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リムスキー・コルサコフ:交響組曲 シェエラザード 作品35

Rimsky-Korsakov: Scheherazade
指揮:バレリィ・ゲルギエフ
演奏:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
演奏時間:42分43秒  At:ザルツブルグ音楽祭 2005年

愛する妻の浮気現場を発見し、怒り狂ってその首を刎ねて以来、人間不信に陥いったアラビアの王、シャリアール。
毎夜の伽を命ぜられる女たちをことごとく翌朝殺してしまう、暴君に成り
果てていました。

夜伽に送り込む候補に窮する大臣たちが考えあぐねた末、最後の切り札に
呼び出したのが、大臣の娘で、機知と美貌を噂された「シェーラザード」。

大臣達から、王を元の誉れ高き名君に何とか戻して欲しいと頼み込まれた
シェーラザードは一計を案じ、その夜から王シャリアールに古今の冒険・
奇談を語り始めます。

シルクのベールの奥に見え隠れする美しい顔立ち。艶やかな衣装に豊かな
肉体を慎ましく隠しこんだ、シェーラザードから発せられる魅惑の声、
不思議な物語。

白檀や龍木などのアロマの香り立ち込めるアラビアの王宮の奥。
けだるく更けていく常夏の宵。
・・・王シャリアールは知らず知らず、話に引き込まれていきます。

船乗りシンドバッドの不思議な冒険、アリババと盗賊たちの物語、アラジンの不思議のランプ・・アラビアン・ナイト「千夜一夜物語」の始まりです。

無表情に話を促す王シャリアールの威厳と恐怖をあらわす、オーケストラの
ユニゾン(最大音)。

ソロ・バイオリンのかぼそい音で表現されるシェーラザードは、不思議の
雰囲気を醸しだすハープの伴奏に乗って、まるで、魔法のじゅうたんの上に 「ホラ・・!」 と魔術のように物語を広げて見せてくれるのです。

シンドバッドが乗り出した冒険の海、インド洋の、振幅 数百メートル・
高低差 数十メートルの大うねりを思わせるオーケストラの振動が、
異国から集められた品物で溢れかえるバグダッドの雑踏を思わす、メランコリックなメロディの数々が、
幻想的にして絢爛、色彩感に満ち溢れた アラビアン・ナイトの物語へ
いざなってくれます。

この魅惑的な音楽を作曲してくれたのは、リムスキー・コルサコフ。

帝政ロシア末期の貴族の家に生まれ、サンクトペテルブルグ海軍兵学校からロシア海軍に進みました。
そこで、後にロシア5人組の一人と称されたバラキレフに出会い、作曲家の道を歩むことになります。

交響組曲「シェーラザード」は、交響曲風に4つの楽章で構成されています。約1時間の大曲です。
第1楽章 「海とシンドバッドの船」
第2楽章 「カレンダー王子の物語」
第3楽章 「若い王子と王女」
第4楽章 「バグダッドの祭り。海。船は青銅の騎士のある岩礁で難破」

各楽章の始まりに必ず現れる「シェーラザードのテーマ」と王のテーマが
絡み合っていく様は、時折、鳥肌が立ちそうになる位、妖しいものです。

さる方のレビューの文章が大変素晴らしいので、ご紹介します。

ここから*****
憤怒の形相で仁王立ちする王の前にひざまずき静かに話し出すシェーラザード(きっとね)、
市場の喧噪、奴隷商人の呼び声と踊り狂う女達(恐らく)、
その地上から大きく飛び立ってみれば、視線の先には海がうねり、船が嵐に
揺られている(そんな風に見える‥)、

吹き荒れる風と大波にもまれる船(かな~)
波が押し寄せ押し寄せついにはのみ込まれる船(に違いない!)
船影なく荒々しい海に何故か太陽が明るく輝く‥
って、私でさえいくらでも想像できてしまうのだな。
それにしても、あぁ麗しの都はバグダッドでした、バグダッド‥。
***** ここまで。如何でしょう、素敵なレビューですね~!

さて、ここから先を書こうかどうしようか迷いましたが、(長くなりそうなので…)ちょこっとだけ。

この曲の第3楽章くらいから、どことなくロシアの匂いがし始めます。

第4楽章に入る前のシェーラザードのテーマは、
それまでの「か細い魅惑の弦」から少し変化し、少しく確信に満ち、説得力を感じさせるようになります。
チャイコフスキーの第4交響曲に似た、
ショスタコービッチの第9交響曲に似た、
荒々しい旋律とリズムが顔を覗かせます。
それにしても、また意味深な表題をつけたものです。「難破」とはね~・・

はて、リムスキーコルサコフは、この「シェーラザード」の物語の向こう側に、どのような思考を詰め込んだんでしょう…? 

そういえば、ロシアの作曲家の多くが物語りにメロディをつけたものを多く書き残しているのです。
シェーラザード・火の鳥・ペトリューシカ・禿山の一夜・・・どれもが、
何かを言いたげです。

その「何か」について、考え込んでしまうスピンなのです。
それがクラシックを聴く、一つの楽しみとはいえ・・・

さて、
この曲は1888年に発表されました。同じ年、この曲の発表の噂を聞いていた
チャイコフスキーが、ロシアの後輩の追撃を迎え撃とうと書き続けてきた
交響曲第5番を発表します。

その チャイコフスキー:交響曲第5番へまいりましょう。


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