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あの日、僕らのラーメン代を払ってくれたおじさんは、30年後の僕だと思ったのだが

僕らが住んでいた町にはゲームセンターがなかった。国道沿い、自転車で20分くらい走ったところにボウリング場があり、そこに併設されているゲームセンターがめっちゃおもろい!とクラスで話題になった。

待ちに待った週末。同級生4人で自転車を飛ばした。当時はヘルメットなんてかぶる必要はなかった。

金持ちのマサヒコはメダルゲーム。メダルを入れた白いバケツに手を突っ込んで、ジャラジャラと鳴らしていた。サトシは自販機で買ったセブンティーンアイスを食べながら、ゲームはやらなくても見てるだけで面白いと言った。タカアキはテレビでみたエアホッケーをやりたがったり、ワニワニパニックを両手でやったり、いつもよりもテンションが高かった。

マサヒコのメダルが全てなくなり、そろそろ帰ろうという話になった。行きの半分くらいのスピードでだらだらと走っていると、一軒のラーメン店が現れた。

「ラーメン食べようぜ」

駐車場の片隅に自転車を停めて、それぞれ財布を取り出す。バリバリッ! マジックテープの音がいつもより大きく響く。駄菓子屋ではしょっちゅう買い食いしてるし、ロッテリアには何度か行ったことがあるが、子どもだけでラーメン屋に入るのは初めてだった。

「チャーシューメンは無理だな」
「俺はギョウザだけでいいや」
「この店って味噌ラーメンがうまいってうちのお父さんが言ってた」
「チャーハン4等分してもいいのかな?」

ドキドキしながら店内へ。お昼のピークは過ぎていたので、店内は空いていた。誰かのお母さんに似ている店員のおばちゃんがニコニコしながら注文を聞いてくれた。

「うめー!」「ラーメン最高!」「毎日食べたい!」などと騒ぎながら、テーブルに並んだ料理は一瞬でなくなった。中学生の食欲はすさまじい。さぁ、腹も満たされたし、帰ろう。

レジに行くと「あのおじさんが全部払ってくれたよ」と店員のおばちゃんが言った。おじさんは「お前ら、仲良くな!」みたいなことを言いながら店を出て、駐車場に停めたトラックへと向かっていった。あっけにとられた僕らは数秒の沈黙の後に「ありがとうございます!」「ごちそうさまでした!」とおじさんの背中に叫んだ。おじさんはふり返らずに片手を上げた。

 🚲 🚲 🚲 🚲

あれから30年が経った。ラーメン屋のカウンターで瓶ビールを飲みながら餃子をつついていると、中学生らしき4人組が店に入ってきた。その瞬間、あの日の光景、あの日のおじさんの大きな背中を思い出した。よし、今日は僕が彼らのラーメン代を払おう……!

レジに立つアルバイトに小さな声で告げた。「すいません、あそこの中学生の分のお会計も、払います」「エ?」「彼らのお会計を、僕のこのお会計につけてください」「ナニ?」

だめだこりゃ。中学生たちに直接話そう。「なぁ君たち。ここのラーメン代、おじさんに奢らせてくれないか?」「え?」「おじさんが君たちくらいの頃、ここで見知らぬおじさんに奢ってもらったんだよ」「何言ってんすか?」「きも」「こわ」「通報しますよ」

僕は自分の伝票だけ支払いを済ませて店を出た。「PayPay♪」というのんきな決済音と、中学生たちの鋭い視線が、背中にはりついたままで。

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