拝啓 あみ様(作詞のおすすめ)5

【これはシンガーソングライターの卵である「あみ」さんに、作詞のアドバイスをしたものです。ちなみに、私は別にプロの作詞家ではありません。】

何だか「JPOP史講座」みたいになってきました。そろそろ元に戻しましょう。
ユーミンについてもう少し。
前回言い忘れましたが、ユーミンと拓郎、陽水には「オシャレ」以外にも、大きな違いがあります。それは「ドラマ性」です。「ひこうき雲」も「12月の雨」も、映画監督なんかだったら、ちょっと映画を1本撮りたいようなドラマ、物語がありますよね。ユーミンの歌には、そういうドラマ性のあるものが多く、荒井由美時代の「あの日に帰りたい」「ルージュの伝言」なんかもそうですが、その傾向は、松任谷由実になるとより強くなり、たとえば「ノーサイド」「リフレインが叫んでいる」「埠頭を渡る風」等々、歌の歌詞内容でそのままPVが作れそうな曲が多いし、「恋人がサンタクロース」なんかは、はっきりとストーリーがあります。
先日読んだ教育関係の文章に、「女の子はストーリードリブンが高すぎる傾向がある」と書いてあって、「ドリブン(driven)」という言葉は最近流行ってるらしいのですが、「driveの過去分詞」で「それが原動力になること」という意味らしいです。訳すのが難しいのですが、ここでは「ストーリー仕立てで考える傾向」という感じでしょうか?
確かに、男性の歌にもストーリーがないわけじゃないけど、女性の歌の方によりその傾向が強い気はしますね。
ということで、ユーミンの歌には、言葉そのものの豊かな表現力と、物語に託して語る力の両方があるようです。
そんな、ドラマ性のある歌の1つに「卒業写真」があります。

悲しいことがあると開く皮の表紙 卒業写真のあの人はやさしい目をしてる
街で見かけた時 何も言えなかった 卒業写真面影がそのままだったから
人ごみに流されて変わって行く私を あなたは時々遠くで叱って

あの頃の生き方をあなたは忘れないで あなたは私の青春そのもの

この歌を聴くと、高校時代なんかの口にできなかった切ない片思いをイメージしますよね?
ところが、実はどうも違うみたいなんです。
ちょっと歌詞の話から外れて申し訳ないけど、ちょっと面白い話。
荒井さんの高校は、女子校で、同級生に男子はいませんでした。この歌の「あの人」は、実は先生なんです。しかも、女の先生。でも、そっちの方の話でもありません。ネットで調べると、美術の先生とか書いてあったりするんですが、それも違うみたいなんです。確か本人が言ってたラジオを聞いた記憶があるんですが、体育の先生で生徒指導のめっちゃこわいおばはんらしいんです。荒井さんは、元々美術系の子で、体育は苦手。それに不良じゃないけど、優等生でもなかった。だから、結構他の子なんかと一緒にしょっちゅうどなられてたそうです。でも、よくあるじゃありませんか? そういう鬼みたいな先生で、実はほんとはやさしい人みたいな話。彼女は、ずっと苦手で嫌いだったんですが、何かのきっかけでその鬼先生の優しい一面を見てしまい、それ以来あんまり腹が立たないようになったらしいです。で、荒井さんは高校を卒業したんですが、そんなに好きにもならなかったんだけど、でも、印象に残る忘れがたい人になったんですって。
その話を聞いて、私はずっこけました。

閑話休題。
もうちょっとだけJPOPの歴史。
この荒井由美の登場によって、現代につながる大きな流れはできました。
前に言ってた「日本語ロック論争」の方は、その後、キャロル(矢沢永吉のバンド)が登場し、それからサザンオールスターズの登場が決定打になって完全消滅しました。そして、当たり前に日本語でロックが作られて行きました、とさ。
他にも、かぐや姫などの「四畳半フォーク」とかアリスとかありますが、私の好みではないし、あなたにも関係なさそうなので省略しますね。
女性シンガーで言えば、中島みゆきを挙げなければならないのですが、私はあんまり詳しくないんですよね。
古い歌ですが1つだけ。

マリコの部屋へ電話をかけて 男と遊んでる芝居続けてきたけれど
あの娘もわりと忙しいようで そうそう付き合わせても いられない
土曜でなけりゃ映画も早い ホテルのロビーもいつまで居られるわけもない
帰れる当てのあなたの部屋も 受話器をはずしたままね話し中
悪女になるなら 月夜はおよしよ 素直になり過ぎる
隠しておいた言葉 ホロリこぼれてしまう(行かないで)
悪女になるなら 裸足で夜明けの電車で泣いてから
涙ホロホロホロホロ 流れて 枯れてから

女の付けぬコロンを買って 深夜の茶店(さてん)の鏡で うなじに付けたなら
夜明けを待って 一番電車 凍えて帰れば わざと捨てゼリフ
涙も捨てて 情けも捨てて あなたが早く私に愛想をつかすまで
あなたの隠す あの娘のもとへ あなたを早く 渡してしまうまで

                       中島みゆき「悪女」

うーん。お上手ですね。もうプロの作詞家のお仕事です。見ての通り、完全に「ドラマ仕立て」の作詞ですね。そして、詞の作り方は演歌のそれです。(悪口で言ってるんじゃないですよ)

さて、その他の歌詞となると、注目しておきたいのは、やっぱりサザンの桑田と忌野清志郎かな?
2人共に登場してきた頃は、かなりゲテモノ扱いされていたんだけど、よく見ると、結構オーソドックスで上手な詞を書きます。私は、特に清志郎を評価しますね。

昨日はクルマの中で寝た あの娘と手をつないで
市営グランドの駐車場 二人で毛布にくるまって
カーラジオからスローバラード 夜露が窓をつつんで
悪い予感のかけらもないさ
あの子の寝言を聞いたよ ほんとさ 確かに聞いたんだ

カーラジオからスローバラード 夜露が窓をつつんで
悪い予感のかけらもないさ
ぼくら夢を見たのさ とってもよく似た夢を

                RCサクセション「スローバラード」

これはドラマ仕立ての歌詞ですね。「悪い予感のかけらもないさ」「あの子の寝言を聞いたよ ほんとさ確かに聞いたんだ」「僕ら夢を見たのさ とってもよく似た夢を」が秀逸です。こんな恋をしたかったなあ。

あ、そうそう、忘れちゃいけないのがブルーハーツ。バンド名がどんどん変わって甲本ヒロトが有名だけど、曲作りで言えば真島昌利。この人の歌詞はオーソドックスでとても上手い。言葉選びとメタファーが秀逸です。

ブラウン管の向う側 カッコつけた騎兵隊が インディアンを撃ち倒した
ピカピカに光った銃で 出来れば僕の憂鬱を 撃ち倒してくれればよかったのに
神様にワイロを贈り 天国へのパスポートを ねだるなんて本気なのか?
誠実さのかけらもなく 笑っている奴がいるよ 隠しているその手を見せてみろよ
生まれた所や皮膚や目の色でいったいこの僕の何がわかるというのだろう
運転手さんそのバスに 僕も乗っけてくれないか 行き先ならどこでもいい
こんなはずじゃなかっただろ? 歴史が僕を問いつめる まぶしいほど青い空の真下で

                       ブルーハーツ「青空」

「生まれた所や皮膚や目の色でいったいこの僕の何がわかるというのだろう」がメインテーマなわけですが、歌詞としては「運転手さんそのバスに 僕も乗っけてくれないか 行き先ならどこでもいい」「こんなはずじゃなかっただろ? 歴史が僕を問いつめる まぶしいほど青い空の真下で」が見所ですね。

たぶん、この「青空」に影響を受けて作られたと思われるBLANKEY JET CITYの「悪いひとたち」は、ちょっとドキッとさせられるドラマ仕立ての歌です。歌詞のセンスが独特(アメリカをディスってるけど、あるいはディスるためにアメコミ風)で、クールですね。洋楽のロックの翻訳みたいな感じがしないわけでもない。

悪いひとたちがやって来てみんなを殺した
理由なんて簡単さ そこに弱いひとたちがいたから
女達は犯され 老人と子供は燃やされた
若者は奴隷に 歯向かう物は一人残らず皮を剥がされた
悪いひとたちはその土地に家を建てて子供を生んだ
そして街ができ 鉄道が走り 悪いひとたちの子孫は増え続けた
山は削られ 川は死に ビルが建ちならび 求められたものは発明家と娼婦

すさんだ心をもったハニー ヨーロッパ調の家具をねだる
SEXに明け暮れて 麻薬もやりたい放題
つけが回ってくるぜ でもやめられる訳なんてないさ
そんなに長生きなんてしたくないんだってさ
それを聞いたインタビュアーがカッコイイって言いやがった

お願いだ 僕の両手にその鋼鉄の手錠を掛けてくれよ 縛り首でも別にかまわない
さもなきゃおまえの大事な一人娘をさらっちまうぜ
残酷な事件は いつの日からかみんなの一番の退屈しのぎ
残酷性が強ければ強いほど 週刊誌は飛ぶように売れる
その金で買った高級車 夜の雪道でストップしたその時
ヘッドライトに映し出されたのが 黒い肌に包まれたチキンジョージ
今日もあの気持ちのまま一人で歩いてる 街に真っ白なMILKを買いに行く途中
それを見たバックシートの男は 12月生まれの山羊座で
第三次世界大戦のシナリオライターを目指してる
日傘をさして歩く彼の恋人は妊娠中で お腹の中の赤ちゃんは きっとかわいい女の子さ

ガイコツマークのオレの黒い車は低い音をたてて走る
すれちがう人たちの骨の軋む音をかき消しながら走る
それを見ていたひとたちが 頭の中に思い浮かべるのは
ガードレールに激突したオレの黒い車のガイコツマークが炎に包まれてる場面

BABY Peace Markを送るぜ このすばらしい世界へ
きっとかわいい女の子だから きっとかわいい女の子だから
きっとかわいい女の子だから きっとかわいい女の子だから
きっとかわいい女の子だから きっとかわいい女の子だから
きっとかわいい女の子だから‥‥

すごくニヒリスティックでかっこいい世界観ですよね。こういうやたらと饒舌な歌詞は、最近ちょくちょく見かけますが、もしかしたらこの歌の影響かもしれません。最後の「きっとかわいい女の子だから」のフレーズは、印象が強すぎて夢に出て来そうです。ぜひ一度聴いてみて下さい。

ありゃりゃ、歴史のお勉強は終わるはずだったのに、まだ終わらない。
後、椎名林檎だけはやっとかないとねぇ。

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