僕の夢よ行け、時を超えて行け。

僕の夢よ行け、時を超えて行け。

 将来が見えなくて不安と寂しさに押し潰されそうに暮らしていた、世間一般の中高生と同じ様に、僕も夜な夜なラジオから聞こえる、勇気がもらえる歌と、背中を押してくれるお話しを聞きながら毎日暮らしていた。歌はいつもそばにいてくれて、いつも語り掛けてくれて、手を差し伸べてくれた。自信がなくて自惚れて、ネガティブに考えて、前よりも後ろを見て、上手くいかないのは自分のせいで、でもそんなことは認められなくて、何もかもが全て人のせいで、きっといつか誰かが引き揚げてくれるんだと、ただただ、何もせずにじっと待っていた。いつかきっと君の努力が報われる。人々は皆優しくて暖かい。君の夢を抱きしめて前へ進もうじゃないか。そんな歌に支えられていた。

人の話に右往左往する毎日

 出会う人がみんな自分よりも優れて、話しかけられる人がみんな正しくて。それでいて自分が一番でいたくて、人の話を否定して、それなのに聞いた話をまるで自分の意見の様に、自分が見つけたかの様に、さも自慢げに口にして、そうやっているうちに、人の意見が自分御意見になっていった、思春期の戸惑いが、自分で余計に迷い続ける日々に流されていく。
 そんな中でやはり人の噂話であの歌い手の歌は、歌の中だけで綺麗事を並べ、生意気で先人への話し方も大柄で、人柄と歌の中はまるで別人。そして政治家との関係性をあらわにして、あんな奴の歌など聞けやしない。そんな世間の噂話をそのまま僕も口にして、あんなに支えてくれた歌たちを否定し、封印して、そして忘れ去っていた。

やがて自分の価値観が世界を包む

 それから何十年もの月日が過ぎて、そして僕もいろんな出来事に出会い、人に会い、いろんな屈辱を味わい、いろんな壁を乗り越えて、いろんな人に支えられて、様々な痛みに耐えながら、そしていろんな人の痛みがわかる様になり、人々に寄り添うことを覚えて、いくつかの人々に寄り添ってもらえている。
 それは同じ価値観を胸に秘め、同じ価値観を大切に、自己犠牲も厭わない、とても少ない数だけれど、とても大切な人々と。そうやってひそやかに暮らしているある時に、またそんな歌い手の方の歌に触れ、あの懐かしくも、寂しくも暖かい思いに触れた。そして今度は再び自分の価値観を通して、あの頃のいろんなものをもう一度、あらあためて見る機会を得た。

自分の言葉で語りたい

 あの頃に聴いていた歌詞と、あの頃のあの歌い手が語っていた言葉が、何十年の時を超えて、今もう一の僕の物差しが測り直している。虚しさや、悲しさ、暖かさや、夢や希望を。そして人に受けた恩は決して裏切ってはいけない。受けた恩を大切に、そして自分の言葉に置き換えて、その受けた恩をまた他の人にも受け継いで、そしてまた新しい出会いを呼んでくれる。そしてあの頃に聴いた歌や歌詞、あの歌い手が語った言葉は、こんな時間が経ってもずっと僕の胸の奥でじっと壊れずにそこで待っていた。

たとえ背を向けてもその背中に向けて語り続ける

 そんな恩を大切にする彼は、デビューのきっかけになった地元ラジオ局で今でも番組をもって、今でもファンに向けて語りかけている。そして僕はたまたまその収録された番組から彼が語りかけるのを耳にした。「俺も馬鹿じゃない、いろんな批判も受けた。ファンの人たちがその事で離れてしまったのも仕方がない。けれど俺はあの人に恩を受けた。その恩を返さないといけない。だから、俺に背を向けてしまったファンの人たちへ、俺はずってとその背中に向けて歌い続けるよ。いつかまだ振り向いてくれるまで、ずっと歌い続けるよ。」と、話していた。そうなんです。彼がずっと背中に向けて歌い続けていてくれたことなど気がつかず。けれど何十年の時を超えて僕はようやくそれに気がついた。今もまたあなたの歌を聴いています。そしてあの頃のあなたの言葉を噛み締めています。あの頃僕が抱いた懸念や失望も、今の僕の価値観で見つめ直すと、決してあなたは僕を裏切ったりはしてなかった。それらは全て世間の噂で耳にした言葉ばかり。

多くを語りながらも多くを聞き取れているだろうか?

 あなたは歌の中はもちろん、様々な場面で語る時に、そこに本心は語られているんだろうか。少し恥ずかしいから、少し照れくさいから、ちょっと生意気で冗談を交えて語る中に、少し誤解を持って受け取られる話し方になってはいないか。好意を持って聴いてくれる方にはきっと真実は伝わるのであろうが、少し疑念を持って耳を向けると、そこにある真実にはたどり着かないのかもしれない。僕はもう一度あなたの言葉と、あなたの歌詞に耳を傾けて、そこに込められたあなたの思いを感じ取ってみようと思います。特にさらっと聞き流されてしまう、アルバムの中に秘められた静かな静かな歌に耳を傾けてみます。
 そいえばあなたはいつもステージの上でも、アンコールが終わり最後の最後に、いつもそんな静かに静かに語りかける、派手さはないけど暖かな歌でファンを送り出していましたね。
 あなたは彼の歌を聞きますか?いろんなヒット曲がありますが、では2番目に好きな歌はどれですか?そうやって色々考えると、いろんな曲が頭を駆け巡ります。そんなセカンドセレクションをひとつひとつ、もう一度聴いてみます。僕の明日のために。


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