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≪intermission④≫「人の倫理観に悩まされまた感激もした、ある小さな図書室でお仕事していた頃の話」

              2005.3.9記録  2023.4.21加筆・修正
 
今回私自身の仕事について書いてみたいと思います。
あ、いえ、今はもう辞めておりますので、“かつての”と言った方がいいですね。
 
わたくし、大学で司書課程を選択し資格も取得はしましたが、バブル期前の軽い就職氷河期だったし、そもそも司書の募集はゼロかあっても一人くらいの狭き門でしたので、一旦他の道を歩むしかありませんでした。
よって以前も書いた通り、改めて医療事務の門をたたいたのでありました。
医療事務として働いていたのは、独身時代から長男を産む直前まで。
 
次男が小学校へ入学する年に、当時住んでいた市内のアパートから引っ越す町の図書室に司書としてアルバイトで働き始めました。
それまで子育てに専念しておりましたが、子どもたちもいよいよ手がかからなくなり、仕事を再開したいなという気持ちも芽生え始めた頃、いいタイミングで仕事の話が来たのです。
 
 
働き始めた当初は公民館の中の一室の小さな図書室で、学校の教室くらいの広さしかありませんでした。
三人のスタッフで、午前と午後のシフトを回していくという働き方で、町としては受付と簡単な貸し出しや棚整理、少ない予算ではあったけど新刊本の選書をしていればいいくらいの仕事内容でした。
その後新しい図書館ができ、本格的な司書としての勤務ができるようになるのはまだ先のはなしです。
 
 
以前も書いたことがあるのですが、ネットでの読書サークルでファンタジー本、YA本を知り読んだりしていたので、ぐっと本には以前よりは身近になっていました。
それらのどちらかというと子ども向けの本は選書をするにも比較的わかりやすかったしネットサークルや雑誌で情報を得ることができていましたが、大人向けの本となると当時はなかなか難しいと感じました。
リクエストがあるもの中心に、話題の本などもチェックしなければなりません。
町独自にニーズが高い本や、利用者の好みの傾向などいろいろと調査しなければいけないようです。
 
実はその直前までに1年間だけ、生協にてカタログに載せるための図書選定のお仕事をやらせていただいていましたが、その経験もすごくためになっていました。(これもアルバイトでした)
 
毎月一度集まって、自分のお勧めする本を10冊ほど選びプレゼンをして、他の選定委員の方たちと審議し定数の本を多数決で決めていきました。(ちょっとしたビブリオバトルみたいな感じと思っていただけたら…)
 
そこで他の選定委員さんがお勧めされる本とそのプレゼンが素晴らしくて、大変勉強になったのです。
3年任期だったけど、結局そちらは辞めざるをえなくなりました。知らない本を知り得たし、やりがいがあったけど仕方ないですね。新しい仕事を一生懸命やるだけです。
 
 
しかし、田舎の公民館図書室って町民のほとんどが利用していないというか、その存在さえ知られていないのだなというのが、当時働いてみて感じたことでした。
一日に20人も来てくださればいい方でしょうか。
(おかげでこのマイナー図書室勤務だった頃、利用者がいない時間を読書の時間に充てることもしばしば…)
 
それでも、返却本の整理や閲覧された後の迷子本を正しい場所に戻したり、月一で発行している“図書室だより”をスタッフで順番に書いたり、その後の公立図書館として生まれ変わった後の仕事にもいい影響を与えてくれました。
 
そんなやるべき仕事はいろいろあっても、狭い中でディスプレイはあまりできず、入り口の扉の窓に飾りつけをしたり、狭い受付に小さな飾りを置くくらいしかできませんでした。
何かテーマに沿った本を何冊も目立つ場所に並べたりなどということもしたかったのですが、とにかく場所がない。
 
そんなこんなでやりたいこととやれることが一致しないままではありましたが、できうることをしていた毎日でした。
 

時には嫌な思いをすることもありました。
 

本の返却期限をゆうに過ぎている利用者に督促の電話をするのも私たちスタッフの仕事でした。
単にうっかり期日を忘れていて、電話するなり
「あ~~!すみませ~ん。忘れていました~。すぐ持っていきます~」
とすんなり解決することもあれば、何度も電話してもなかなかつながらないということもありました。

そういう場合、平日はおそらく仕事で不在でしょうから土曜日や日曜日を狙ってお電話するのですが、そういう方に限って
「はいはい!わかりました!」
と、さっさと電話を切られて、確実に返却してくださるという約束も取り付けられないことが多いのです。
 

またあまりに返却してくださらない方や、電話がどうしてもつながらない方には最終手段で、行政職員さんからハガキを出してもらっていました。
そこまですると、だいたい9割がた返却されるのですが、中にはかなりの強者もいらっしゃって、ハガキを出しても所在不明で戻ってくることもありました。
 
「え!?そんなぁ~~。これって、引っ越しされたってこと?でも引っ越し荷物の中に図書館の本があるの、気づくよね?」
と、動かぬ現実のなか絶望に打ちのめされることもありましたっけ…。
 

返却本が無くなるというのは、このようなレアなパターンくらいしか記憶にないのですが、図書館によってはかなりの問題になっているところもあるようでした。
 

以前地元の新聞に、ある公立図書館で行方不明になっている書籍が相当数あり関係者は頭を抱えている…というような記事が載り、そのことを受けて読者の投書欄に「哀しいことだ…」という意見が寄せられていました。
 
その行方不明の本というのは、返却期限が過ぎても戻ってこないという類のものは含まれていなくて、本当に忽然と消えたものだけでかなりの数あるということらしいのです。
 
その意見を投書した方も、記事になった地域ではなくご自分の住む地域の図書館の司書に聞くと、多かれ少なかれやはりそういう事実があるということでした。もう一地域の問題じゃなく、どこの地域においても懸念される問題なのでした。
 

我が図書室はというと、幸い紛失した本というものは当時ほとんどありませんでした。
しかしながら我が図書室を悩ませているのは、上記にもあるように返却延滞の本の多さ。
 
先ほどの引っ越しをされてしまって、そのまま図書室の本を持っていかれるというような場合は、本人は気づいても「ま、いいや。もらっておこう」と考えちゃうのでしょうか?
その感覚がいまひとつわからないのです。
 

よく利用されるヘビーユーザーの方でも、たまに「1冊だけまだ未返却の本が残っているはずですけど、おうちには見当たらないですか?」と聞いてみることがありました。
するといきなり、謝るじゃなしに「え!?前回来たときは、そんなこと何にもおっしゃらなかったですよ!」と逆ギレされてしまって、こちらの方がなぜだか恐縮してしまう…。
 
もちろんお伝えするべき時に言い忘れてしまったということがあったかもしれませんが、公共のものを借りておいて、なぜ罪悪感が沸いてこないのだろう?という疑問がいつもつきまとうのでした。
 
でもそういう人は少数派ですよ。多くの方は期限をしっかり守ってくださいます。
だからよけいに目に付くのです。
借りていかれるほとんどの人が、返却日を確認して気にしながら帰っていかれるし、1日でも遅れて持ってこられると
「返すのが遅れちゃいました。すみませ~ん」と謝られます。
 
そういう風に言われるとこちらも
「いいえ~。全然問題ないですよ。こうやって返しに来てくださるだけでむしろありがたいくらいに感じちゃいますよ」と、言ってあげたくなります。
 
人間って不思議な生き物ですね。
他人の良心にふれると、めちゃくちゃうれしくなるものだし、寛大になれるのです。
反対に、倫理観が多少欠けている人と接すると、むなしくなってしまいます。
 
そんな人たちはいつでもどこにでも、かならずや存在するのかもしれません。
そんな人たちをいちいち相手にもしてられないのだけど、みんなの税金を使って活用されている公共のものを、ぞんざいに扱われてることを知ったら放っておくこともできないのです…。
仕事としても、人としても。
 

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