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変態さんよありがとう⑪~整形アーティスト=改造人間オルラン

怪女オルラン

 パリ滞在3カ月のうち約ひと月、10区にある画廊の日本人マダムのアパルトマンに居候させてもらった。ただの居候では居心地が悪いので、コーヒー好きの彼女のために朝コーヒーを入れたり、ロビーの掃き掃除くらいはさせてもらった。僕の入れるコーヒーは美味しいと言ってくれたときはほっとした。
 来客にお茶を出すのも僕の仕事だ。画廊といっても、現代アート専門だから、売り込みに来るアーティストも奇天烈なのが多かった。キャンバスに自分の血で描いた絵をもってくる者、玄関でいきなりフクロウ(?)のマネをする者、ネクタイ代わりに電気コードを締めている者、中でも傑作級だったのが、オルランというおばさんである。
 この人のキャンバスは自分の顔だ。つまり、整形手術で顔を変えることを表現活動としている。たとえば、おでこはモナ・リザ、目はボッティチェリのヴィーナス、唇はミケランジェロの何々といった感じに改造していく。彼女なりの古典絵画に対するアンチテーゼなのだろう。
 オルランのアトリエにもマダムと一緒に招待された。近くで見る彼女の顔は、度重なる整形で鼻が魔女のように尖がっていた。声が鼻づまりっぽいのは、やはり改造のせいだろうか。顔だけではない、彼女の体でメスの入っていない部分はなかった。

パフォーマンス(?)中のオルラン


 パフォーマンスを収録したビデオを見せてくれた。まず、手術着を着た複数の男性バレリーナが登場する。そのうちのひとりは本物の外科医だ。手術台には花やフルーツに囲まれた全裸のオルランが横たわっている。全身麻酔をかけられ意識が朦朧と化していく中で彼女が詩を朗読する。その間にも、彼女の体にメスが入り、脇腹に挿したチューブに黄色い脂肪がどくどくと吸引される……ざっとこんな塩梅である。

世界中を周って整形アートをやっていきたいと言っていた。日本の整形クリニックの先生、どうですか?


 このビデオを見せられて、僕が別段、腰を抜かさなかったのは、エロ本業界に長くいて、奇人変人に対する免疫ができていたせいであろう。まあ、それでもオルランは突出していたが。
 YouTubeで検索したところ、オルランはまだ活躍中のようだ。あれから30年、さらなる改造が重ねられ、彼女の顔はまったく違うものになっていた。


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