見出し画像

第4話 ぬか喜びに終わった診察

数日後、私は早速、大学病院の皮膚科に行きました。
皮膚科の先生がどんなことを言ってくれたのか、そこは定かな記憶がありません。
ただ、私が期待したようなホルモン剤という言葉は、一言も出ませんでした。
その代わりに、5cmくらいの小さなチューブに入った塗り薬を処方してくれました。
その時の最後の言葉だけ、いまでも記憶しています。
「この塗り薬は強い発毛効果があるので気を付けてください。頭皮の患部に塗った後で、塗った指を石鹸できれいに洗ってください。指に残ると、指から発毛するということがあり得るんです。」
そんな説明でした。

私は、大きな船に乗りこんで安心した気分になりました。
ホルモン剤という話ではなかったが、いまはこんな画期的な薬もあるのか。やっぱり、大学病院に行ってみて良かったと感じたのです。

ただ、そういう風に安心する気持ちが80%ほどある一方で、20%ほどの不安な気持ちも持っていました。
不幸にも、私はその当時に「プラシーボ」という言葉を知っていたのです。
プラシーボは、日本語になおすと「偽薬」という意味です。小麦粉を固めただけの錠剤であっても、医者などの権威のある人がもっともらしく処方すると、その薬を飲んで本当に病気が治ってしまうということがあるのです。
そういう意味では、「指から発毛する可能性がある」という言葉が、少し引っかかりました。常識的に考えて、指から発毛するなんてことがあり得るのだろうか。もしかして、あのお医者さんは私を勇気づけ、この塗り薬をプラシーボとして作用させることを目指しただけで、この塗り薬自体にはほとんど効果がないのではないか。そういう風にも感じてしまったのです。

そして、その不安は、日を追うごとに強くなっていきました。
薬をもらってから数日は、毎日ていねいに塗りこんで、指もきれいに洗って様子を見ていたのですが、状況は全く改善しないのです。

それでも、1か月くらいは塗り薬を続けていたと思います。
しかし、状況が改善するどころか少しずつ悪化をしてきたので、薬を使うことをあきらめてしまいました。
今思うと、何度も大学病院に通って、さらなる診療を受けるべきだったかもと思います。
しかし、当時の私は、大学病院でさえもプラシーボのような手段しか持っておらず、行くだけ無駄だというように思いこんでしまい、その後に病院に行くことはありませんでした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?