AIマスタリング機能搭載、OZONE8雑感

All in OneのマスタリングプラグインでWaves貴金属バンドルシリーズと双璧をなすOzone 、ご存じの方も多いと思います。僕はOzone 5をずっと使ってきた訳ですが、Ozone 8とは乗り換えて以来約1年半のお付き合いになりました。

というわけで( ? )Ozone 8に搭載されている流行りのAIマスタリングやリファレンスマスタリングが一体どういう人に向いていて、どういう人に向いていないのか、個人的にどの機能をどう使っているのかなど、まだまだ勉強中の身ですが偉ソウに踏ン反り返りながら自分なりの雑感を書いていきます。

この記事はStandard準拠でAdvancedの機能については触れません。持っていないので。あとすみませんがものすごい長文になります。


1:こういう人にオススメ!

目標としてるアーティストがいる人・よくある音/構成で曲を作ってる人

当然ですが、リファレンストラックがなければリファレンスマスタリングはできません。ダンスミュージックは音や構成がジャンルによってきまっていることが多いので、ミックスダウンまでが上手くできていればリファレンスマスタリングもAIマスタリングもそこそこに機能すると思います。よくある音や決まった構成で曲を作っている人でマスタリングチェーンの組み方がよくわからない人にとって、AIマスタリングは一つの指標を示してくれると思います。

余談ですが、リファレンスの音源がmp3だと320kbpsでも超高域のカットが強めになる傾向があるようです。実験したわけではないのですが、音源のサンプリングレートとかもモロ影響しそうですね。なるべくハイレゾな音源が必要になりそう。


2:こういう人にはイマイチ!

独自の音や構成で曲を作っている人・何をするべきか理解している人

前者に関しては1で前述した逆の話ですので割愛します。後者に関しては当然のことながら必要ないですよね。要するにAIは結果に対してもう少しこうしたいみたいな考えまでは汲み取ってくれません。まあAIがどう判断するのかな?っていう好奇心を満たすくらいにはなるかもしれませんが、間違いなくマニュアルで値を設定していく方が思い通りになります。プロでも何でもない僕の主観ですが、AIマスタリングは"十分に時間掛けられた、そこそこに適切なマニュアルマスタリング"を超える"魔法"からははまだ遠くかけ離れている感じがします。


3:そもそものハナシ!

1の項でミックスダウンが上手くできていればと書きました。さて、"AI/リファレンスマスタリングを目的に"Ozone 8を買う人はどんな人でしょう?殆どはプロのエンジニアなどではなく僕みたいな自分や仲間とで作った曲をマスタリングしたい人だと思います。

ある程度DAW触ってる人は、ここで一つ疑問が生まれましたね。ミックスダウンがそれなりに上手くできる人は、マスタリングで何をするべきか大体わかってるはずなのです。極端な話ミックスダウンがマスタリングまで意識された完璧な状態であれば、マスタリングの段階では音圧を整えることくらいしかやることがありません。ということはつまり、AIマスタリングの機能から大きな恩恵を受けるはずの人はミックスダウンが上手くできない人という逆説が成り立ちます。

あらゆるところで目にしたり聞いたりしてると思いますが、ミックスダウンが上手くできなければマスタリングでできることには限界があります。例えばミックスダウンされた音のハイハットがキツい!マスタリングでどうにかしたいとなると、Dynamic EQやマルチバンドコンプレッサー、Ozone8にはないけどDe-esserを使うなどの手段はいくつかあります。しかしどんなにマスタリングフェーズでうまくハイハットの高音を抑えることができても、ミックスされている以上帯域を共有している他の楽器・パートの音にも影響してしまうわけです。さて、どうしたらいいでしょう。ベストなのはミックスダウンに戻りましょうとなるわけです。

音源制作というものはミックスダウンが良くないとマスタリングでできることは限られています。ミックスダウンが上手くできなくてAIの力を借りたい人は、OzoneではなくNeutronを使ってミックスバスやパートのチャネルに刺してAIがどういう風にパラメータを動かしてるか見て勉強するほうが為になりそうです。僕お試しでしかNeutron触ったことがないのでどの程度使えるのかわかりませんけど・・・。

AI/リファレンスマスタリングはOzone 8の目玉機能のようですが、一体どういう人が実際に恩恵を受けるのでしょうね?


4:Ozone 8の便利機能!

3で書いた通り、僕はOzone 8の目玉機能に関してはおもちゃ程度にしか考えていません。しかしAIマスタリング機能などなくともOzone 8には十分価値があります。

 4-1:Dynamic EQ

一つわかりやすいのはOzone 6 ADVから搭載されているらしいDynamic EQ。別にOzone特有のエフェクトではないのですが、比較的歴史の浅いエフェクトで情報も少なく、実のところ僕は正しい用途で使えてるか確信が持てていません。これは6バンドまで自由に帯域、フィルターやQを設定できるマルチバンドコンプレッサーのような働きをする動的なEQです。

マスタリングというよりは主にミックスダウン前にボーカルとかに使いたいですね。こんなものバンバン刺すと重いので、ミックスダウン前のこういう処理は非リアルタイムでやったりパートバスにOzone刺すようなことがあったらその都度バウンスしています。Advancedにすればチェーンを個別に呼び出せるんだっけ。

マスタリングに話を戻しますと、僕はキックとサブベースの帯域がかぶってるところが盛り上がっちゃう時間があったり、特定の帯域のピークが一時的に高くなりすぎて問題を起こしてる時、マキシマイザーに送る信号を整える用途に使っています。マルチバンドコンプレッサーよりもピンポイントに問題を修正でき、かつ直感的でわかりやすい!

3の中盤でハイハット例を出してマスタリングじゃ限界があると書きましたが、僕がドラムンベースを作る場合は80Hz~200Hzにキックとスネア以外の音を大きくならさないようにしているので、Dynamic EQで"キックとサブベースが上がってきた時のぶつかり"と"スネアの芯の音"などはピンポイントに修正/調整できたりします。前者はマスタリングフェーズでいつもやるんですけど、後者はよほど時間に追われてない限りミックスダウンに戻ることの方が多いです。

 4-2:EQ

OzoneのEQはAnalogue (IIR), Digital (FIR), Digital (FIR) Surgical modeの三種類があります。Digitalでは位相も設定できるのでいろんな場面で使えそうです。が、基本的にOzoneのエフェクトチェーンはマスターバスに刺すわけなので、使うならDigital、位相はリニアにしておいた方がいいと思います。Surgical modeではフィルターの種類とQの形がカーブに完全に影響するので周波数バランスの整形に使えますが、やりすぎると不自然な音になります。他人によってミックスされた問題があるデータでマスタリングしないといけない?HDDがぶっ飛んでミックスダウンのやり直しができない?さあお待ちかね、Surgical modeの出番です!

ところで、OzoneのEQには昔からあるとっても素晴らしい機能があります。それはピンクノイズに近くなるように周波数バランスを整えてくれる機能!マスタリングするプロジェクトではあまり使わないのですが、ミックスダウンするときのマスターバスに軽く掛けたりします。だいたいサブベース強めに作るので、Learningされた信号はベースが強くなりピンクノイズガイドとMatchするとサブベースあたりが少し凹むような形になるのですが、EQのバンドを足して持ち上げてあげることができます。意図的にやっているところまで均されると困りますからね。あと超高域は緩やかにカットしておきたいのでここも調整します。結局こういう調整はモニターしてる音やスペアナみながら戻す感じで、大きく周波数バランスを弄るというよりは各周波数のピークを-0.3db以下の単位で薄く均す感じです。もちろんこの作業はミックスダウンの最後の最後にやるので、結局マスタリングの工程といってもいいかもしれませんね。

 4-3:Maximizer

まあそうですね、これが使えなかったら意味が分かりませんね、マスタリングチェーンのプラグインなのですから。Character(他のマキシマイザーでいうReleaseだと思います)やTrue peak、Ceilingといった基本的な機能はしっかり押さえてあります。

  4-3-1:IRC IV

Ozone 8のマキシマイザーのアルゴリズムにはIRC IVが搭載されています。これの凄いところは、とにかくラウドネスを上げることができる!ほかのマキシマイザーより結果の歪みが分かりにくいんですよね。Classic、Modern、Transientの3つのモードがあり、後ろに行くにしたがって帯域の分割が細かくなります。処理も当然重くなります。Transientが最強かというとそうでもなくて、曲に合わせて選んだ方がいいですね。僕はModernが一番好きでよく使います。当然ですがIVでもラウドネスを上げればダイナミクスは失われます。が、それはどのマキシマイザーもおなじです。

  4-3-2:Stereo independence

個人的一押しな機能はStereo independence、とにかくラウドネスが欲しくてたまらないような、ラウドネス・ウォーリアー向けの機能。Linkを外せばドラムみたいなトランジェント成分とPADみたいなサステイン成分で信号を分けて、それぞれのリミッターの反応を調整できます。結果だけ書くと両方100%にすれば、この二つが完全に独立して処理されることでよりワイドでラウドなマスターになりますが、その代償にLRバランスが変化し低域の迫力がなくなります。ステレオ野が広がることで位相がうち消しあう部分がでてくるからでしょうかね。多分Stereo Imagerはバンド別、こちらはトランジェントとサステインでの処理みたいな感じかな?うまく調整すればワイドなミックスでもドラムのパンチを維持しながらよりラウドにマスターするみたいな贅沢ができる!というわけです。一押しとは書きましたが結局はこの機能もトレードオフ、使うなら強く掛けない方がいいですね。そしてこの値を弄る前に先にThresholdをぎりぎりまで下げるべきです。Stereo independenceは本当に最後の悪あがきです。音圧が十分だと感じるなら正直別に使わなくてもいい機能です。俺は古のJungle作ってンだよ、殆どモノラルなンだよ。みたいな人には全く意味のない機能です。まーそんな人がこの機能使ってまで音圧稼ぐとは思えないんですけど・・・。

 4-4:Stereo Imager

Stereo Imagerはステレオ野を最大4バンドに分けて制御できます。僕はマスタリングよりもミックスダウンでよく使うんですけど、マスタリングでも低域をモノラルのままにしておく為、念のためMaximizerの直前に必ず刺します。低域は位相の打ち消しあいに敏感で、ステレオ成分が大きいとすぐに迫力がなくなっていったり聞こえなくなるからです。

少し話が脱線しますが、気を付けてほしいのはヘッドホンだけで作業すると、人によってはこの実感がわかないことです。なんせヘッドホンから出力されるLとRの音が混ざるのは頭の中なので、低域がモノじゃないといけない理由がちゃんと分かってないと、位相が打ち消しあうような形になっていても広がりがあるな、とか左右に動きがあるな、みたいな感覚にしかならないわけです。しかしこのままの音では、LとRが空気中で混ざったとたんに音痩せするタイミングや殆ど聞こえなくなる場所がでてきます。どこで聞いても安定した低域を得るにはモノラルにするしかありません。どうせ低域の指向性は弱いわけです。パンしようが空間系で広げようが音量が同じならどこから音が来てるのか大してわかりません。こういった理由で殆どのポップジャンルにおいて低域はモノラルにするのが普通になってます。

ミックスダウンもマスタリングもメインは必ずモニタースピーカーでやりましょう。そして次のアクションを起こす前に必ずモノで確認すること!これはとても重要です。Ozone8ではBypassの下、Oが二重に重なってるようなアイコンを押せば、アイコンがOが一個の青色になり一発でモノ合算結果を確認できます。インターフェイスにスイッチがあるならそれを使うのもいいですね。一応オプションにPrevent Antiphaseという設定があり、モノラルに合算されたときに完全に打ち消されてしまうような設定を避けるオプションがあるわけですが、このチェックも虚しく低域は無理に広げればその分音痩せが顕著になります。高域も過激に広げれば音痩せしたり聞こえなくなる場所が出てきます。こればかりは音が波である以上どうしようもありません。


5:まとめ!

結局僕はOzoneのAIマスタリングもリファレンスマスタリングも使っていません。上にあげたその他の機能の大半はWaves Goldでも買えば同じことができるでしょう。

結局道具は使いようで、使う人によって良くも悪くもなります。6000字近くも御託を並べて何が書きたかったかというと、Ozone 8は素晴らしいプラグインだけど刺すだけで完璧にしてくれる魔法ではないということです。

"オレはアーチストなンだッ!エンヂニアじゃないンだから、こういうのはテキトーでいいンだッ!"みたいな主張も大変結構なのですが、せっかく独りでここまでやれる時代なのですから、やるなら機械任せにしないでいい音を追求するのもまたアーティストとしての一つのあり方なんじゃないかなと未熟ながらに思うのです。


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