見出し画像

【時事寸評】日本の英語教育は実務には向かない(1)

前記事(少子化問題について騒めく「愚」)内で、若人は語学力をしっかり身につけて貰わないと困る、と書いた。
できるだけ多くの若人が日本国外の企業に働き、実力至上主義の仕事の進め方に触れ、併せて、極めて合理的で真摯な日常生活に学んでいただき、日本国内の社会機能や企業文化を変革して欲しい、と心から願っている。
その為には、先ずは外国語教育をピシャッと充実せねばならない。

鹿児島に育ったスピンは地元の大学を卒業して東京の精密機械を製造・販売する企業に入社し、最先端の通信機を販売する部門に配属された。
当時、通信という分野は概してアメリカ企業群が世界をリードしていた。
その為、本場アメリカで勉強したいと考え、その旨を上司に申告していた処、運よく、ニューヨークの駐在員として派遣されることになった。

合計5年余の短い経験だったが、日本人であることを再認識した、合理的な仕事の方法を学んだ、どんな人種とでも意思疎通を果たすためのいろいろなメソッドというものを知ることができた、本当に貴重な経験であった。

その経験をもとにした本稿の趣旨を先に書かせて頂くと、
①本場で聴く生の外国語は難しい 
②日本で教える英語は海外には通用しない 
③英語ができるようになったら他の外国語にもチャレンジできる
 (英語もできなかったら他の外国語を学んでも、たぶん理解できない)
ということになる。

①本場で聴く生の外国語は難しい

スピンは、鹿児島の中学から大学まで英語を学んだ。10年間の学習経験がある筈だが、米国で最初に接する入国審査官の言葉が全く理解できなかった。
その審査官(黒人、独特の、スラング交じりの言葉を使う)は、
「アメリカに入国する目的は?」
「英語は判らないのか?返事をしろよ!」
「オイ、また一人言葉が判らん奴が入国したがってるヨ、ヤレヤレ!」
と言ったのだが、この発音がまるで判らず、頭が真っ白になった。

入国して後の3ヶ月間ほど、配属されたマンハッタンの職場で、白人・黒人・チャイナ・スパニッシュ等々が喋っている言葉は、まるで雑音にしか
聞こえなかった。あとで判ったことだが、全員、英語で喋っていたが各人の言葉の発音と訛りのお陰で、脳内の英和辞書の文字に変換できなかった。

3ヶ月ほど経過した頃、彼らの言葉の中に定型句があることに気付き、よく
使われる単語を聴き取れるようになり、6ヶ月を過ぎる頃、夢の中で英語を使う自分を発見した。この頃になってようやく、アメリカで暮らしていく
自信のようなものが湧いてきた。

さて、アメリカは移民の国であり、人種によって訛りが異なる。
大雑把に分類すると、裕福な白人層、中間以下の白人層、黒人層、ヒスパニックといわれるスペイン語系の人種層、東南アジア系人種層の5種類の言葉に大別できる。
更に、住む地域によって言葉の発音と響きが異なり、東部、南部、西海岸、カナダ近隣と大別できる。

つまり、人種層で5分類、地域で4分類の訛りがあるので、20種類の方言があるという事になる。
全国放送のテレビのアナウンサーが使う英語は、概ね中間白人層で東部の
住人の方言に近く、アトランタやテキサスのような南部の黒人層の言葉は、とても英語とは思えない響きを持っており、発音からして大変聴き取りにくい。

もう一つ難しくしている要素がある。それは、上流階級と下層階級で、同じ意味を表わすのに、使われる単語が異なる、という点。
例えば、「獲得する」という言葉の場合、裕福な白人層では acquire がよく使われるが、その他平民層では get を使う、ということ。
これらは、事前によく研究しておいて慣れないと応答できない。
イギリス英語とアメリカ英語で、単語が異なることはご存じだと思うが、
同じ白人層でも裕福度によって表現が異なるのだから、大変難しく、現地に
暮らさないと判らない。
無論、法律用語・医学用語など、専門分野によっても表現や使用単語が異なるのはご存じの通り。

さて、発音が難しい、という点だった。試しに、添付したYouTubeをお聴き頂き、I'm dreaming of a white Christmas ♫ を発音して頂きたい。
決して アイム ドリーミング オブ ア ホワイト クリスマス とローマ字発音風には発音しない。

引用した歌手トニー・ベネットはニューヨークに住んだイタリア系アメリカ人で、いわゆるエスタブリッシュメントと呼ばれる白人富裕層の発音とは
若干異なるが、黒人やアジア系・ヒスパニック系よりは、きちんと標準語的に発音している。

実は、アメリカ東部の富裕層住宅街内の幼稚園では、4~5歳の頃から、母音・子音などの発音練習を徹底的に施す。
日本では R と L の発音の違いを教えるちゃんとした教師は少ないが、アメリカでは幼児段階で、母音から全子音に至るまでビシッと発音を叩き込まれる。

きちんとした発音で言葉をしゃべるという事は、きちんとした家庭にて、きちんとした教育を受けていることを証明すること」であるので、使う言葉で既に、社会的な区別を受けているという事を意味している。

スピンの勤務先は、日系企業であるので、白人富裕層出身の社員はごく少数しかおらず、ほとんどの白人はアイリッシュやユダヤ・フランス・ドイツ系移民の出身者であった。だが、彼らも富裕層白人と対等に話したいが故に、仕事上ではきちんとした富裕層言語を使った(そうでないと昇格できないからである)。

「差別」と言えば、米国では住む場所ですら格式(というか区別というか)があり、富裕層が住むエリアは極めて整然としており、道路も庭も手入れが行き届いていて大変に美しい。
ヒスパニック(中南米などからの移民層)や黒人層・アジア系移民の住む
エリアは、足を踏み入れると直ぐにそれと判るほどに雑然とし、道路には
雑草が茂り、所構わず洗濯物が干してあり、店先ではガラガラ英語と謂われる独特の、新参者には意味不明な言葉が大声で使われている。

米国で、きちんとした会社にて働くためには、きれいな住宅地に住むためには、まず第一に、東部白人富裕層が使う発音を体に叩きこまねばならない。

この意味で、幼児期にきちんとした発音を叩き込まれない日本の英語教育では、アメリカではロクな仕事にはつけないと断言していい。
無論、日本的英語で話しても、まともな白人層から相手にしては貰えない。

この理屈はヨーロッパでも同様であり、海外へ雄飛する日本の若者への語学教育では、必ず認識頂かねばならない。

もう一つご参考に、正しい発音で歌われるブラームスのドイツレクイエム
の冒頭5分くらいのネイティブなドイツ語を、耳をそばだててお聴き頂き
たい。

如何でしょう? 単語のお終いまで、きちんとドイツ人らしく、発音している
ことがお判りいただける筈。日本外国語教育ではこの発音を教えないのだ。


 【時事寸評】日本の英語教育は実務には向かない(2) に続きます。
 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?