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チャイコフスキー:交響曲 第6番 ロ短調 作品74 ≪ Pathétique ≫

Pyotr Tchaikovsky:Symphony No. 6 ≪ Pathétique ≫ in B minor, Op. 74
指揮:マレク・ヤノフスキ
演奏:ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団
収録:2019年

00:00 第1楽章 Adagio – Allegro non troppo
17:32 第2楽章 Allegro con grazia
24:54 第3楽章 Allegro molto vivace
33:49 第4楽章 Finale: Adagio lamentoso

チャイコフスキー53歳の1893年10月28日、交響曲第6番『悲愴』作品.74は
彼自身の指揮によりサンクトペテルブルクで初演されました。

チャイコフスキー自身は若年時から作品評価を気にしがちなタイプだったようですが、この曲については、独創性に溢れる楽章構成を自ら讃え、初演後は周りの人々に「この曲は、私の全ての作品の中で最高の出来栄えだ」と
語るほどの自信作であったようです。

チャイコフスキーの又甥のゲオルギイ・カルツォーフの妻で歌手であった
アレクサンドラ・カルツォーワの回想録「チャイコフスキイの思い出」に、以下のような思い出が記述されています。

チャイコフスキーが本作の初演後、従姉妹のアンナ・ペトローヴナ・メルクリングを家まで送る道中、アンナ・ペトローヴナに対して「新作の交響曲が何を表現しているか分かったか」と尋ね、彼女が「あなたは自分の人生を描いたのではないか」と答えたところ「図星だよ」と言ってチャイコフスキーは喜んだ、と記しています。

そして、アンナ・ペトローヴナに対して、
「第1楽章は幼年時代と音楽への漠然とした欲求、
「第2楽章は青春時代と上流社会の楽しい生活、
「第3楽章は生活との闘いと名声の獲得、
「最終楽章は〈De profundis(深淵より)〉さ。人はこれで全てを終える。

「でも僕にとってはそれはまだ先のことだ。
「僕は身のうちに多くのエネルギー、多くの創造力を感じている。
「僕にはもっと良いものを創造できるのがわかる。
と話したと述懐しています。


この「De profundis(深淵より)」という言葉は、旧約聖書の 詩篇130篇 『主よ、深き淵よりわれ汝を呼ぶ』(Psalm 130)
  "From the depths, I have cried out to you, O Lord"  を指すラテン語です。

詩篇130篇は、神への敬虔な祈りの章で、多くの作曲家が曲を付けています。代表的なものは、J・S・バッハの
教会カンタータ BWV131 『主よ、深き淵よりわれ汝を呼ぶ』
aus der tiefen rufe ich herr zu dir bwv 131” で ありましょう。

チャイコフスキーの思考の中にバッハのカンタータがあったかどうかは判りませんが、彼が言い残した「第4楽章は〈De profundis(深淵より)〉さ」という言葉は「第4楽章は、神への祈りだよ」という意味だと思うのです。

特に「祈り」を象徴していると感銘するパートが”第4楽章”にあります。
そのほぼ終盤に、タムタムという打楽器がなるのです。
まるで、ムソルグスキー作曲「展覧会の絵」の最終曲「キエフの大門」を思い出させてくれる密やかな鐘の音で、深い祈りを思わせる印象深い部分です。

では、チャイコフスキーが「Pathétique」と名付けた第4楽章で「祈った
こと」とは、一体なんでしょう・・・。

私スピンは、愛する祖国ロシアの崩落を哀しみ、人々の安寧を祈り、祖国の未来の復興を願ったものだ、と考えるのです。
それが故に、冒頭にご紹介した回想録「チャイコフスキイの思い出」の中で、「以降も変わらず人々の為に音楽を創り続けようと考えている」と
言っていたのだ、と思うのです。


まことに残念なことに、交響曲第6番『悲愴』作品74 の初演から9日後に
チャイコフスキーは53歳の若さで急死なされました。
現在ではコレラおよび肺水腫による急死と考えられています。

ロシアのみならず世界が、その死を悼み、ロシア皇帝アレクサンドル3世によって国葬に付され、遺体はサンクトペテルブルクのアレクサンドル・
ネフスキー大修道院の墓地に埋葬されました。

ご存じの通り、ロシアは共産主義革命により崩壊し、現代まで、その混乱は続いています。願わくは、ロシアが平和国家に立ち返り、人々の元に、チャイコフスキーの願った平穏が還り来たることを願ってやみません。


お読みいただきました皆様へ、

ベートーベンのご案内ののち、いわゆるロマン派の音楽を後回しにして
チャイコフスキーの作品をご案内いたしました。
ロマン派の音楽のご案内には少しばかり音楽と政治の絡み合いを描く必要があり、力を貯めることが求められると案じております。その為、勝手ながら数日間のご猶予をいただきます。どうぞ、ご理解の程をお願いいたします。

スピンネーカ 拝


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