short story series『知らない』 person 29

作・橋谷一滴

ゲームの実況動画を見ている
かれこれ2時間
私は特にゲームが好きなわけではないし
このゲームが何のゲームなのかもよくわからないが
洞窟物語
というフリーゲームの実況を
かれこれ2時間
眺めている
流石に長く見過ぎな気がしてならないが
特にやめようとは此の期に及んでも尚
思っていない
昨日、大学が決まった。
卒業まであと半年
毎日おんなじ電車に乗って
毎日おんなじ友達とお昼を食べる
たったそれだけの条件が
揃わなくなる
そう思ったら眠れなくなる
と思っていたら
かれこれ2時間
彼はまだ画面の中で
平和の為にバルログという敵を倒している。
明日も普通に学校だ
午前2時半
視聴人数:3人
まだ起きている人がいる。
バルログを倒しているこの男子は
名前をひろき
というらしく
岡山県に住んでいる。
これはさっき
ツイッターで見つけた
遠いなあ
岡山かあ
と、私は思う。
パッと言われても
場所を思い出せない。
でも
半年経ったら
春になったら
彼も岡山を離れる
彼も昨日、大学が決まった。
私は彼のことを知らない
でも半年経ったら
私たちはおんなじ時間にお昼を食べるのかもしれない
おんなじ校舎の下をすれ違ったりするのかもしれない
そんなことを思いながら
バルログを眺める。
その日まで
私はいつも通り
毎日おんなじ電車に乗って
毎日おんなじ友達とお昼を食べる
だから明日も朝が早い
おやすみ。
と、コメント欄に書き残して
私は寝る。
バルログってなんだよ。

2018年11月30日

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