蟹屋の挑戦 蟹アイス
境港で揚がる紅ズワイガニを使ったアイスクリームをつくりたい。
文・撮影・料理/長尾謙一
カニをよく知るからこそできる蟹屋のクリエイティブ
それにしても、随分と試行錯誤しただろう。入れるカニの量は? 甘さはどれくらい? 塩の量は? 何度も試作を重ねてこの「かにアイス」にたどり着いた。蟹屋がつくった紅ズワイガニのアイスクリームだ。
かにアイス
(素材のちから第46号より)
「かにアイス」はデザートだけでなく前菜にも使われるだろう。
アイスには全体量4分の1の紅ズワイガニを惜しげもなく入れる
珍しい物、貴重な物を珍品というが、今回ご紹介する「かにアイス」は、まさに珍品といえる。この「かにアイス」は、鳥取県境港でカニ製品の製造販売を手がける友田セーリング(株)によってつくられている。
「かにアイス」は、材料に紅ズワイガニの他、生クリーム、卵黄、砂糖、天日塩などを使いバニラは加えていない。つまり普通のバニラアイスクリームからバニラを引いて紅ズワイガニを足した味をご想像いただきたい、といってもなかなか想像しづらいに違いない。
カニの価格を考えるとカニはそうたくさんは入っていないだろうと思っていると、そこは蟹屋の意地、紅ズワイガニは全体量の4分の1を入れている。だからカニの風味が濃い。初めて試食した時に一口食べて〝おおっ、カニだ!〟と思わず言葉が漏れた。
それにしてもこの「かにアイス」、外食店では他のアイスクリームとは違う使い方がされるように思う。珍しいカニのアイスクリームとしてデザートに使われる他、前菜にも使われるだろう。
今までに食べたこともなく参考にするメニュー例もないが、とにかく手探りでメニューを試作してみることにした。思いつくままの試作のため、使った素材を並べてメニュー名にした。
〝「かにアイス」チャービル 紅ズワイの棒肉〟は「かにアイス」に紅ズワイガニの棒肉を添え、ただカニのアイスクリームを食べるのではなく豪華さを狙った。チャービルの風味とレモンとの相性がいいと思う。
次は「かにアイス」にグレープフルーツを合わせ、コリアンダーシードを砕いて添えた。コリアンダーの香りとの組み合わせは絶妙だ。
「かにアイス」に合う素材が見えてきた
さて、次の〝「かにアイス」バルサミコソース バジル〟をご覧いただきたい。「かにアイス」にバルサミコソースをかけてバジルを添えた。ただそれだけなのだが「かにアイス」の旨みとバルサミコソースの酸味が重なるとハーモニーが生まれ素晴らしいおいしさになる。カニを食べる時にカニ酢を使うのに似ている気がした。
次は〝「かにアイス」マスカルポーネ ブラックペッパー オリーブオイル バジル〟だ。「かにアイス」は口溶けの点でマスカルポーネのなめらかさによく合うし、カニの風味を邪魔せずミルキーなおいしさを加える。
ブラックペッパーは「かにアイス」の旨みをぐっと引き上げ、オリーブオイルは「かにアイス」の甘みを落ち着いた甘みへと変える。バジルのさわやかな香りもアクセントになっている。
この2つのメニューを試作してみて、バルサミコソースとブラックペッパー、オリーブオイルとの相性のよさを強調しておきたい。
さらに続けよう。「かにアイス」にかんずりをのせ、砕いた岩塩、チャイブを添えてみた。
かんずりのきりっとした辛みが「かにアイス」の甘みを引き締め、上品なメニューになっている。
今度はスモークサーモンで巻いたサワークリームの上に「かにアイス」をのせてみた。もはや一品料理のようになってしまったが、「かにアイス」はサワークリームとも合うし、何といってもディルとの相性が抜群だ。
最後は「かにアイス」をレモングラスのゼリーに合わせた。レモングラスのゼリーは小さく切ってカニの肉と和え、カニの甲羅に盛った。ここにもブラックペッパーをふる。
「かにアイス」がハーブに合うことは試作で分かっていたが、レモングラスとの相性のよさは別格だと思う。
思いつくままに試作してみたが、「かにアイス」に合う素材が少しずつ見えてきた。皆さんがメニューをつくる時のヒントになればとてもうれしい。
(2022年9月30日発行「素材のちから」第46号掲載記事)
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