〔民法コラム22〕製作物の所有権の帰属と元請契約における特約の下請人に対する効力


1 総説

 請負契約とは、当事者の一方(請負人)がある仕事を完成させ、相手方(注文者)がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを内容とする契約である(632条)。

2 請負人の義務

⑴ 仕事完成義務

 仕事を完成させることが、請負人の中心的な義務となる。仕事完成義務と報酬支払義務とは、同時履行の関係には立たず、仕事完成義務が先履行である(633条参照)。

⒜ 下請負人の使用

 請負は仕事の完成そのものを目的とする契約であり労務の提供を目的とする契約ではないから、特約がある場合を除いて自由に下請負人を使用して仕事を完成させることができる。このとき、元請負人と下請負人との下請契約は、注文者と元請負人との元請契約と別個独立の契約である。
 下請負が禁じられている場合でも、下請契約自体は有効であり、元請負人が特約違反の責任を負うにすぎない(判例)。

⒝ 目的物引渡義務

 契約の目的が物の製作である場合、請負人は仕事を完成させた後、更にその完成した物を注文者に引き渡さなければならない。目的物引渡義務と報酬支払義務は同時履行の関係に立つ(633条本文)。

⑵ 担保責任

 仕事の目的物が種類・品質に関して契約の内容に適合しない場合は、売買における目的物の契約不適合に関する規律が準用される(559条本文)。

〈論点1〉完成した製作物の所有権の帰属は、特約があればそれによる。では、特約がない場合は誰に帰属するか。
 A説(判例)

  結論:材料の供給態様を基準として、製作物の所有権の帰属を決める。
     ①注文者が材料の全部又は主要部分を供給した場合には、特約がない限り、原始的に注文者に所有権が帰属する。
     ②請負人が材料の全部又は主要部分を供給した場合には、特約がない限り、請負人に所有権が帰属し、引渡しにより注文者に移転する。
  理由:請負人に報酬請求権の担保を確保させ、不動産工事・保存の先取特権(325条2号、1号)の欠陥を補充する。
  補足:材料の供給態様にかかわらず、注文者に所有権を帰属させる旨の特約があればそれに従って所有権の帰属が決せられる(大判大5.12.13)。そして、注文者が請負人に対して代金の全部又は大部分を支払済みの場合には、特別の事情のない限り、所有権を注文者に帰属させる旨の暗黙の合意が認められる(大判昭18.7.20)。
  批判:請負人が建物等の所有権を取得しても、通常、敷地の利用権を有していないことから、注文者が土地明渡しを求めた場合には報酬債権を確保し得ない。
 B説(注文者帰属説)
  結論:材料の提供の態様にかかわらず、注文者が原始的に所有権を取得する。

〈論点2〉注文者・元請負人間で完成した製作物の所有権は注文者に帰属するとの特約があったが、下請負人が材料を供給して仕事を完成させた場合、製作物の所有権は誰に帰属するか。かかる特約を下請負人に対しても主張できるのかが問題となる。
 A説(最判平5.10.19百選Ⅱ(第8版)[69])

  結論:注文者と下請負人との間で格別の合意がある等の特段の事情がない限り、所有権は注文者に帰属する。
  理由:下請負人は、注文者との関係では、元請負人のいわば履行補助者にすぎず、注文者に対して、元請負人と異なる権利関係を主張できる立場にない。

[重要判例]
・請負契約における所有権の帰属(最判平5.10.19百選Ⅱ(第8版)[69])

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?