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バテンカイトス備忘録 その①


昨年、2021年。
「今年はアルバムをリリースしたい」

その気持ちでいっぱいだった。ソロになってからMVやシングルリリースや数少ないライブや配信をしていたものの、まとまった音源もないまま月日が過ぎて行くことに焦りを感じていたからだ。

何かを作り出すことは得意なんだけど、ひとりで物事を進めることに関しては本当に苦手だということを改めて確信した頃だった。時代は進む。世の価値観は変わる。人は死ぬし、友達はみんな先を行く。俺は何がしたいのかわからなくなっていた。酒を飲んで、好きな服を着ても、何も満たされなかった。

俺は音楽家で在りたかった。
多趣味で飽き性で器用貧乏な自分だけど、誰かと音で会話をすることが最も自分らしい時間だと確信している。

事務所に所属していた頃はあらかじめ年間スケジュールが決まっていたから、いつも期限があった。でも、今の俺には何にも追われない膨大な時間があった。誰かに決められた期限はない。曲のストックはそれなりにあった。

その中から今出したい曲をブラッシュアップして、夏にはレコーディングまで漕ぎ着けた。ヲクヤマ、ユウスケさん、周平。サポートのみんなが定期的に集まってくれて、みんなでアレンジして、10曲が揃った。今までにないくらい一曲一曲を丁寧に作ったと思う。

レコーディングはジョゼの「Sekirara」からお世話になっているいろはスタジオの林田さんにお願いすることにした。何の後ろ盾もなく全て自費でアルバムをレコーディングすることには覚悟がいることだったので、正直ここまでするかどうか悩んだ。(今の時代レコーディングスタジオでやらなくても、セルフで安価でそれなりに良いものは出来るっちゃ出来る)

でも、またあの場所で、林田さんと時間をかけて音源を作りたかった。一人になってからやりたかったことの内のひとつだったので、小さな夢が叶った。正直いろはスタジオでコーヒーを飲んで煙草を吸っている時、何回も泣きそうだった。頼れるメンバーとまたここに戻って来たんだなって。

形として残す音楽の過渡期。
「今回おそらく配信リリースになるだろう」
そう思いながらレコーディング期間に入った頃。

お世話になったとある人から「まだ何も具体的には決まってないけど、本当に好きな音楽を届けるために独立してレーベルを立ち上げる」という連絡があった。

すぐに電話した。世間話もほどほどに「今レコーディングしています。GIOVANNIと一緒に戦ってほしいです。音源聴いてください」と伝えた。

すぐに、出揃った曲たちのプリプロを聴かせた。

しばらくすると返信が来た。

「邦楽史に残る作品を世に放ってやろうぜ。文句無し、最高で、愛と苦しみが沢山詰まってるアルバムだよ。こんな作品は、広く世に広げるべきだよ。CDで出そう。」

この熱い男の覚悟と共に羽深創太ソロプロジェクト、GIOVANNI初の全国リリースに向けて時計の針は大きく動き出すのだった。GIOVANNIはes recordsに所属した。

レコーディング期間は本当に楽しかった。
プリプロをしっかりやっていたのと、みんな演奏が上手い人たちなので、とにかく順調に進んだ。エンジニアの林田さんはあの頃と変わらず優しいし、変わってないように見えてちゃんと自分の音楽的感性をアップデートしていた。ほんとにカッコいい人だ。

ヲクヤマは音楽制作において本当に視野が広い。アレンジの相談や演奏や歌のテイク選びに関してはヲクヤマが側にいてくれて本当に良かった。いなかったらやってない。

ベーシック(ドラムとベース)に関してはユウスケさんと周平の二人が9曲を1日で終わらせた。これは本当にやばすぎる。意味がわからない。おかげでスケジュールが一日巻いた。


ボーカルを撮り終えたあたりには今年特に短い秋が終わり、冬になろうとしていた。

プリプロから考えると制作に半年くらいかけたフルアルバム「batn qaytus」が遂に完成する。

アルバムのタイトルは、2020年にコロナ絶頂期に中止となったGIOVANNI企画、それでも世界が続くならとのツーマンライブ「くじら座ゼータ星」をラテン語訳にした。

自分で言うのもなんだけど、この10曲はマジで今まで出したどの音源よりも納得がいっている。一生誇りに思える作品になった。


縁があったレコード会社であるダイキサウンド各所担当さん達は音源にとても熱意を持ってくれている。頼れる味方とサポートやリリースに関してのミーティングを繰り返し、全国流通と配信が具体的に決まって行った。

「どうにかして広めたい」と思ってくれる人が増えていくと、まだ自分が音楽をやっていることに価値はあるんだと実感する。血の通った人たちと、血の通った作品を世に出せることを幸せに思う。

全国流通…6年ぶりだって。長かった。
ひとりで歩くとすごく遅いんだな、俺は。

でも、仲間がいると早く歩ける。
誰かと音で会話することが推進力になる。
何より楽しい。

続けてて良かった。


ジョゼが終わって離れて行った人も、最近CDを買ってない人も、是非手元に置いて欲しい作品です。


つづく。(次回はアートワークや曲のこと)

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2022/03/09 release

GIOVANNI Debut full album

「batn qaytus」(バテン・カイトス)

ESRD-0006
¥2,750 (tax-in)

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予約するとお店の人に良い噂が広まるらしい。

たのんだぞ
https://tower.jp/item/5333941/batn-qaytus


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