有木田 聰 - 外見への悩みを隔離できた人

20歳で重度の脱毛症が始まってから、悩んだ日々のことを振り返りました。 全部で30回ほ…

有木田 聰 - 外見への悩みを隔離できた人

20歳で重度の脱毛症が始まってから、悩んだ日々のことを振り返りました。 全部で30回ほどの連載を予定しています。

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第1話 はじめに

今から数十年前の話です。 私が20歳の頃、重度の脱毛症が始まりました。 ただのハゲというよりも、もっとひどい状況です。なぜか、片方の眉毛が全てなくなるところから脱毛症が始まりました。そして、前頭部、後頭部にも虫食い状に脱毛症が広がり、明らかに病的な見た目になってしまいました。 原因は不明でした。強度のストレスだったのか、食べ物による強いアレルギー反応だったのか、何かの原因はあったのでしょうが今になってもその理由は分からないままです。 そして、数十年が経過した今も、状況は全く改

    • 第22話 外見という社会的ステータスの本質

      ここまで自分自身の悩みと活動を振り返った上で、大事な論点を整理したいと思います。 外見というのは、いったいどこまで大事なのでしょうか。 外見より中身が重要なんて、そんな浅薄な理想論を語るつもりはありません。外見は確かに大事です。 特に初対面の人と会う時には、良い外見を持っていることは効果的です。 ハンサムや美人であれば、異性の関心を惹きつけることができます。 ビジネスでの出会いであっても、精悍でさわやかな人が良く通る声で説明すれば、それだけで説得力が増します。 ここでの外

      • 第21話 新しい居場所への初日

        部活時代の友人が、私が手持ち無沙汰にしているのを見かねて、活動場所を紹介してくれました。スポーツを楽しむサークルでした。 私は、あまり前向きな返事をしなかったのを記憶しています。 自分自身の心の浮き沈みが激しいので、多数の新しい人と出会って交友関係を築いていくことに自信がなかったのです。 でも、友人はそんなことお構いなしでした。 「まあ、いいから。とにかく行くぞ。明日も練習があるから、一緒に行こう」 そんな感じでした。強引にひきずられるような形で、私はサークルの練習に初めて

        • 第20話 他人が自分の外見を気にしていないことに気付く

          前述したとおり、当時の私は他人からの視線をとても恐れていました。 表面的には何もないように接してくれますが、心の裏側では私の見た目を憐れんでいる。だからこそ、そのように冷遇される状況に自分の身を置くことが、非常に辛かったのです。 でも、それは真実ではありませんでした。 みんな、他人の顔に注目し続けるほど暇ではないのです。 もちろん、脱毛していて可哀そうだなということには気づきますが、それだけなのです。それ以上に、憐れんだり、さげすんだり、自分と区別するなんてことはしていない

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          第19話 それでも折れやすい心

          逆説的自信という考えは、素晴らしいアイデアでした。 でも、そのアイデアを思い付けば、すぐに実行できるというものではありませんでした。 ピアノを買えば美しい音楽を奏でられるわけではなく、ピアノを弾きこなせるように練習が必要ということに似ています。今まで自信を喪失していた自分が、新しく手にした「逆説的自信」というものを使いこなすには、練習が必要だったのです。 外に出る機会を増やそうと思い、新しくアルバイトを始めることを考えました。 大学にある学生相談所に行けば、いろいろなアルバ

          第19話 それでも折れやすい心

          第18話 立ち直りのきっかけとなった「逆説的自信」という考え方

          自分自身に最も必要なことは、自信を持つことだと思っていました。 でも、今の外見では、とても自分に自信を持てません。 でも、この状況を逆説的に捉えて、「こんなに不遇な状況にあるにもかかわらず、陽気に強く振る舞える自分」を演出することで、自分に自信を持とうと思ったのです。 少し分かりにくい考え方なので、ちゃんと説明しますね。 身の回りにハンディキャップを負っている人がいると想像してください。身体的な障害でも、社会的な障害でも、どんなハンディキャップでも構いません。 そういう人は

          第18話 立ち直りのきっかけとなった「逆説的自信」という考え方

          第17話 本来の世界に戻りたいという切実で叶わない願い

          脱毛が始まってから、半年以上が過ぎました。 症状は進み、右側の眉毛はほとんどなくなってしまいました。 一方で、左側の眉毛は少し脱毛で短くなったものの、まだ生え残っているところも多い状態でした。眉毛は目立つ部分なので、左右非対称というのは変な状態です。両方とも抜けたほうが、まだ違和感が少なかったのかもしれません。 後頭部や側頭部も、虫食い状の脱毛が進み、病的な見た目のままです。 家に閉じこもりがちでした。 大学に出て多くの人目に晒されることも嫌になり、講義にもほとんど行かなく

          第17話 本来の世界に戻りたいという切実で叶わない願い

          第16話 閉じこもる息子を心配する両親

          もちろん、私の両親も、私のことを心配していました。 体育会の部活を辞めてからというもの、大学の近くで一人暮らしをしていてもやることがなく、実家にいることが多くなりました。 ちょうど運転免許を取ろうとしていた頃で、実家近くの教習所に通ったという理由もあるのですが。 教習所に行っている時間以外は、何もすることがなくぼーっとしていました。 部屋に引きこもって、本を読んだり、本すら読まずに無為に過ごしたりしていました。 はたから見ればどう見ても鬱状態でしょう。でも、自分自身では鬱で

          第16話 閉じこもる息子を心配する両親

          第15話 変わりすぎた私の顔

          同窓会というような大きな集まりではなかったのですが、高校時代の友人が20名くらい集まるようなイベントがありました。 正直、そこに行くのがとてもイヤでした。 いろいろな理由をつけて欠席しようと思いました。でも、うまい欠席の理由も思い当たりません。1年ぶりの再会なので、みんな無邪気に楽しみにしています。 それに、自分自身の境遇を受け入れて、外に出なければいけないという思いもありました。 自分が脱毛でひどい見た目になっていることは、私の友人を通じて多かれ少なかれ伝わっているはずで

          第15話 変わりすぎた私の顔

          第14話 常識的な内容なのに今も忘れられない言葉

          高校を卒業した直後は当時の友人と頻繁に連絡を取っていましたが、色々な大学に散らばってそれぞれの生活を送る中で、だんだんと連絡も途絶えがちになります。 もちろん、仲が良かった数名の親友とは、ずっと連絡を取り続けていました。 大学での友人と同様に、自分のことを心配したり励ましたりしてくれました。 地方の医学部に進んだ友人がいました。彼が住むところに遊びにいき、城址やサルが集まる公園などを案内してもらったことがありました。 彼は、私が外に出ることを嫌がって自宅にこもりがちになっ

          第14話 常識的な内容なのに今も忘れられない言葉

          第13話 不釣り合いな場所への冒険

          友人たちは相変わらず部活などで忙しくしていましたが、暇を見つけて色々なところに誘い出してくれました。 とてもうれしく、とても悲しいのが、合コンの誘いでした。 1人だけで悩み続ける毎日は辛く、自分に彼女ができればどんなにいいだろうと考えます。でも、一方で、こんな外見になってしまった自分に、彼女ができるはずなんかないと冷静に考えます。 そういう葛藤を知ってか知らずか、友人たちは色々なツテで合コンをセットしてくれました。 4対4とかで飲み会をするのです。 こんなことを言うのは

          第13話 不釣り合いな場所への冒険

          第12話 小難しい本を読むという自己再構築

          とにかく、時間だけはある毎日でした。 何をしても自由。テレビやゲームにうつつを抜かしても、誰からも咎められません。 でも、理性的に考えることもありました。 外見に全く自信を持てなくなってしまったからには、外見以外のところで自分の強みを見つけなければならない。ゲームとか、無駄なことばかりをしているわけにはいかない。 こんなふうに、自分を叱咤激励したのです。 どういう強みを持つべきなのだろうか。 やっぱり、頭がよくないといけないだろう。 いろいろな学問に興味を持って、自分の知

          第12話 小難しい本を読むという自己再構築

          第11話 まずは体への負担を減らす

          脱毛症があまりにも急速に悪化したこともあり、拘束時間が長く体への負担が大きい体育会の部活を辞めることを決意しました。 部活を辞めることを言いだすときには、勇気が入りました。 普段は怖い部長に、練習終了後に話をする時間をもらい、自分がなぜ部活を辞めたいと思ったかを正直に話しました。 自分でも本当のところ、部活を辞める理由がよく分かっていませんでした。 いろいろな気持ちがごちゃ混ぜになっていたのです。 ① 脱毛が急速に進み原因不明の中、体を休めたい ② 部活の練習漬けの毎日で

          第11話 まずは体への負担を減らす

          第10話 悲しみにひたるという麻薬

          脱毛症が始まってから数か月が経ちました。 最初は、一時的な症状だと思っていました。 症状は急激に進んでしまったけど、治りだせば急速に元通りになるだろう。そういう希望的な観測を持っていました。 でも、何か月たっても症状は改善しないどころか、じわじわと悪くなる一方です。 このまま治らないのではないか。 一生、この頭のままで過ごすことになるのかもしれない。 そういう恐怖感や諦めが脳裏をチラつきはじめました。 このような八方ふさがりの行き止まりに入ってしまったとき、どういう行動を

          第10話 悲しみにひたるという麻薬

          第9話 「深いわー」という言葉の温かみ

          脱毛症が始まってからというもの、本当に不幸の連続でした。 何も良いことがない。一日中、劣等感にさいなまれる。そういう日が続きました。 でも、とてもありがたいことに、私は良い友人たちに囲まれていました。 体育会系の部活に入っていたので、同期の連帯は強くなります。 午前中は大学の講義等もありますが、午後になれば練習漬けです。ハードな練習の中では、悩みなど感じている暇すらありません。陽が落ちてとっぷり暗くなるまで練習に打ち込み、先輩に怒鳴られ、同期の友人と愚痴をこぼすという日常で

          第9話 「深いわー」という言葉の温かみ

          第8話 外見を失った悲しみを象徴する夢

          脱毛が止まらないことに思い悩む日が続く中、ある夢を見たことを覚えています。 夢というのは、起きてからしばらくすると完全に忘れてしまうことが多いですよね。でも、この夢は当時の自分の心境を表す象徴的なものだったので、今でも断片的に覚えています。 その日、夢の中では髪の毛が急に生えてきました。 ところが、ものすごく太い髪の毛なのです。直径1mmとか2mmくらいありそうな、極太の髪の毛。そして、伸びる速度がとてつもなく速い。朝、髪の毛が伸びてきたなあと思えば、夕方にはもう散髪しなく

          第8話 外見を失った悲しみを象徴する夢