見出し画像

【文学】A. ランボー:いちばん高い塔の歌

先日、神田神保町の古本屋街を歩いて、アルチュール・ランボーの詩集を
やっと探し出してきました。

19歳だった時分のちょうどいまごろの季節、耽読した詩です。
なぜか、読みたくて、読みたくて。

 *** いちばん高い塔の歌 ***

 束縛されて手も足も出ない、うつろな青春。

 こまかい気づかいゆえに、僕は自分の生涯をふいにした。

 ああ、心がただ一筋に打ち込める、そんな時代は、再び来ないものか?

 僕は、ひとりでつぶやいた。

 「いいよ。会わなくたって。

 君と語る無上のよろこびの約束なんかもうどうでもいい。

 この思いつめた隠退の決意をにぶらせてほしくないものだ」

 かくばかりあわれな心根のいいようもないやもめぐらし。

 聖母マリヤさまのこと以外、当分、僕はなにも考えまい。

 では一つ、マリヤさまにお祈りをあげることにしようか。

 金輪際おもい出すまいと 僕はどれほど、つとめたことか。

 お蔭で、恐怖も、苦しみも、空高く、飛んでいってしまった。

 それだのになぜか,不快な渇きが 僕の血管の血をにごらせている。

 荒れるがままの 牧場のように、

 どくむぎと芳香とがいりまじり、花咲き、はびこる牧場のように、

 不潔な蝿が、僕の心に群がって、わんわんと唸りたてている。

 束縛されて手も足も出ないうつろな青春。

 こまかい気づかいゆえに僕は、自分の生涯をふいにした。

 ああ、心がただ一筋に打ち込めるそんな時代は、ふたたび来ないものか?

    出展:『イリュミナシオン』金子光晴訳, 角川文庫

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?