〔民法コラム20〕占有者の費用償還請求権と留置権


1 占有者の費用償還請求権

⑴ 意義

 196条は、占有者が占有物につき費用を支出した場合に回復者に対してその償還を請求できるか、また、どの範囲まで認められるかにつき、必要費と有益費とに区別して規定している。

⑵ 必要費の償還請求(196条1項)

 必要費とは、物の保存・管理に必要な費用を意味する。保存費用とは、物の現状を維持して滅失毀損を防止するために不可欠な費用のことであり、家屋の土台入換工事費(大判大14.10.5)のような修繕費がこれに当たる。他方、管理費用としては、公租公課等がある。
 占有者は、善意・悪意、所有の意思の有無を問わず、占有物の返還に当たり、支出した必要費の全額の償還を請求することができる。占有者が果実を取得した場合は、通常の必要費は占有者が負担しなければならない。

⑶ 有益費の償還請求(196条2項)

 有益費とは、物を改良し、物の価値を増加する費用(e.g.模様替え、雨戸の新調等)を意味する。価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、占有者が支出した額又は増加額を償還させることができる。悪意の占有者にも償還請求権は認められるが、裁判所は、回復者の請求により、一定の期限の猶予を与えることができる。これにより、占有者はその物の上に留置権を行使できなくなる。

2 留置権

⑴ 意義

 留置権とは、他人の物を占有している者がその物に関して生じた債権を有する場合に、その弁済を受けるまでその物を留置することにより(留置的効力)、債務者の弁済を間接的に強制することのできる法定担保物権である。

⑵ 要件

⒜ その物に関して生じた債権を有する(牽連性 295条1項本文)

 牽連性が認められるのは、一般に①債権が物自体から生じた場合(e.g.費用償還請求権)と、②債権が物の返還(引渡)義務と同一の法律関係又は事実関係から生じた場合(e.g.修理契約上の修理代金債権)とされている。

⒝ 債権が弁済期にあること(295条1項ただし書)

 弁済期前に留置権を認めると、弁済期前の債務の履行を強制することになるから、債権が弁済期にあることが必要である。

⒞ 留置権者が他人の物を占有していること(295条1項本文)

⒟ 占有が不法行為により始まったものでないこと(295条2項)

 不法行為により占有した者に対して、留置権を認めてその債権を特別に保護する必要はないから、295条2項が規定された。

⑶ 効果

⒜ 目的物を留置する効力

 留置権者は、その債権の弁済を受けるまで、目的物を留置することができる(留置的効力)。

⒝ その他の効力

ⅰ 果実収取権(297条1項)

 留置物から生じる果実(天然果実・法定果実)を収取し、他の債権者に先立って債権の弁済に充てることができる。

ⅱ 留置物の管理と使用

 留置権者は留置物の保管につき善管注意義務を負い(298条1項)、債務者の承諾なしに留置物を使用・賃貸・担保供与できない(298条2項本文)。ただし、その物の保存に必要な使用をすることは許される(298条2項ただし書)。

ⅲ 費用償還請求権(299条)

ⅳ 競売権(民事執行法195条)


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