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『アニメ・プロデューサー鷺巣政安』あとがき

僕がインタビュー・構成を担当させていただいた『アニメ・プロデューサー鷺巣政安』(ぶんか社)のあとがきです。あとがきを読んで、同書を、そして鷺巣政安さんに興味をもっていただけたら、存外の幸福です。
 鷺巣政安さんについては
こちらを。

TCJ(現エイケンの鉄人カーを前に)

 今度もまた、多くのご縁に導かれた。序章でも書いたが、僕と鷺巣さんを結んでくれたのはアニメ史研究家の星まことさんである。その星さんを紹介してくれたのは、古い友人で特撮ライターの堤哲哉さんだ。堤さんには本書で、鷺巣さんと古谷敏さんの対談の構成をお願いした。古い友人といえば、素敵なカバーデザインを手掛けていただいた、デザイナーのほうとうひろしさんもそうである。本インタビューが無事出版を迎えることができたのも、他出版社で一度お仕事をご一緒させていただいた伊藤勝幸氏が、ぶんか社に移られたのを思い出し、何年かぶりで御伺いしたのがきっかけだった。突然の訪問を快く受け入れてくれたことに心より感謝したい。その伊藤氏が担当編集者として付けてくれたのが、これまた旧知の辻類氏である。
 ご縁とは現世のものばかりではない。前作『世界の子供たちに夢を』を僕が書くにあたっては、天上のうしおそうじ先生と吉田竜夫先生との間にこんなやりとりがあったと信じる。
「吉田さん、あなたにもそろそろ評伝のようなものがあってもいい。私が手頃な男を知っているから、あいつにやらせましょう」。
 当初は、荷が重いと断るつもりだった吉田先生の評伝をお引き受けすることにしたのは、ひとえに、お二人のこのやりとりを夢枕に聞いたからにほかならない。同書巻末のsepcial tanksに、うしおそうじの名がある理由もそこにある。おそらくは、鷺巣さんと僕によるこのコラボにも両先生は天からお力添えをしてくださっているはずだ。僕はその見えざる力に身をまかせればよかった。終章で僕が言った「楽観」とはそんな意味でもあるのだ。この本は世に出るべくして出たと思っている。
 実際、書き始めてみると、まるでドミノ倒しのようにすべてはスラスラ行った。一冊書き上げるまで、こんなに早かったのは初めてのことだ。

浅草通の鷺巣さんにはいろいろなところに連れて行ってもらいました。これは大衆演劇見物。役者さんがみなイケメンそろいでびっくり。
鷺巣さんも懇意にされていた伝説のストリッパー浅草駒大夫さんのお店の前で。残念ながら開店前でした。駒大夫さんの御主人・佐山淳さん(フランス座支配人)には、僕も可愛がっていただきました。

 もっとも、鷺巣さんに最初にお会いしてから三年経っているから、その間の取材音源も膨大な量となる。三年の間に、平井和正、永井一郎、熊倉一雄、水木しげる、といった、本書にも登場する、鷺巣さんと馴染み深い諸氏が物故された。それら方々に対する鷺巣さんなりの手向けの思いも本書に込められたのではないか。
 また、円谷英二、黒澤明、手塚治虫、長谷川町子、桑田次郎、白土三平、美内すずえ、中原淳一、高倉健といった方々の知られざるエピソードも本書には満載されている。とりわけ、肉親の口から語られるうしおそうじ先生のお話は何度取材テープを聴き直しても飽きることはなく、むしろ聴き直すごとに発見がある。僕が思っている以上に師は大きい人だった。悔やまれるのは、ご兄弟が並び、あるいは相対する場面をついぞお目にかける機会に恵まれかったことである。稀代のディレッタントであるお二人が、映画を、アニメを、なつかしき東京を、そして人生を、どんなふうに語り合うのだろうか。おそらくそれ自体が一冊の本になるほどの濃密な対話に違いない。
 鷺巣さんご自身はますますお元気である。ご本人は電話嫌いとおっしゃるので、こちらもなるべく遠慮しているが、それでも電話口に出られると、軽く三十分ぐらいはお話が止まらない。お話好きはお兄さん譲りである。
「少し耳は遠くなったけれど、まだまだ足は元気だよ。真ん中の足は歳相応だけどさ」
 そんな冗談も飛び出す。鷺巣さんの健脚ぶりについては既に語ったとおりだ。
 本書が出たら、また浅草で蕎麦か天丼、あるいはまだ行ったことのない亀戸餃子でビールでもご一緒させていただきたいものである。

(追記)
 本ができあがって一番うれしかったのは、イベントの席で甥の鷺巣詩郎さん(音楽家)から「このたびは、叔父の素敵な本を出していただきまして、本当にありがとうございます」とおっしゃっていただいたこと。そればかりか、傍らにいらした高橋洋子さん(歌手)に、「この人はとても素晴らしいライターなんだよ」などとご紹介いただき恐縮至極でした。
 失敗もあった。鷺巣さんから膨大な資料、写真をお預かりしたが、セレクトも含め、好きなような使ってよいしキャプションもお任せするとのことだったので、手塚先生のホームパーティの写真に写っているお隣の女性を亡き奥様と勘違いしてそう書いたら、エイケンの同僚の別女性だったことが、本の完成したあと鷺巣さんに指摘され、大弱りに弱ったものである。詩郎さんには、そこを突っ込まれずに何よりだったが。この機会に、訂正おわびいたします。
当初、本のタイトルとして僕が提案したのが『エイケンのサギスさん』だった。ただ、鷺巣さんご本人が現在のエイケンに対していろいろと思うところもあるし、自分はもう身を引いた者だから、ということで現在のタイトルになった。でも、僕の中ではやはり、「エイケンのサギスさん」がしっくりくる。

鷺巣さんから伺った傑作エピソードはこちらでも紹介しているので、併せてお読みください。

とっておきの話といえば、今、朝ドラ『ブギウギ』が人気だけど、黒澤映画『酔いどれ天使』で笠置シズ子が歌う『ジャングル・ブギー』、このキャバレーのシーンの撮影を鷺巣さんが見学しているそうなのだ。あの黒澤さんが、よく外部の人間の立ち入りを許したものだと思う。笠置さんと鷺巣家には他にもちょっとした縁があったようで、そのへんのことも本の中でたっぷり語っていらっしゃいます。

さて、鷺巣さんですが、長くご体調をくずされているようで、ご高齢なだけに心配です。鷺巣さん、早くお元気になられて約束どおり、古谷敏さんと3人で餃子で一杯やりましょう。僕もいろいろしんどいですが、どうにか頑張ります。

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