short story series『知らない』 person 38

作・草場あい子

20代。男。電車。結婚式帰り。座らずに壁に寄りかかって外を眺めている。

今日祐介の結婚式だった。

高校時代から付き合ってたコと。

相原さん。

大人しくて、あまり感情が顔に出ない、目立たないコ。

祐介は高1の時、相原さんを好きになった。

一目惚れで。相原さんに振り向いてもらえるように頑張っていた。

相原さんも次第に祐介に心を開くようになった。

そんな相原さんを見て、俺は相原さんのことが好きになった。

誰にも言ってない。

俺の秘密。

相原さんは俺に似ていた。

あまり感情を表に出さない所とか。冷たい奴って誤解される所とか。だから独りでいる所とか。

でも、祐介はそんな相原さんを救い出した。

俺の時と同じように。

だから言えなかった。相原さんに。祐介にも。ほんとのこと。困らせたくなかったから。

今日、2人とも幸せそうだった。

嬉しい。…ことなのに、上手く笑えなかった。

俺はまだ相原さんのことが好きだった。

こんなことなら告ればよかったのだろう。

けど、もし今高校時代に戻れたとしてもきっと告らない。

だって。僕が好きになった時には、相原さんの目には祐介しか映っていなかったから。

告らなかったこと、後悔はしてない。これからもしない。2人が幸せならそれでいいって思うから。

けど、これは自分への言い訳なのかもしれない。

傷つくのが怖い、自分への言い訳。

2018年12月13日

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