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#01 歯磨き粉を飲み込む世界。それが宇宙歯科?

Introduction

「歯磨きは普通の歯ブラシで,市販の歯磨き粉です。
磨くところまでは一緒なのですけれども,水やお湯をストローで吸うことができるので,
うがいはそこから水だけを吸って,ぶくぶくして飲み込みます。

タオルやティッシュとかで出す場合もあるかもしれませんがそうするとタオルが汚れたり,ゴミが出たりします。
ゴミの処理は難しいので,私たちは船長からもゴミを出すな,飲み込めと言われていました。

最初は抵抗がありますが,歯磨き粉の成分はそんなに毒なものはないですし,
まあ飲み込んでしまえばいいのではないでしょうか。

歯磨き粉はメーカーに決まりはなく、支給されるのはアメリカの市販品が主ですけれども,
自分で好きな歯磨き粉をもっていくこともできます。」

歯科展望 vol.133 No.2 2019-2
「宇宙におけるCRMと歯科医療 –山崎直子宇宙飛行士に訊く-」より 

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宇宙でカラダはどうなるの??

人類が宇宙へ進出するようになり半世紀が経過しました。

最近では民間宇宙旅行への現実味がますます色濃くなり、近年の宇宙業界のマーケットの成長のスピードは目を見張るものがあります。

様々な宇宙に関する研究が行われている中で、宇宙飛行士の健康の重要性は主要なテーマの一つです。

ヒトの身体は地球の1 Gという重力の環境での生活にフィットするように設計されているため、微小重力状態においては身体機能、健康にさまざまな影響を与えます。

微小重力状態に長く滞在すると、これまで地球上における重力に抗って身体を支えていた下半身の筋肉や骨が働く必要がなくなって細くなったり弱くなったりします。
また、宇宙滞在中は高い線量の放射線被ばくにも晒されます。
宇宙という一見広大に見えて閉鎖空間である場所に滞在することによる精神的なストレスによる影響も無視できません。

他にも、
 飛行中の見当識障害
 平衡感覚障害
 神経と筋肉の協調反応の障害
 着陸直後の起立性低血圧
 心室性不整脈
 心機能の低下
 概日リズムの狂い
 免疫抑制

などなど、身体への影響は数多く挙げられます。

口の中はどうなるの??

では微小重力下における口腔内への影響はどのようなものがあるのでしょうか。

近年の研究で宇宙飛行士が経験する微小重力は、歯や周囲の口腔顔面領域に深刻な影響を及ぼすことがわかってきました。

既存の報告や研究をみてみると、わずかですが、

 歯周炎(歯周病)
 う蝕(むし歯)
 上顎骨、下顎骨の骨量減少
 口腔組織の痛み・しびれ
 唾石や口腔がん発生の発症

など、口腔領域と宇宙に関する報告があります。

今後人類の宇宙進出へのハードルを下げ、民間による宇宙旅行、はたまた宇宙への移住を目論む我々にとっては、口腔領域の微小重力空間における準備・ケア・研究は全身と同様になされることが必要不可欠だと考えられます。


宇宙×医療×歯科

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しかし、この分野における開拓状況は初期段階にあります。

2007年にBalwant Rai博士が初めて「Aeronautic Dentistry(航空歯科)」という言葉を提言していますが、特に専門性は認められておらず、現在日本にある歯科大学には「宇宙歯科」また「航空歯科」といった科目は存在しませんし、歯科医師国家試験にも出題はありません。(2020.6現在、著者調べ)


Introductionに書いたのは、宇宙飛行士の山崎直子さんへのある医学系雑誌のインタビュー(2019年)の抜粋です。

宇宙における口腔への認識の程度、実態のアバウトさを痛感しました。
(宇宙飛行士の方に責任はありませんが。)

歯磨き後に口をゆすぐ水は宇宙では飲み込んでしまうそうです。

地上ではなかなか想像できませんよね。


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歯磨き粉の指定も特にはないそうです。
お気に入りのものを持ち込むことも可能なんだとか。

このインタビューを読んだときにふっと浮かんだ疑問は、

「市販の歯磨き粉は飲用が前提で作られてはいないはずだが、飲み込むことに対する健康へのリスクはないのだろうか。」

「歯磨き粉の中の成分の一つにフッ素というものがあるが、大量飲用で死亡のリスクがあることは把握されているのだろうか。」

「宇宙滞在中の体調が優れない時に歯磨き後のすすぎ液を飲み込むことは悪心・嘔吐・精神的なストレスの原因にならないのだろうか。」


初見で浮かんできた素朴な疑問です。
きちんと対策がなされているかもしれませんが、この答えとなる文献や証言は得られませんでした。


この山崎直子さんへのインタビューは宇宙における歯科の現状を表していると感じました。


宇宙での現在の歯科医療の水準は決して高くありません。
宇宙に歯科医院はないですから、仕方ないかもしれません。

しかし、宇宙にお引越しできる未来が来たとき、果たしてこのままでよいのでしょうか?


宇宙歯科医療の発展は必ずヒトと宇宙を近づけます。

一緒に考えていきませんか。

そんなnoteにしたいと思っています。

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References
1 Rachna Kaul1, Shilpa PS1, Sanjay CJ1, Nishant Sultana1, Suraksha Bhat, 
Let's Explore Aeronautical Dentistry. Indian J Stomatol 2013;4(2) :99-102

2 Dr. Achint Garg, 2Dr. Annu Saini, Effect of Microgravity on Oral Cavity: A Review. IOSR Journal of Dental and Medical Sciences (IOSR-JDMS) e-ISSN: 2279-0853, p-ISSN: 2279-0861.Volume 15, Issue 1 Ver. III (Jan. 2016), PP 91-94

3 吉川文広, 深山治久, 飯島毅彦, 河野龍太郎,
「宇宙におけるCRMと歯科医療 –山崎直子宇宙飛行士に訊く-」歯科展望 vol.133 No.2 2019-2

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