思考の原点

良く考える人だと言われる。

そうかもしれない。いつも何か引っかかることをつらつらと考えている。
原点は中1、12歳。
これだけははっきりと分かっている。

本を読んでいたら、点いていたTVからコーヒーのCMが耳に飛び込んできた。
あまりに鮮烈な声だったから画面に目を向けて、佇んでコーヒーを飲む男性に釘付けになった。
CM曲を提供し、自らも画面に出ていたその人が、オフコースを解散してソロになったばかりの小田和正さんだった。

ピアノを習っていた私は、次のレッスン日に『あのCMの曲が気になっている』というようなことを先生に話した。
先生はとても驚き、そして翌週のレッスンでオフコースの曲がたっぷり入ったカセットテープを3本も渡してくれた。

偶然にも先生はオフコース時代からのファンだった。

先輩ファンからの沢山の情報を得て、私は小田さんの曲にのめり込んだ。
歌声と普段の声のギャップ、余分な贅肉が削ぎ落とされたようなシンプルで美しい日本語の歌詞、そして一番引き込まれたのは、彼のモノの考え方だった。
もう絶版になった本や昔のファンクラブの会報を貸して貰い、隅から隅まで読んだ。

それから私は30歳離れた人の背中を追いかけ始めた。

中1の娘が、父親と1つ違いのアーティストを信奉し始めて、両親はさぞかし複雑な心境だったと思う。
けれども両親は、特に何も言わなかった。
私はといえば、その頃出版された彼のエッセイ集をひたすら読み続けた。
42歳の大人の物の考え方、特に物の捉え方がとても素敵だったから。


小田さんはいつも敢えて多くは語らないけれど、要点をビシリと突いた事を言う。
妥協しないし流されない。
冷静で客観的。
少しシニカルで、厳しそうだけれども本当はとても優しい。
何か問いかけたら、直ぐに的確な(そして小田さんらしい)答えが返ってくる。
いつもジェントルで、育ちが良いのが透けて見える。
体育会系だけれど、野性的ではない。
知性と理性の人。
そしてとてもピュアで率直だ。


私の好きな男性の基準は、つくづく小田さんなのだな、と書きながら思っている。

小田さんの考えが知りたくて、自分なりに思考を繰り返すうちに、常に物事を多角的に考えるようになった。
ちょうど30歳差の小田さんに出逢った時、彼は今の私と同じ歳だった。
ようやく年齢的には追い付いたけれど、あの頃の小田さんの思考に自分は追い付いたのだろうか、と時々今も当時の小田さんの書いたものを読み返したりしている。

音楽は何が好き?と訊かれても、私は初めから小田さんの名前は出さない。
『ああ、彼の歌素敵だよね』とか安易に同意を貰いたくないという変な意地と、音楽が原点だけれども小田和正という人の人生観や生き方に影響を受けた部分の方が大きい、と自負しているからかもしれない。

恋愛とかそんな次元ではなく、小田さんのようなひと(それは男性とは限らない)にもし出逢えたら、時間を共有してみたいと思う。
何を考え、どう生きているのか知りたいし、取り留めなく話してみたいと思う。

いつか出逢えるかもしれないその人の為に、自分も沢山の事を考えて自分を磨いていくのだ。
これからも。


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