死刑と人の罪 《感想》「HER MOTHER 娘を殺した死刑囚との対話」

みな罪を背負ってる、その罪をだれがどの立場で裁くのか……

みな複雑な胸中を抱えているが、主人公の心に一番寄り添えって見ることが出来た。
己の目の前で起きた事件にもかかわらず、夫婦の代表としては旦那が裁判に立ち、検察は勝つための証拠だけで満足し、犯人の弁護士も同様だ。
目撃者で恐怖を体験し、娘を亡くしたことを7年経っても諦められない主人公が、だ。
彼女が蚊帳の外の自分に耐えられず、娘の携帯を手放せないのも無理はない。
なぜ蚊帳の外なのか?人がみな小さな嘘を抱えたからだ。

それを持っていれば、いつか開くかもしれないパンドラの箱であり、それが事件の中心の象徴だから。
旦那さんは7年経ち、既に娘への愛を過去形で語ってる。
過去についての言及は少ないが、自分が娘にちゃんと向き合わず危険をはいしたり目を配らなかった後悔が消えないので主人公よりも限界が早かった。
自分を許せない気持ちから逃げたいから主人公を詰る、宗教に逃げる。(さらに、宗教が悪いと思えないのだ)ただその向き合いにも逃げたのだ。

弟の下りが最も辛い。
邪魔なものを排除すれば自分が安心。
これは死刑に対して最も多い反応ではないか。

一度お手つきしたカードはもう社会にリスクしかないという切り捨て、自分じゃないからいい。
そうして死刑制度も、人の心も救われない。
人権について、本当の人の心に向かい合わず、ただそれを知っている主人公だけが真実に近い。

犯人も自分は悪いと洗脳され、そういえば死ぬまでは許される、それについて本当に自戒する必要性がない。真実もだれも明かしてくれない。
真実などだれも必要としていない。

みな苦しい、だが本当の心について目を向けないといけない。
名作だった。だれも正しくなく、ただこの物語は真実に近しい、とてもひどくて優しい映画だ。
私刑的に行われる死刑制度はもともと批判的だが、なおそれを強くそうだと感じるようになった。
未だ中世近代の見世物的な死刑から脱せていない司法は未熟なのだ。

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