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日本在来馬と大河ドラマ

 読者の皆さまがイメージする馬とは一体どのような馬(特に見た目)を指すのでしょうか。これからごく当たり前のことをお話します。現在の大河ドラマ(日本のNHK、韓国ドラマの馬医、中国ドラマの三国志など)で見られるような馬(「サラブレッド」)は昔から居たと思いますか。少なくとも世界的には17世紀までいなかった。というより、生産・改良することができなかったのです。またそのような観念や技術もありませんでした。発展した契機は「競馬」というジェントルマンたちによる娯楽の飛躍にあります。それが世界史レベルでの出来事になります。

 サラブレッドは18世紀に競馬の母国であるイギリスで誕生しました。つまり、「特殊生物」なのです。馬はウマ科に属し、さまざまな馬種があります。その中の1つがサラブレッドです。馬種についての詳しい説明は別の項目に譲りますが、この節ではサラブレッドという人工物(人間の手によって改良が施された特別な生き物)は昔から存在しなかったということが分かれば十分です。

 本文ではこのような認識の壁について語ります。我が国に「近代競馬」が到来したのは1860年のことです。記録や制度=「レーシングプログラム」が残された近代競馬がはじまったのは1862年になります。現在の日本競馬の主催者である特殊法人・日本中央競馬会(JRA)は1862年を日本近代競馬の誕生年と定めています。それは2012年に行われた「近代競馬150周年記念事業」から見ても明らかです。

 ところで、読者の皆さまはジョン・レノンの「イマジン」という歌をご存知でしょうか。2021年の東京オリンピックの開会式でも使われた世界的な名曲です。この平和歌には「想像してごらん」という歌詞が多用されています。

 それでは今から18世紀の世界地図を想像してみましょうか。世界的には欧米列強国による侵略や植民地化の時代でした。翻って、我が国は江戸時代です。お隣の韓国は李氏朝鮮の時代で、中国は清朝の時代でした。このときアジア諸国の馬は貧相でとても弱々しかった。対して世界の潮流(傾向)は馬種改良の時代です。競馬(娯楽)と軍馬(戦争)のための雑種化の戦国時代が目まぐるしく動きはじめました。日本では武士(軍人)が支配者でした。江戸時代は武士という特権階級のみ馬への騎乗が許されていました。韓国は両班(ヤンバンと読みます)が支配していました。両班は武人と文人のことを指します。武人より文人の方が上の権力者(立場)でありました。それゆえに軍事力育成という体制、準備においては日本より非常に劣った国でした。一方、中国は満州族が支配者でした。この国は文武と制度を重んじ、辮髪姿の刀剣をイメージされる方も多いことでしょう。ただし、清国の馬(支那馬)も欧米諸国の馬と比べて明らかに劣っていました。

 つまり、アジアの馬は欧米人から見たらほとんどポニー程度だったのです。当時、そのような馬が人を乗せ、畑を耕し、物を運んでいました。たまに戦闘に従事していましたが、3国とも長期政権の安定国でしたからヨーロッパのような拡大路線には参加していませんでした。平安時代には有名な源義経の鵯越(ひよどりごえ)の坂(逆)落とし(「一ノ谷の戦い」)がありました。この光景を再び想像してみましょうか。これは日本馬にとって苦痛であったと思います。甲冑姿の人間を背に乗せたポニーが坂を下る図。「想像してごらん」まさに馬の立場から見たら地獄絵図です。人間視点では「英雄譚」になっているのですから何とも不思議なものです。言うまでもなく、戦国時代の馬たちはとても可哀想な状況(立場)でした。特に鉄砲隊と戦った「長篠の戦い」は馬たちの涙物語ですね。今度はアニメを想像してみましょうか。世界名作劇場の「フランダースの犬」は世間でもよく知られています。きっと最後の場面に涙した方も多くおられたことでしょう。私はアニメの途中、パトラッシュが台車に乗せた大量の荷物(たくさんのミルク缶)を汗水垂れ流しながら運んだシーンを見て号泣しました。歴史上世界の多くの馬たちはパトラッシュのような悲惨な思いを経験してきたのです(しかし、十字軍の遠征はヨーロッパの馬たちを逞しくさせたことは事実です)。何しろポニーのような時期が長かったわけですから。だから私はとても温かい眼差しで大河ドラマを観ることができません(笑)。

 現在のテレビドラマ、アニメ、マンガ、映画などに登場する馬は「サラブレッド」100%です。平安時代に『源氏物語』を書いた紫式部の時代とはまるで異なります。また、日本競馬の斤量はだいたい55~60キロくらいです。改良された屈強な馬が軽い人間を背負って競馬場の中を走っています。

 是非大河ドラマを視聴する際は、「人類の友」として人間に寄り添ってきた馬たちによる歴史絵巻としてご覧になって頂きたいものです。私は忠犬ハチ公の健気さに感動するような心構えでいつも時代劇を観ています。

(2012.4.14)

※ 編集中です。







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