手を繋いで、さようなら

大仰に両腕を広げたかと思えば、歌うように言葉を紡ぎだした。
「入水は良い。死ぬなら入水に限る」
「へえそう」
適当に相槌。
死ぬとか生きるとか、私にはよくわからない。生きるならこう、死ぬならこう……そんなこと言われたって、そもそも命が何かすら分かっていないのだから、答えようがないのだ。
ミュージカルでも始めるつもりのような彼から目を逸らす。どうにもそんな気分ではない。
しかし視界から外しても彼は入り込んでくる。無理やりに覗き込んでくる。
「だから、ねえ、僕と入水してくれないか」
「……心中」
「君となら天国にいけそうなんだ」
ぴくり、指先が跳ねる。
なんだか泣きそうな声だった。笑っているのに、そう、泣き笑いというやつ。
生きるも死ぬもよくわからない。けれど、これだけは分かる。
「ばかね、天国なんてどこにもないわよ」
狂ったようにひたむきな純粋。
だから、沈んであげてもいいと思った。
それじゃあ、手を繋いで、さようなら。

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