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昆布締めという魔法

今までにない昆布締め商品をつくるという挑戦は、水揚げから加工、製品化までのスピードの早さと変化のない定温での保管が必要条件だ。真面目にそして熱心に取り組む産地の努力が新商品を生み出す。

文・撮影/長尾謙一 
料理/横田渉 

ナチュラルシー
昆布締めシリーズ 冷凍(全9種)
クロガレイ昆布締め
オヒョウ昆布締め
アブラガレイ昆布締め
天然サクラマス昆布締め
真鱈昆布締め
あんこう昆布締め
平目昆布締め
金華さば昆布締め
天然真鯛昆布締め
(素材のちから第44号より)

〝昆布締め〟という言葉がつくだけで、魚が特別なグレードに引き上げられた気がするのは私だけだろうか。〝昆布締め〟という言葉はおいしい響きを持った魔法の言葉だ。しかし、これは言葉の響きだけではない。〝昆布締め〟は魚の付加価値を確実に高め、刺身で食べることがなかった魚を刺身商材に激変させる商品開発の魔法かもしれない。

〝昆布締め〟がつくり出す、新たなお刺身商材の可能性。

昆布締めが魚の付加価値を高める

昆布締めは魚に含まれている余分な水分を抜き取り、昆布の風味が魚に移りおいしい状態をつくり出す。昆布締めした魚は身が締まり、ねっとりとほどよい粘りと弾力がある。

昆布締めは魚の身を締めると同時に昆布の味を身の中に入れ、まろやかで上品な味わいに仕上げてくれる。昆布のいい香りがふわりと漂い、魚と昆布の得も言われぬ深い旨みを楽しませてくれる。

タイやヒラメ、スズキ、イサキなどの白身魚が比較的によく使われる。

さて、今回は「ナチュラルシー 昆布締めシリーズ」として、クロガレイ、オヒョウ、アブラガレイ、天然サクラマス、真鱈、あんこう、平目、金華さば、天然真鯛の9種の昆布締めをご紹介しよう。

金華さば昆布締めのカルパッチョ

上のメニューは金華さばを昆布締めにした「金華さば昆布締め」をカルパッチョにしたものだ。赤パプリカ、スナップエンドウ、ブロッコリー、黄ミニトマトを焼き野菜にして、薄く切った金華さばと一緒に盛り、オリーブオイルと白ワインビネガー、塩、胡椒でソースをつくってかけディルを添えた。

カルパッチョと言えば白身の魚がよく使われ、通常鯖は使わない。それは青魚である鯖のにおいによるところが大きいのだろうが、この「金華さば昆布締め」は違う。独特のにおいはなく、締まった身は甘みのある脂をたっぷりと持っていて、口に入れると旨みが溶け出すようだ。昆布の香りもいい。

金華さばはブランド鯖だが、昆布締めすることによって付加価値をさらに高め、今までには使われなかったようなメニューにもその実力を発揮することができる。

金華さばのフィレ

さらにオヒョウやアブラガレイ、そしてクロガレイは昆布締めにすることにより、その味わいは刺身商材へと大きく変わる。激変すると言っていい。オヒョウの昆布締めなど、ほとんどの人が食べたことはないに違いない。これらの魚は淡白で比較的に安価なために加熱用の魚として使われてきたが、昆布締めにすると旨みに深みが増し食感も大いに変わる。

さて、今後日本の置かれた環境を考えると、これまでのように魚を望む価格で手に入れるのはかなり難しくなってくるのではないだろうか。新たなメニューを考える時に「ナチュラルシー 昆布締めシリーズ」は必ずお役に立つと思う。
それではご覧いただきたい。

クロガレイ昆布締め

昆布の風味香る小粋な白身に
クロガレイはくさみがなくクセのない白身魚で、熱を入れても硬く締まらないため通常は煮つけ、ムニエル、フライ、塩焼きなどに使われてきた。昆布の風味をまとった透明感のある身は、深い旨みを持ち小粋な味わいだ。

オヒョウ昆布締め

コリコリとした歯ごたえのある食感が楽しめる
もともと日本では目立って水揚げのある魚ではなく、ムニエルやフライなど加熱用として輸入されてきた。昆布締めされた身はしっとりして、とても美しい。旨みがありコリコリと歯ごたえのある食感を持つ。

アブラガレイ昆布締め

アブラガレイのグレードが上がった
もともと脂の多いアブラガレイは身もやわらかく刺身には向いているが、旨みは少し物足りない。しかし、昆布締めによって旨みが増した身は、これがアブラガレイかと驚いてしまう。

天然サクラマス昆布締め

身の食感、脂の甘さ、昆布の香りは文句なし
〝幻の魚〟と呼ばれるラウンドサイズ2.5kgおよび3kgアップの〝天然サクラマス〟を昆布締め。天然ならではの香りと旨みのある脂が、昆布の風味でおいしさのグレードをさらに上げている。このサクラマスは絶品だ。

真鱈昆布締め

八戸産の釣り真鱈の鮮度にこだわる
真鱈も鮮度落ちが早いので、刺身は基本的に産地の味覚。原料は八戸産の釣り真鱈にこだわり、魚体は綺麗で魚に力があるものを選ぶ。透明感のある美しい身には、噛むほどに昆布の香りと旨みが上品に現れる。

あんこう昆布締め

このおいしさはふぐにも勝る逸品
もっちりしていて歯ごたえがいい。白く艶のある「あんこう昆布締め」は、ふぐにも勝る逸品だ。あんこうもあまり刺身にしないため想像がつかないかもしれないが、身がしっかりとしていて旨みがかなり深い。

平目昆布締め

生きた平目を血抜きして使う
トロール原料は使わず、定置網で漁獲される八戸産の生きた平目を血抜きして使っている。淡白で繊細な味わいの平目は、昆布締めにすると魚自体の甘みがしっかりとして、ほどよい身の弾力感がおいしい。

金華さば昆布締め

脂ののった金華さばに昆布の香りが漂う
魚体500g以上の金華さばの魅力は何といっても脂ののりだ。昆布締めによって水分が抜けて身が締まり脂の旨みに濃厚感がある。独特のにおいはまったくなく、昆布のいい香りがふわっと漂い文句なくおいしい。

天然真鯛昆布締め

天然真鯛に生まれる身の粘りと旨み
原料は3kgアップの天然真鯛。もともと真鯛は身に歯ごたえがあり旨みの強い魚だが、昆布締めによって身にねっとりとしたほどよい粘りが生まれ、昆布の風味が旨みに奥行きを加えている。

「昆布締めシリーズ」を加熱調理してみる。

「昆布締めシリーズ」で新メニューのヒントを見つけたい

さて、ご紹介した「昆布締めシリーズ」だが、これを加熱調理してはどうだろう。せっかくの昆布締めに火を入れるのかというお叱りをいただくかもしれないが、失敗は成功のもとである。水分が抜けて旨みを増した魚はどんな味わいになるのか知りたかった。

まずは「金華さば昆布締め」をグリルしてみた。

金華さば昆布締めのグリル

「金華さば昆布締め」にほんの少しだけ塩をしてオーブンで焼き、そこにオリーブオイル、にんにくオイル、にんにくチップでにんにくの強い風味をぶつけてみた。香りの要素、旨みの要素すべてが身の中にギュッと詰まる印象だ。初めて食べる味わいに評価は戸惑うところだが、おいしいのは間違いない。

次に「あんこう昆布締め」を唐揚げにしてみると、揚げることで水分がさらに抜けて、外はカリッ、中の身は弾力感のあるぷりぷりした食感になった。旨みが濃厚だ。

あんこう昆布締めの唐揚げ

最後に、「オヒョウ昆布締め」をムニエルにしてみる。

オヒョウ昆布締めのムニエル

今までに食べた魚のムニエルに比べると明らかに旨みが濃く、バターの豊かな乳の風味がオヒョウをご馳走に大変身させている。こんなにしっかりとしたムニエルは食べたことがない。実においしい。

産地のクリエイティブの重要性

これまで水産加工商品はコストを最優先につくられ流通・販売されてきたが、世界の状況を見ると、もう今までと同じようにはいかないだろう。産地で水揚げされた魚は宝物だ。

(株)ナチュラルシーが産地と取り組む「昆布締めシリーズ」は手間のかかる取り組みだが、彼らの努力はきっと新しい魚のおいしさを楽しませてくれるだろう。これからはコストだけを優先するのではなく、産地のクリエイティブが重要だ。


協力/お問い合わせ:株式会社ナチュラルシー

(2022年3月31日発行「素材のちから」第44号掲載記事)

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