「楓の栞」

机の引き出し  その奥から出てきた
学生時代に よく読んでいた文庫本
お気に入りだったはずなのに  いつからか
何年も触れることさえなく 仕舞いっぱなしだった

懐かしくてページめくる
まるでアルバム開くように
その瞬間   何かが隙間から
はらり  宙へと舞った

床へと着地する刹那に
あの頃へと時が戻って
私はもう一度  あの制服を着ている
校庭の一本の大きな木
その下に座り本を読んでる
ふと風に舞い落ちた 楓の葉っぱを
押し花にして作った栞


学校のシンボルだった あの木の
下で読書するのが私は好きだった
突然ふわっと吹いてきた風に乗って
開いていたページの上  そっと ひとひらの葉が

それをずっと栞代わり
大切に挟んでいたけど
ある時  本を落としてしまった隙
ひらり  飛んでしまった

慌てて取りに追いかけたら
偶然  あなたが拾ってくれた
こんなことあるなんて  夢じゃないかと思ってしまう
色付く前の楓の葉を
こんな大事にしてるなんて変?
それでもいい   思い出も枯れないように
押し花にして栞にしよう


ずっと遠くから密かに
恋い慕っていた あなたと
ほんの一瞬だけ同じ時間を
過ごせた  それだけで
今でも覚えてるほど
とてもかけがえのない思い出

床へと着地した栞を
そっと拾うと時が戻って
私は思い出も一緒に本に挟み込む
校庭の一本の大きな木
今も変わらず  そこに在るように
あなたへの想いまで  確かにここに
失くしたくない 楓の栞


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