく必要があると思っています。

提言P.15。霞が関のナカでは試行錯誤しています。

円滑な戦力化の難しさ。中途採用=即戦力ではないことをまず認識する必要

さて、ここからは、霞が関のナカの人たち(人事や受け入れ職場の上司や同僚)と、中途採用者の双方が課題だと感じていることを見ていきます。

まずは、「中途採用のノウハウがない」ということとも関係しますが、いわゆるオンボーディング(組織適応支援)に関することです。

転職を経験された方なら実感をもってご理解いただけると思うのですが、転職に伴う環境変化への対応は通常、とても困難なものです。転職直後は、何が分かっていないかも分かっていない状態からスタートするからです。また、民間とは異なる霞が関特有の業務遂行の仕組みが、この困難をやや大きなものにしていると考えられます。実際、中途採用者へのアンケートでは、「国会や政策立案などの仕事の仕方が分からなかった」「決裁など、組織内の手続きが分からなかった」との声が多く寄せられました。

一方、新卒から霞が関で勤務している職場上司や同僚にとっては、霞が関のやり方が当たり前。むしろ、中途採用者が何に困っているのかがよく分かりません。また、民間で数年経験してきていることもあり、新卒入職1年目の職員に指導するような内容をストレートに言いにくいといった事情もあります。

このように、採用される側・する側ともに課題があり、結果として、円滑に戦力化できないという現状があります。今後、中途採用者が本格的に増える前に、どのような対応を講じればよいのか体系立てて仕組み化し、少しでも円滑な戦力化を目指すべきではないかと考えています。

提言P.16。オンボーディングという言葉どおり、組織という一つの船の乗組員となれるよう、中途採用者と職場の双方の課題を取り除くことが求められます。

民間経験を「評価」するという仕組み

霞が関の中途採用の仕組みのひとつに、「民間経験が職務に直接役立たないと判断されると、その民間経験年数から少し割り引いた年数を『経験年数』として算入する」ということがあります。
イメージしやすいように言うと、例えば、10年間の民間経験が、霞が関での職務に直接役立つものではないがために、8年間としてカウントされる、ということです。もちろん、民間経験が職務に直接役立つと判断される場合、民間時代の10年間はそのまま10年間としてカウントされます。

これ、中途採用者にとっては気になる点です。
何故かというと、最終的に算入される経験年数が、霞が関に入職後の給与、職位や昇進にダイレクトに影響するからです。それだけに、本来は、入職前にその内容を知っておきたいところです。

ところが、私たちが行った中途採用者アンケートの回答者の約4割が、そもそも自分の民間経験年数が何年に換算されたかを知りませんでした。そして、換算年数を知っていると答えた方については、「自分は割り引かれていない」という回答が半数以上あったものの、約4割は割り引かれていることが分かりました。

一方で、各府省の人事担当者としても、過去の取扱との整合や、そもそも「職務に直接役立つかどうか」という基準の曖昧さに悩むところがあるようです。

もちろん、両者の立場を理解できますが、まだまだ年功序列が色濃い霞が関において、この「年数換算」問題は、中途採用者がより上位の職位で活躍することへのモチベーションに直結する重要な問題ではないでしょうか?。
私たちソトナカプロジェクトとしては、人事担当者の悩みも十分に理解したうえで、この困難の解消を強く望んでいます。

提言P.17。民間経験の評価をめぐって、中途採用者・受入側のそれぞれの立場での課題を明確にしました。
提言P.18。民間経験の割引をめぐる、中途採用者の生の声です。切実な思いが数多く寄せられました。

中途採用者の活躍の在り方が見えない

中途採用者に対するアンケートから、中途採用者は、現在の仕事については比較的満足しているものの、将来、自分がどのようにキャリアを形成していけるのか不安に思っていることも明らかになりました。

上にも書きましたが、霞が関の多くの府省では、中途採用はまだまだ手探り状態です。そのため、中途採用を行う目的の特定や、その目的達成のためのロールモデル、キャリアパスの提示、採用要件の定義などについても、これからひとつずつ検討していく段階なのだと思います。

これは一朝一夕ではできない、地道な泥臭い作業ですし、それなりに時間もかかることです。しかし、能力ある民間の人材を霞が関に惹きつけ、存分にその力を発揮してもらうためには、真正面から手間をかけて取り組むべきことだと考えています。

提言P.19。現在の仕事には満足している様子が読み取れることはポイント。短期的には公務にやりがいを感じているだけに、中長期的に「霞が関でやっていける」という実感を持てるようにしていくことが今後の課題。


今回は、霞が関の中途採用に関する課題の後編をお送りしました。
次回は、(ようやくですが、)具体的な施策の解説に入っていきたいと思います!

新卒・中途関係なく誰もが存分に活躍できる霞が関となることを目指して、私たちはこれからも積極的に活動を続けます。どうか引き続き、ソトナカプロジェクトへのご支援をいただければ幸いです。

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