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アーティストノート:OBLIVION

はじめに

僕は自分の音楽を文章で説明し、作者にとっての"正解"を提示してしまうのはとても野暮な事だと思っています。作者は制作にあたって100%ある構想から情報を削いで解釈の余地を残し、何%かを伝えようと努力するでしょう。そして感受性豊かな人が、感じ取った作者の意図に独自の解釈を残していく。創作活動をしたことがある方ならば痛感しているかもしれませんが、仮にすべてを伝えようとしてもそれは永遠に叶わない事です。それは個人が個人であるが故の枷みたいなものですね。

OBLIVIONを出して一年が過ぎ、あえて記事を書いています。なぜ禁忌を冒そうとしているのかというと、ある作品の設定資料集を読んで、自分の解釈と照らし合わせるのがとても面白かったからです。この文章が面白いものになるかと言われたらそんなことはないかもしれないけれど、OBLIVIONは自分が最も不安定であった時期に一貫したテーマを持たせて作った思い入れのある作品なので、宜しければ駄文にお付き合い下さい。

背景

この作品に着手する2年ほど前から、悪い意味でのDJ的な音楽の聴き方を辞めました。それは自分にとことん合わなかったDJとしての活動に終止符を打つと共に、研がれながらも流行を循環するドラムンベースシーンとの決別のためでもありました。

良く出来たシンプルでミニマルな曲はDJによって繋がれることで初めて完成される。そうした曲は使われ方によってさまざまな文脈を生み出すので、受け取った人の印象は千差万別になるでしょう。素晴らしい事であるけれど、僕は自分で完結させたいという思いが強すぎて、完成を外部に委ねることができませんでした。僕の音楽的嗜好の源流が、あらゆる作者によって生み出された曲を使って空間をデザインするクラブミュージックにあるのではなく、曲そのものやアルバム全体のメッセージ性を強く押し出すバンドサウンドにあるからなのかもしれません。

僕はクラブミュージックというフォーマットに自分の表現を落とし込むことが出来ず、開き直って使えない曲を作ってやろうとして出来たのがこの作品です。

全体のテーマ

全体のテーマは彼は誰時と黄昏時。地球の一日の中で最も美しく、最も不安になる時間帯。昼でも夜でもない曖昧な世界と膨れ上がった自意識。全体的に輪郭が見えない、暈けた印象を与えるようシンセやギター、PADを限界まで詰め込んでリバーブに浸す。対照的にドラムやパーカッションはグリッチを使ったりパンチのある音作りにする。出来てるかどうかは自分でもわからないけれど、正反対のアンバランスさを一曲に落とし込むのが全体の目標であり指針でした。

Seagulls flyaway

一曲目は始まりにして終わりをテーマにしている。

カモメは命がけで海へ飛び立つ。何かに命を懸ける事への憧れと、それができない対照をなす自分の存在を旅立つカモメを見ながら感じる、そんなイメージ。

Mystic Dawn

この曲は神秘的夜明け。一日の始まりを一方的に告げられる不安と焦燥感。与えてくる感情はネガティブなのに、情景そのものは神秘的で美しい矛盾。

PCゲームが好きな人ならTES4:OBLIVIONで暗躍する組織を思い浮かべるかもしれないけれど、特に意識はしていません。

OBLIVION

全体の中で最も起伏が激しい曲。表の設定はあらゆる物事を忘れていくけど、君のことは忘れないよっていうありきたりなもの。実のところ忘却によって救われているのに、忘却することを恐れているというのが裏の設定。

ボーナストラックのAlternate Mixは一聴するとリズムがイントロからはっきりしていて比較的繋げやすいように思えるけれど、曲中に大きな音量差があるので使い物にならない仕掛けがある。天邪鬼な態度ですね。

At The End Of This Afternoon

最後の曲は、一転して終わりであって始まりがテーマ。この午後の終わりに。愛を求めているのにその主張は終始曖昧で、黄昏時の終わりを待ち暗がりに隠れることができる夜の訪れを切望するというもの。

タンバリンとスネアの音をもう少し何とかしたかった、心残りが強い曲でもあります。


おわりに

僕も鑑賞者が独自の解釈をしていくという点を尊重しています。だからこのノートは正解ではなくて、設計図だったものに過ぎません。締めくくりに予防線を張るような言い方をすれば、チラシの裏にでも書いておくような内容なのですが…。

最後に宣伝になりますが、楽曲はBandcampやSpotifyでも公開しております。

長文にお付き合い頂きありがとうございました。

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