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✴︎お母さんの世界

「うん、大丈夫。ちゃんと結ちゃんと連結したみたい。

これから、新しい流れが来るよ。

結ちゃんに伝えることができたから、私もそろそろ

旅立つタイミングかな。」


「え、月子ちゃん どこかへ行っちゃうの?

しばらくうちで暮らしてほしいぐらいなのに。」


「何言ってんの、結ちゃんの旦那さんのお邪魔じゃん。」


そう言われて、今度は私の頬を伝う涙が冷たく感じた。


「あのね、月子ちゃん。一つ告白したいことがあるんだけど、

私たち夫婦ってどこか可笑しいかもしれない。」


「可笑しくない夫婦なんていないけどね〜。

特に今の日本て複雑な気分に陥りやすい環境だよ。

幸せってこうだ、夫婦とはこうだ、とかやたら正しさにこだわってる

みたいに見える。結ちゃんが思い描いてる理想だって、

それ本当に結ちゃんが望んでることなのかな。

ドラマとか映画とか周りに踊らされてるとこない?」


「いや、影響受けてると思うよ。相当に。

私の心の平静を保っているのは、本と映画とドラマですからね。

生きる糧と言っても過言ではないね。

現実の愛を受け取れなくなっている私は、

空想の世界で育んだ愛のエネルギーで生かされています。

悲しいことに。」


「わかるさ、同志よ。私、バツイチですから。」

「!!!」



その夜、月子ちゃんと私はまたあの近所の焼鳥屋さんに

飲みに出かけた。

たくさん食べて、たくさん飲んで、笑って、ちょっと泣いて

翌朝一番の飛行機で月子ちゃんはイギリスへ飛んで行った。


「月子ちゃん、あなたは謎だらけ〜!!!

そして、もう、今すぐ会いたいよ〜!!!」

誰もいない朝っぱらの屋上で、私は空に向かって叫んでみた。

私の人生にものすごい突風が吹いたおかげで

それまで生きてきた現実世界と非現実的な世界の狭間に、

自分がぶらんと引っかかってるような、不確かな感じがする。

見上げた空には薔薇色の雲がもくもくと湧いていた。

こんな風にゆっくり雲を眺めていた時間が、昔はたくさんあった。

いつから、私はこんな風に雲を眺めなくなっていたんだろう?

いつから、私は誰かに幸せにしてもらうことばかり望んできたんだろう?

今日から、自分で自分を幸せにしよう。 そんな決意がふっと湧いた。

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