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DXの推進?じゃあ人事権をくれ

あるいは無限の教育コストを掛ける時間と予算と人員をくれ。

巷で騒がれているDX。「これまでアナログな手法に頼っていたことで生まれていた手間を削減して、より生産性をあげよう!」というのは正しい方向製だと思います。

一方で周囲を見渡して「当社はDXを成し遂げました!」と胸を張って言える企業がどれだけあるのでしょうか。

私もその変革に悩まされている最中の1人です。なんで1経理部員の私が会社全体のDXを推進するチームに参画しなきゃいけないんだと思わないこともないですが、そもそも内規やルールがまともに整備されていない環境では最終的にデータが集まる経理に白羽の矢が立つのもやむを得ないのかな、と思います。

そんな環境で1年ほど頑張った結果として得た結論をタイトルにしました。

ヒト・モノ・カネ全部潤沢じゃない環境では強権で無理やり推し進める以外ムリ。


カネだけじゃ解決しない

話が立ち上がってから序盤、偉い人と会話してて一番ギャップがあったのはカネの問題で、予算をかけてすごい仕組みを持ってくれば明日からわが社も大改善だと思ってるフシがあるな、ということでした。しかも想定金額がゼロ一つ足りない。

一部の大企業が潤沢な予算と優秀な人材、十分な時間をかけても満足になし得ないDX。みずほ銀行を例にだすと4000億円超を投入してあのザマ完結しない難しい業務です。実際に基幹システムのMINORIは不具合を連発し、外部調査まで入る事態に。その調査報告書の中ではこう述べられています。

本委員会は、一連の本障害につき、MINORI を中心とする IT システムのメカニズム面において共通する原因を認めないが、(中略)本障害に共通する人為的側面の原因として、①危機事象に対応する組織力の弱さ、②IT システム統制力の弱さ、及び③ 顧客目線の弱さ、の3点が存在し、さらに、それらの根底には、④それらが容易には改善されない体質ないし企業風土があるものと認めた。これらはいずれも、以下に見るように、今後の再発防止への取組みにおいて、基本的な課題として認識されるべきである。

みずほ銀行 障害に対する調査報告書
https://www.mizuho-fg.co.jp/release/pdf/20210615release_2_jp.pdf

あれだけ優秀な人達が集まった組織ですら結局ヒトの問題だからそれをなんとかしろというご指摘。辛辣。

そのカネもない

国内有数の大企業ですらそんな状態なのに、中小企業となれば・・・

経営者が「作業の無駄=時間の浪費=人件費のムダ」だと思ってくれるタイプなら都度予算も降りるでしょうが、そう思ってくれる人はレア。大概は売上に直結する機械とか広告費とか、そういったところに資金を集中させる。

地味な守備より攻撃したほうが気持ちいいもんね。しょうがないね。

その結果何が起こるかといえば「守備は選手同士で話し合え」「気持ちで守れ」「運用でカバーしろ」みたいな精神論と個々の対応でなんとかするしかない環境の出来上がり。

数年経てばこうなる

カネが無いからモノもない

保守にカネをかけなかった結果、壊れかけの資産や時代遅れの方法をなんとか流用しようとするみんなの”善意”が重なって、モノがどんどん陳腐化していきます。

その結果起こることは内規を逸脱した処理が横行するとかA部とB部で経費精算に使う用紙が違うとかC部とD部でほぼ同じ報告を上げてくるとか、ちょっとした無駄を発生したタイミングで修正できなくなってしまい、気がついたら手遅れ、みたいなことが稀によくあります。

足りぬ足りぬは工夫が足りぬと言わんばかりに現場であるものでなんとかしろと言われた結果、A地点からB地点へものを運べと言われたら人力の駅伝形式で全力で走って運ぼうとしてるんです。
車で行けばより早く安全に、疲れず目的を果たすことが出来るのに。

行き着く先は結局ヒト

カネもモノも無い中で解決策を練るのは簡単なことではありません。

実例ですが、アナログなタイムレコーダーを使った勤務管理をしていて、残業時間を厳密に管理したいと社長に言われたから毎日100人分の勤怠カードを回収して残業時間を手計算してエクセルに転記してメールで展開して・・・といったことをやっている会社も見たことがあります。これだけで毎日3~4時間は溶けていきます。

DXを推進しているような方からすればそんな非効率な方法をとるなんて!と憤慨してしまいそうですが、他方で実務をしている作業員から見ると

・出力されたデータを集計する計算式を作るのが手間
・目で見えない数字(=デジタルの意)はトラブルがあっても解決できない

というネックがあるため、上記を調べて解決するよりも実際に目で見て手で計算したほうが簡単だ、と判断する人が存在するのも無理もないのかなと。

結局、新しい仕事や概念に直面したときにそれを正しく解釈するためには自身の学習や興味によるものが大きく、デジタルという概念を許容できない人は傍から見ると明らかな非効率でもその人の中では最適解なんてこともザラにあります。

ヒトを変えるなんておこがましいとは思わんかね

こういった人が多数派の場合、いくら改善をしようとしてもムリです。

DX、ひいては業務改善でいちばん大事なことは

・なぜこの業務を行っているのか
・結果としてどうなれば良いのか
・そのためにはどういう知識やルールが必要なのか

を勘案すること。
もっと言えば以下に無駄な業務を削ってスリムになるかを探究することだと考えています。

が、上記のようなヒトでは現状の仕事の延長線でしか考えられません。おそらく上記の人に業務改善を依頼しても「入力がし易いようにシステム部門にエクセルの改修をしてもらおう」とか「タイムレコーダーを多機能のものに変えて残業代も印刷できるようにしよう」と言った程度が関の山です。

こういう方に勤怠管理アプリやデジタルのレコーダーを提案しても絶対に前向きには話が進みません。性格によりますが一旦いい顔をしておいて着手しないまま放置するか、重箱の隅を突くようなデメリットをさも重大な事かのように問題提起して導入拒否します。

いわんやDXとなると影響範囲は全体に及び、その中には必ずこういった人が混ざってきます。始末が悪いことにこういった現状維持バイアスが強いのは年長者が多く、あまり反故にすると社内不和を招くという理由で一定の配慮を求められます。

だから人事権をくれ

上記の上、これまであえてルールを不明瞭にすることで逃れていた責任が明瞭になることを嫌う人、これまでやりたい放題出来ていた既得権益が規制されてしまうことに不満を覚える人、よくわからないから勝手にやればいいけどウチのやり方は変えてくれるなとのたまう人、まぁよりどりみどりで否定から入る人の多いこと。なので仕組みで人を動かすべきです。

経験からするに、DXに対しての反応を大別すると
①賛成派
②DX自体は賛成だけど自分の手は一切動かしたくない派
③DXがイメージできないからなんとなく反対派
④当社は特殊だからムリ等、最初から全否定派

の4パターンが存在します。②は業務フローからなにから全部DX部隊で考えてマニュアルに落とし込めと無理難題を言うし、③は説明しても大体右から左。④はそもそも説得不可。

なので、これはもう一番の権力者が②と③に「いいからやれ」という以外なく、④はDXという動きから排除するしかありません。やりすぎると折角の現場の声を圧殺してしまうリスクはありますが、現実解として②~④に配慮しすぎると何も前に進めなくなります

結果④の人たちはずっと怒るでしょうし、下手すると会社の命令に逆らってでも旧システムや古いルールで動き続けるでしょう。そういった人たちに対して明確にそれは違うぞというメッセージを、しっかりと強い口調で権力者が(ココが肝)言い続ける事が唯一の道だと思います。

最後に

「DX」…そんな言葉は使う必要がねーんだ
なぜなら優秀な人や組織はその言葉を頭の中に思い浮かべたときには!
実際にその業務の改善をしちまってもうすでに終わってるからだッ!
だから使った事がねェーーーッ

©荒木飛呂彦

~後書き~

この記事をUPしてから数か月、ほんとだーれも見てくれない記事としてネットの海に漂い続けてました。が、多少バズった記事の下にぶら下げた結果いろんな人に読んでいただき有難く感じています。

https://twitter.com/sotto122018952/status/1668262398443044864

スキもつい数日前まで「4」だったものが24時間くらいで「100」を超えました。twitterすごい。

さて、様々な反応をいただく中で生産性を向上したところで、合わせて売上も同時に上がらないと暇になるだけなのでバランスが大事だという意見をいただきました。法人の代表様のようでご迷惑をお掛けしたくないので直接の引用はしませんが、おっしゃる通りだな、と納得しています。

確かにここで書いたのはN=1の、DXを推進する側からの一方的な意見で、売上の方は考慮していません。余剰人材が出てくれば解雇等の話になるもなるし内部崩壊の極大リスクも抱えています。しかし会社は利益を生むことを最終目的とする集団である以上、現状の処理能力が上がらないといざチャンスが回ってきてもそれを生かす方法もなくなってしまうので、常に業務を改善し続ける必要があると考えます。

一方で、多くの場合市場や売上の天井が見えてしまった結果コスト削減の急先鋒としてDXがやり玉にあがることが多いのかな、と感じます。本来は売上と両輪で改善するべき箇所を安易に人力で解決してしまい、いざ売上が下がったからと開始される業務改善は最初から詰んでいるんじゃないかなと考えさせられました。


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