研究倫理と公正

研究倫理と公正について学んだのでまとめる

Responsible conduct of research

Responsible conduct of researchは広義の research ethicsである.

research ethics (狭義)は,被験者への保護を中心として考えられる.
•人間対象研究における被験者・参加者保護
•ヘルシンキ宣言をはじめとする倫理ガイドライン
•個人情報保護
がある.

この辺はここ20年で日本もしっかり行われるようになってきた.

問題はresearch integrityである.

research integrityは科学・研究活動の誠実さと真実、公正な良き科学活動を行うために考えるべきことである.
•scientific misconduct (不正行為)
•publication ethics (出版倫理)
•conflict of interest (利益相反)
がある.

これらについての認識が日本ではまだまだあまいのが問題である.

研究の捏造はメンデルから?

古くは,メンデルの実験が良すぎることが指摘されている.自然のばらつきがないくらい,データが揃っていたことから捏造を疑われたという経緯がある.

"Mendel's data were too good to be true"

と言われていた.

弟子たちが,師の顔色をみて,仮説にあったデータを提出したのかもしないが,真相はわかっていない.

日本の研究不正

日本で有名なのは,

・2009年 ディオバン事件(Kyoto Heat study)
・2014年 STAP細胞事件
・2014年 東大論文不正11人
・2018年 iPS研での論文改ざん捏造
・2020年 阪大,国循で研究不正(https://www.asahi.com/articles/ASN8L6J5VN8LPLBJ006.html)

である.これらの研究は,捏造が指摘され,論文は撤回されている.これらの論文は撤回されたことが今でも,記録としてPubmed内に残っている.

不正が起きた背景には,以下があると指摘されている.

・国際的に著名な学術誌への論文掲載重視
・ストーリーにあった実験結果を求める
・実施困難なスケジュールの設定
・学生らへの高圧的な支持や指導
・安易に共著者に名前を連ねる監修
                      読売新聞2014年12月26日

特に安易に共著者に名前を連ねるのは危険である.著者のそれぞれは研究全体に責任をもつため,1人が捏造していれば連帯責任となる.不正論文は学位やキャリアに関わる.院生の博士論文が撤回されれば,論文だけでなく,学位は取り消されるし,就職もなくなる.

Tide of lies

画像1

Kupferschmidt K. Tide of lies. Science.2018;361(6403):636 641からまとめる.

なお,この論文では葛飾北斎の絵を風刺して日本の研究不正について論評されている.

研究不正の発覚

ある日本人医師が 15 年間に 33 件のランダム化比較試験 randomized controlled trial: RCT )を有力国際誌に報告した.この研究者の論文はPositiveな結果が多すぎることから疑念を持たれた.ちょうどメンデルの研究が疑われたのと同じような理由である.

この著者の論文の系統的レビュー が おこなわれ,Neurology 誌に発表された.

Background: Statistical techniques can investigate data integrity in randomized controlled trials (RCTs). – We systematically reviewed and analyzed all human RCTs undertaken by a group of researchers, about which concerns have been raised. 
背景:統計的手法は、ランダム化比較試験(RCT)におけるデータの完全性を調査することができる。- 我々は、研究者グループによって実施されたすべてのヒトRCTを体系的にレビューし、分析したが、これらについては懸念が提起されている。 



この著者の研究の多くは脳卒中、パーキンソン病、アルツハイマー病などの高齢患者を対象に、ビタミン D 、 ビタミン K 、 ビスホスホネート製剤など による骨密度の改善や骨折予防効果を検討していた.この著者のデータを用いたメタ解析では 、治療により 78 %の骨折 リスク低下を認めたが、これは他の RCT の結果に比して不自然なほど良好 であった.
このことから,

「少なくともその一部で不正が行われた可能性 あり 」

と結論づけられている. 

 Bolland MJ, et al. Systematic review and statistical analysis of the integrity of 33 randomized controlled trials. Neurology. 2016;87(23):2391 2402. • https://medical tribune.co.jp/news/2016/1110505613/


これらの研究は国内の骨粗鬆症の診療ガイドラインにも多数引用されており,臨床にも直接影響するものが捏造されていたのである.

なお,この研究者は自殺している.

研究不正は,キャリアを奪い,生命も奪いかねないとんでもない諸刃の剣である.

Retraction Watch

Retraction Wathchをみてみよう.科学ジャーナリストが行っている,Websiteがある.世界最高記録は180本の日本人である.出版論文が全部捏造というものである.一回やってしまうと怖くなくなってしまうのだろうか.

FFPをしない

ここまで「研究不正」の話をしてきた.Research integrityが扱うのは,不正だけではない.FFPに代表される,

• 捏造 Fabrication( 存在しないデータの作成 )

• 改ざん Falsification ( – データの変造、偽造 )

• 盗用 Plagiarism( – 他人のアイディアやデータや研究成果の適切な引用なしで使用)
がある.

日本の文部科学省・研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン( 2014 年)では,不正行為は

 • 対象とする不正行為は、 故意又は研究者としてわきまえるべき基本的な注意義務を著しく怠ったことによる投稿論文など発表された研究成果の中に示されたデータや調査結果等の捏造 ねつぞう、改ざん及び盗用である

と定義されている.

「提言:わが国の医学研究者倫理に関する現状分析と信頼回復へ 2017 年 7 月 20 日 一般社団法人日本医学会連合研究倫理委員会」によれば,不正行為の起きる原因として,

 
 大学では上の地位の者ほど研究倫理的素養に欠けると評されている.これまで,撤回されたわが国の論文にしばしば見られる特徴として、研究規範に対する認識が最も必要とされる研究責任者にそれが欠けていたという点を挙げられる. 今日の欧米では、研究者は自身の研究の健全性だけでなく、科学研究全体の健全性に向けた社会的責任を認識し、 他の研究者の研究の質に対して目配りすることを要求している.身近な専門家による相互チェック は、医療過誤の防止対策等と同様に、研究不正の防止にとっての最後の砦である。

と評されている.

これらのことがらは,情操教育のようなものであると考える.
小学校の頃の道徳と同じようなものだ.当たり前の規範として学生のうちから学んで置く必要がある思われる.

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