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俺の人生でカクテルを創ってください

昨晩、バーカウンターに立っていると、後輩が横から顔を出して言った。

「つばささん、何かつくってくださいよ」
「いつもつばささんは無茶振りしてくるからな~」

「俺の人生でカクテルを創ってください」

重い注文だ。
それは、よく知った大切なやつだから尚更に。

彼の人生を振り返る。

彼は、「優秀」だ。
賢くて、人の気持ちもよくわかる。

遠く輝く星を追っかけても、残酷なまでに浮かび上がるは現在地との距離。

それでも目がけたからには全力。時には星を選び直しながら。

根底に沈むは愛と情熱。誰よりも愛を願い、情熱を諦めない。

喉に残る強い芯にはワイルドターキーライを
沈ませるはアマレットとパッソア
太くも長い人生を願って、炭酸でビルド。
最後はレモンできゅっと締めて

「おいしいです。俺のこと、よくわかってる。」
「このカクテルが俺なら、俺はもっと尖りたいです。」
「次は、俺がつばささんの人生を創ります。変わってください。」


お酒なんて、呑まなくても生きていける。
でも、お酒とともに過ごしたいい時間を、僕は知っている。
それは例えば、こういうひととき。


試行錯誤して出してくれた「僕の人生」を飲む。


甘い。めちゃくちゃ甘い。
野菜ジュースのような、甘ったるさ。


「つばささんは過去に、きっと今では考えられないくらい暗く孤独な時期を過ごしましたね。」

「でも大学に入って、このバーに来て、あたたかい人との時間や、哲学を知ったのだと思います。」

「今のつばささんは、孤独な夜と暖かい昼を経て、目指すべき宇宙に向かって駆ける『翼』なんです。」

「それは苦しい旅でしょう。でも、到達点は、澄み切った綺麗なものなはずです。」

本当によくわかっている。それにしても甘いなあ。

「それは、まだ苦しさを味わっていないからです。まだ、『甘い』です。」


ずっと、彷徨っていた。
ようやく、目指すべき宇宙が見えた気がした。
そうと決めたら一直線、周りなんて見えちゃいなかった。

周りに恵まれた。応援してくれる。
でも、傷つけてしまった人もいる。

「スパイシーに生きる」

インドに行って誓ったこの言葉は、何も独りよがりに生きるという意味じゃない。

人は繋がり合って生きている。時に迷惑をかけたとしても、恩返し。
全力で向き合う。

この人生は夢だらけ。


#いい時間とお酒

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