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初めて買った戸建ての話

5年前、初めて戸建を買った。

新小岩に存する借地&再建築不可の400万。リーマンショックの時より安いと友人が言ってくれたのが決め手となった。

それでも、当時は本ばかり読んで頭でっかちになっていたので、不動産はとりあえず指値するものだと2割指した。

内見時になぜか居合わせて意気投合してた売主さんは、お前バカかよ、まあでもいいよと笑いながら売ってくれた。

セルフリフォームに5ヶ月かかった。
いろんな友達に手伝ってもらってかなり苦労した。終業後、週末、全部の時間を使って懸命にやったが、結局出来上がりはロークオリティ。やはり餅は餅屋と痛感した。

ともあれ、商品が出来たのだから早速営業だ。

デザイナーズ戸建!!新小岩に爆誕!!

パワポでマイソクもどきを作って駅前の不動産にばらまいた。正直反応はいまいちだったけれど、ハウ○コムやC○Cといったマニュアルがありそうな会社からは、未だに月イチで物確の電話がかかってくる。書いてて気付いたけど、この仲介さんのオペレーションは地味にすごい。

募集後、週1くらいで内見はあったけれど、なかなか成約まで至らず苦戦した。そんな時ジモティーでも募集できることを知って登録してみた。

ゼロゼロデザイナーズ戸建!!新小岩に爆誕!!

ジモティーのタイトルはキャッチーなものに限る。なるべく分かりやすいようにハウスポートの看板をイメージして、読みながらあのピンクの看板が目に浮かぶような紹介文を綴った。

翌週、成果はすぐに出て、内見をしたいという問い合わせがあった。日程を調整して現地で待ち合わせる。

男「どうもどうも」

なんか眉間が狭いな?と違和感があった。まあ人の顔はそれぞれだ。人柄が良ければ問題ない。

「ようこそ!どうぞ!」

内見対応は初めてで少し緊張していた。

「お引っ越しですか?」

男は言った。

「いま付き合ってる子がいてね。」
「はあ」
「その子を住まわせようかと思うんだよね。」
「お住まいは別に?」
「まあそうだね」
「へぇーやり手ですね」

「決めたよ。ここにする。」

まじか。あっけなく決まった。

僕が一生懸命リフォームしたお家は愛人ハウスとしてスタートを切った。

申込書を見ると丸く書かれたカタカナが並んでいた。

「アナスタシア?外国の方ですか?」
「そうそう錦糸町でね。」
「なるほどですね。」

その後、特に面白い話はない。家賃の滞納はなく、時たま小さな修繕をするとか、家財保険の更新の事務連絡くらいでほとんど手がかからなかった。

そうして5年が経ち、投下資金を回収した頃に連絡があった。

「オーナー、引っ越そうと思うんだ。」
「へぇ、アナスタシアが?国に帰るんですか?」
「いや……そうじゃなくて…」

というと、男は驚くようなことを言った。男は入居後に家庭を捨ててアナスタシアと結婚し、いつの間にか離婚、失意で呆然としていたところ事故に遭い、もともと悪かった左目が完全に見えなくなってしまったそうだ。

「全然知りませんでした。目が見えてなかったなんて。」
「あれ?言ってませんでしたか?生まれつき少し内側に目が寄ってるんですよ。」

なるほど…眉間が狭く感じたのはそういう事か。5年振りに合点がいった。

「これからどうするんです?」
「生活保護を受けようと区役所に相談してる。あとは住むところだけなんだけどね。」
「そうなんですか。」
「オーナーには良くしてもらったよ。ありがとう。」
「こちらこそ。長く住んでくださって、ありがとうございました。」

錦糸町で引っ掛けた愛人と結婚して離婚して、文字通り光を失って、生活保護を受ける。5年間で人生変わるもんだなあ。

「あの……僕、こんな事くらいしかできないんですけど、最後に引越し先探すのお手伝いさせて下さい。知り合いの業者さんに頼んでみますので!!」

引越し先はすぐに見つかった。線路沿いで少し音が気になるけど、その他は希望通りの物件だそうだ。

引渡の日、なんと男は自転車でやってきた。
「運転大丈夫なんですか??」
「集中すれば大丈夫。道が勝手に開けてくるのよ。」
「それ危ないから周りの人が避けてるだけですよ。」
「あー…そうかもね…。オーナー、ほんとにありがとうね。」

そう言うと、男はヒョイっと自転車に飛び乗った。ひと筆書きの落書きがほどけるようにその姿は消えてゆき、僕は仲介さんに電話をかける。

「無事入居されたようでなによりです。それであの、キックバックのお話なんですが」

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