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参加型イノベーション

イノベーションを本職としている自分を未だに信じられない時がある。ものすごく楽しい。ただ、仕事としてイノベーションに関わると、はぐらかせられない質問にぶち当たる。誰が喜べばインーベーションなのか?VCが喜べばいいのか?会社が儲かればいいのか?自分楽しければいいのか?

そもそも誰のためのイノベーションなのか?

インキュベーターや、コワーキンスペースの運営しながら、グローバルなイノベーターネットワークの戦略会議などに多数参加し、ついにはイノーベーションそのものを研究する法人まで立ち上げるほどイノベーションに興味がある。そもそもは人類に興味があるわけで、必然的にその人類がこれからどのように進化していくのか、(又はしないのか)ということをよく考えるようになった。

イノベーションバブル

ちょっと前の話になるが、私が大学で機械工学を学んでいた頃は「ちゃんとした工学」を学び、イノベーションはあまり工学には関係なさそうな話題だった記憶がある。大学4年間、それぞれの分野でのトップレベルの教授に色々教わったが、一度もイノーべションについて教わった記憶がない。

現在はどうだろう。一流の大学と認められるにはイノベーションセンターというものがキャンパス内に設けられていないといけない世の中になっている。最近ではイノベーションセンターが設けられている高校も見かける。これは喜ばしい発展であり、私もイノベーションセンターがある高校や大学で学べたら良かったと思う。

そして、ここ数年間ではイノベーションバブルが発生し始めている。上場企業は業種が何であれイノベーションセンターというものを競って作り、街にはイノベーションコンペの様なものが溢れている。イノベーションそのものがコモディティー化し、VC、大企業、広告代理店やコンサルタント達に大量消費されている。先日参加した○○○イノベーションサミットでも起業家よりVCの数の方が多かった。イノベーションを見たこともなさそうな青年VC達が「面白い案件がない」と嘆いていた。

イノベーション産業

世界でイノベーションHUB都市と確立されている都市にはサンフランシスコ、ニューヨーク、ボストン、オースティン、ロンドン、シンガポール、東京、等がある。こうやって見渡してみると、イノベーションそのものが先進国の特権であることがわかる。これらの街は金融市場や各種投資産業が成熟されている街だ。金銭的投資はイノベーションには必要な資源の一つであることは誰もが認めると思うが、世の中で生まれてきているイノベーションが分散されているかといえば、全くそうでないと思う。

イノベティヴと呼ばれる国々はイノベーションを輸出し、世界のあちこちの課題を解決しているように見えることもある。先進国で思案されたアイデアを用いて途上国の問題を解決しよう、といった動きは随分前からある。アイデアやノウハウは輸出できるとしても、イノベーションの輸出は相当難しい。なぜなら、イノベーションとは、その周りのエコシステム、コミュニティ、経済、社会問題などは密に繋がっているからだ。それらを全て揃えて輸出、または輸出先のエコシステムで欠落しているものを外部の人間が準備することは相当難しい。ほとんどの場合、そこまで考えてしまうと、事業的に成り立たないことになる。

イノベーションの持続性

イノベーション産業にもう一つの現象が起きている。つい数年前までゲームチェンジャーの代表名詞とさえされていたUberも最近では運転手の雇用環境問題や既存のタクシー業界との衝突の方が目立つ。AirBnBも結局はお金持ちの遊びになりつつある。この二社がロビー活動に投じている額が巨大であることも有名な話だ。つい最近にもAirBnBが米国の元司法長官を雇ったとの記事を読んだばかりだ。こうなってくると、彼らはイノベーターなのか、搾取者なのかわからなくなる。多分両方だろう。もちろん既存の産業から新参者いじめの対象になっている可能性もある。ただ火のないところに煙は立たないはずで、両社とも、成長の副産物として新たな問題が続出しているのだろう。そしてこの二社を見ているだけでもわかるのが、「Yesterday's solution is today's problem - 昨日の解決策は今日の問題」になる事が多い、ということだ。持続可能なイノベーションを生むことは本当に難しい。

これからのイノベーション

イノベーションの定義や消費に注目されがちな世の中だが、これからのイノベーションについて、少し自由な発想をしてみた。そもそもイノベーションは誰にでもアクセス可能で、入手可能であるべきではないのか?イノベーションとは分散され、世界の隅々まで届く技術やアイデア又は活動のことを言うのではないのか?お金持ちが「輸出先」を選ぶのではなく、本当に必要な所に届くイノベーションとはどういう形をしているのか?又、イノベーションによって発生するインパクトが、包括的に見てプラスになるようなイノベーションはどうやって生まれてくるのか?

イノベーションを生むビジネス

最近のもう一つの傾向として観察できるのが、自社がイノベーションの中心になるというより、イノベーションが発生しやすい環境を生み出すことをミッションとしている事業がものすごく増えているということだ。製造業、政治、プログラミング、教育といった業界ではオープン化がものすごく進み、今までは集権型であった作業や活動が分散され始めた。仕事の仕方そのものが分散されていて、中心がない会社などたくさんある。知識や資本を中心に集めイノベーションを起こし、それを販売する、といったモデルではもうビジネスとして成り立たなくなってきている業界が増えてきた。

現在様々な分野で作業や事業のオープン化が進んでいる。例として上図のようなプロジェクトがあるが、この他にも素晴らしいオープンプロジェクトは沢山ある。

イノベーションが生まれる瞬間を目撃したことのある人なら感じたことがあると思うが、イノベーションはいつどこで生まれるかは予測できない。発生しやすい環境を作り、必要であろうとされるリソースを配置しようとすることはできるが、それにも限界がある。世の中にはまだまだ沢山の課題があり、毎日の様に難しい社会課題が発見されていく。「課題」の定義にもよるが、私には課題が解決されていく量よりも課題が増えていくペースの方が早い様な気さえしている。又は、課題は解決されるとほぼ同時に、新たな課題が生まれているだけなのかもしれない。ただ、課題をわざわざ作るイノベーションや課題とは全く関係のないイノベーションに巨額を投じながら我々は進化し続けていくわけではないと感じる。

もう一つの現実

ニューヨークのヘアサロンで働くMark Bustosは週末になると、街にいるホームレスの髪を切り始めた。彼はこの活動を2年以上続けてきた。彼のおかげで現在では、週末にホームレスの髪を切るムーヴメントが発生しており、彼のようなスタイリストがアメリカ中で活動するようになった。

我々の周りにはイノベーションに満ちている。プロダクトデザイナーがスイッチの位置を動かした瞬間、主婦が日用雑貨を組み合わせ新しい道具を発明した瞬間、小学生が学級会で新しい掃除方法を編み出した瞬間、地方の起業家コミュニティーが連携し始めた瞬間、古民家再生を通じてて持続可能な形で地域活性化が成功した瞬間、にこれらはすべてイノベーッションだ。こう言ったイノベーションはメディアには取り上げられないかもしれないが、毎日、どこでも、ほぼ確実に生まれているイノベーションだ。これらのイノベーションはナントカ銀行が発表するイノベーション大賞と比べても仕方がないし、どちらの方がインパクト性が大きかどうかは判らない。ただ、我々に解っているのは、イノベーションはそこらじゅうにあるということだ。それから、もう一つ解っていることがある。我々は必ずと言って良いくらい、なんらかの形でそれらのイノベーションにすでに関わっている。関わり方とは様々で、発案者としてや、相談相手になったり、評価(批判も含めて)をしたり、アーリーアダプター的な存在になっていたりしている。こう言ったイノベーションは思想や、ニーズ、ジャンルなどでまとまり、クラスターとなりそれぞれのイノベーションが洗練されたり、成長していったりする。これこそがイノベーションのもう一つの現実であると考える。

民主化されたイノベーション

こういった現象はイノベーションの民主化を表していると思う。学歴や影響力がある限られたグループが起こすイノベーションだけが評価されているように見えるが、実は世の中には毎日発生する様々な規模のマイクロイノベーションで満ち溢れているのだ。こう言ったイノベーションに注目する人は少ない。なぜならどれも分かり易くないからだ。VCたちが求めるイノベーションは大体理解しやすい、消費しやすいイノベーションだ。マスメディアもそうだ。だが、現実は違う。毎日発生するマイクロイノベーションは複雑で、多くのステークホルダーが関係し、他のマイクロイノベーションと相互依存関係を持ち、「我々」が参加できるものである。(ここでの「我々」とは人類全体のことを指す)

これからのイノベーションは、誰かに「素晴らしいイノベーション」を定義してもらうのではなく、「我々」が「我々」の関わる地域や課題に関係するノウハウや技術を我々の手で加工し、工夫し、ソリューションを共創していくタイプが増えると考える。もう既にそういったムーヴメントはあちこちで起こっており、我々はそういったあちこちにあるマイクロイノベーションにどう参加するかを選択し始めている。

VCや起業コンペがなかった時代にイノベーションがなかったはずはない。イノベーションは誰にでも参加できる。資格や経験など要らない。〇〇イノベーターと名乗る人や△△イノベーションラボと名乗る施設が現実離れし始めている。彼らの多くは、自分達の知識や施設が特別だと信じていると思う。過去にそうであった時はあるかもしれないが、今ではもうそうではないと思う。イノベーションはもう既に民主化されて、本当の意味で、参加型になっている。なので、「こんなイノベーションを起こそう!」などといった話はあまり気にせず、「こんなのやってるけど、一緒にやる?」といった話を敏感にキャッチし、持続可能な形で、楽しく参加できるイノベーションを見つけに行くことが重要になってきたと考える。

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