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「脳死」の実態と誤解。知っておくべき植物状態との違い!

先日国内で1,000例目となる脳死者からの臓器移植が行われました。我が国で脳死が判定が法律で認められたのは1997年10月で、我が国最初の脳死判定は1999年2月に行われました。

それまで我が国では法的に脳死という概念はなかったことになります。


脳死判定は臓器移植を前提としない限り行われない事実

植物状態と脳死のちがい

もし、ドナー登録をしていて、何かの理由で植物状態になった場合、もしかしたら元に戻る可能性はあるけど脳死判定を受けて、臓器提供を行うことになる。

ドナー登録について、このような認識を持っている人がおられるかもしれません。

今回、お伝えしたいのは、植物状態になることと、脳死とは違うということです。

脳死の定義


脳には「大脳」「小脳」「脳幹」で構成されています。それぞれの役割は下記のようになります。

大脳:知覚、記憶、判断、運動の命令、感情などの高度な心の働きを司る
小脳:運動や姿勢の調節をする働きを司る
脳幹:呼吸・循環機能の調節や意識の伝達など、生きていくために必要な働きを司る

我が国での脳死は、3つの機能が全てが失われた状態を指します。

脳幹が機能していないので自力で呼吸をすることはできません。人工呼吸器や薬剤によって、数時間から数日は呼吸はできますが、元に戻ることはなく人工呼吸器を装着していても、いずれ心臓は停止し、脳は融解を始めます。

植物状態とは、大脳や小脳の機能は停止していても脳幹は機能している状態です。

自力で呼吸が可能で、可能性は高くはないですが、意識が戻ることもあります。一般的には植物状態になると半年ほどで亡くなるケースが大半ですが、状態によっては何年も呼吸を続けることもあります。

脳幹が機能しているか、いないかで脳死と植物状態は全く違う状態なのです。

脳死判定はどのように行われるのか


脳死の判定は下記の手順を踏んでおこばわなれます。

①    「深い昏睡にあること」
②    「瞳孔が固定し一定以上開いていること」
③    「刺激に対する脳幹の反射がないこと」
④    「脳波が平坦であること」
⑤    「自分の力で呼吸ができこと」
⑥    6時間以上経過した後に再び①〜⑤の検査をすること

以上、6項目を、必要な知識と経験を持つ2人以上の医師が行います。

これにより、1回目、2回目の状態が変化せず、不可逆的であることの確認がとれた場合、脳死と判定されます。

なお、6歳未満の小児は脳死判定を24時間空けて行います。また、生後12週未満の小児については、法的脳死判定の対象から除外されています

ですから、もし何らかの原因で植物状態になったとしても、それは脳死判定されることはないのでドナー登録をしていたとしてもその状態で移植がおこなわれることはありません。


極めて低い我が国の脳死による臓器提供の実態

臓器移植法が制定されて26年、最初の脳死判定による移植から23年で脳死判定による臓器移植が1,000件というのは世界的に見ても極めて少ない数となります。

海外の状況を見ると、アメリカでは1年間で約1万4000人が臓器提供を行っていますが、日本は年間100人前後です。

2021年の人口100万人あたりの臓器提供数(脳死後と心停止後死後の提供)で比較すると、アメリカは100万人あたり41.6例、スペインが40.8例なのに対し、日本は0.62例です。同じアジアの国である韓国の8.56例、中国の3.63例と比べても、日本の臓器提供数の少なさが際立ちます。

N H K:「なぜ増えない日本の臓器移植」番組H Pより

なぜ日本は臓器移植が少ないのか

日本が他国と比べて臓器移植が少ない原因はいつくがあります。

最も大きい理由として、臓器移植に対する認識、関心の低さと、臓器提供できる施設やネットワークが十分でないことが考えられます。

脳死判定は臓器移植を前提としない限り行われない

臓器移植は脳死状態でしか移植できない臓器と、心肺停止後でも移植可能な臓器があります。

しかし、移植する臓器の鮮度を考えると心肺停止後移植可能な臓器であっても脳死状態での移植の方が断然有利となります。

ところで、我が国の脳死判定は、臓器移植を前提とした場合でないと行われません。

つまり先日1,000例目の脳死移植が行われたということは、23年間で脳死者はわずか1,000人しかいなかったことになります。

脳死判定を希望する心理的ハードル

先の例で言えば、アメリカの年間14,000人と比べてあまりにも違いがあります。

臓器移植は生前の本人の署名の意思があることが前提でしたが、これではほとんど実績がありませんでした。

そこで、2010年の改正臓器移植法によって、本人の意思が不明であっても家族の同意があれば移植が可能になりました。

とは言え、生前にドナーとなる話し合いがなされていない状況で、いきなり訪れた危機的状況下で家族がその判断をするのは非常に難しいと思われます。

医師から、脳死の可能性を告知され、心肺停止するまでの僅かな時間に、ドナーとなる意志を表明しなければ脳死判定はなされません。

判定が行われずそのまま心肺停止になれば脳死であった事実はないということになります。

ドナーとなるには、やはり日頃から関心を持っていないとそのような状態になったとしても判断できるものではないのではないでしょうか。

臓器移植には高度な技術と連携が必要

心肺停止後の臓器摘出は手術室のある病院なら可能ですが、脳死後の摘出手術は「臓器の移植に関する法律」に記されたガイドラインに沿った高度な医療を行える病院で行います。

臓器移植先進国に比べ、臓器の摘出、移植対応の施設が限定されているの我が国では、脳死後のスムーズな臓器摘出が困難な場合もあるます。

そして何よりも、医療現場の認識の未熟さが課題です。

脳死と予想できる患者が出た場合の対応策が明確になっておらず、そのため、おおくの医療機関で、脳死の説明、臓器提供の可能性を告知されることなく心肺停止を迎えるケースが多いのが実状のようです。

大切なことは関心を持つこと

ドナーになること、それは人間としてできる最後にして最大のボランティアだと思います。

しかし、ドナーになる、ならないは自由であり、人それぞれでいいのだと思います、大切なことは命に関して関心を持つこと。

万一脳死となった時にどうするのか、心肺停止した場合にどうするのか、自分の命と真剣に向き合い、意思決定をする。その判断は変わっても良いでしょう。

関心をもつことが大切だと思うのです。


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