ゲンロン、シラスの東浩紀さんの、最近の新型コロナやロシアに対する発言への強い違和感について ~(訂正可能性を否定し破壊している)全体主義的な国家や政権を肯定し準備してしまう危険性について~(「人間の矛盾を理解出来なくなった私達へ…」より抜粋)

※「人間の矛盾を理解出来なくなった私達へ〜現状の日本の左派右派の間違い本質~…」の※補論H-1~H-5の抜粋です。
抜粋にしても長いので、時間がある時に読んで下されば幸いです。
※この文章から読んだ人は、「人間の矛盾を理解出来なくなった私達へ〜現状の日本の左派右派の間違い本質~…」もその後に読めば、更に理解が深まるとは思われます。

※補論H-1:東浩紀さんへの違和感、新型コロナに関する発言について

ところで、最近のゲンロン・シラスでの東浩紀さんの、特に新型コロナとロシアのウクライナ侵略に関しては、個人的な違和感がある事も事実です。

東浩紀さんは新型コロナに関して、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会(尾身茂会長)にかなり批判的です。

東さんの当初からの主張は「三密を避ける。無駄に出歩かない。そのうえで無理なく日常を送ればよい」(東浩紀 2020年4月6日)で、文面からすると大まかに言うと分科会などの提言とそれほど違う訳ではありません。
ところが、シラスなどで繰り広げられる分科会や尾身会長への批判はかなり辛辣です。

もちろん、東さんが会場への観客も顧客としているゲンロン ・シラス経営者としての立場から、緊急事態宣言などで、飲食店や小売店、スポーツ・音楽・演劇・映画などの有観客産業を規制する事に、怒りを表明するのは理解出来ます。
特に飲食店への狙い撃ちは、クラスター(複数発生事例)が飲食店では昨年夏含めてほとんど起きていなかった事を考えれば、やり易い所から不公平的に規制したと政府や分科会が批判されても仕方がない部分もありました。

私個人も昨年夏に、尾身会長含めて分科会が病床数拡大を積極的に提言しなかった事を批判して来ました。([1][2]


しかしその一方で、東さんがシラスなどで展開した分科会や尾身会長への批判はやや一方的で粗雑だったのではとも思われています。
東さんのシラスなどでの主張は、新型コロナは最小限の対策以外はほぼ放置すれば良いとの印象で、個人的には受け取られました。

しかし例えば、当初トランプ政権下で新型コロナ対策に積極的ではなかった(時事)アメリカは、現在の新型コロナによる死者は総計で100万人を超えています。(WORLD METERS)
ブラジルのボルソナロ大統領も新型コロナは「ちょっとした風邪」だと対策に反対の立場を貫いていました(楮佐古晶章/東洋経済 2020年4月14日)が、現在のブラジルの死者は総計で66万人を超えていてアメリカに次いで世界第2位の死者数になっています。(WORLD METERS)

もちろん国や地域によって傾向に違いがあるので比較は難しいですが、1国で10万人以上の死者が出る可能性の現状の中で、新型コロナの対策をやらないで放置して良いとの判断は、おおよそ常識的ではないと思われます。
となると、どのレベルの対策が必要か、そのグラデーションの中での判断になります。

ところで、日本の新型コロナウイルス感染症対策分科会には様々な考え立場の人が入っています。

例えば、岡部信彦氏(川崎市健康安全研究所所長)は、分科会の前身の専門家会議からのメンバー(首相官邸)で、現在の分科会でもメンバー(内閣官房)ですが、当初から緊急事態宣言については慎重な姿勢の立場の人でした。 (BuzzFeed 2021年1月6日)

また現在の分科会の尾身会長も、2020年7月2日の時点で既に「強力な自粛要請を行うことは、国民的なコンセンサスが得られないと思う」 (NHK 2020年7月2日)と、経済との両立が国民コンセンサスで重要との見解を述べています。(当時の尾身氏は専門家会議の副座長)

そして現在の分科会には、経団連の代表や、2021年(昨年)8月に「コロナ医療体制、2倍以上の拡充を求める緊急提言」(東洋経済 2021年8月17日)を共同で出した経済学者の小林慶一郎氏(慶應大学教授)も入っています。

つまり、現在の新型コロナウイルス対策の分科会は、感染防御と経済との両立を、様々なグラデーションの中からそのバランスある対策を、決断するメンバーで構成されているという事です。

ここでの判断に対して、(個々具体的な対案含めた批判でなく)"分科会""尾身会長""(感染症)専門家"などを主語にした批判は、いささか粗雑ではないか、と個人的には思われています。

東浩紀さんやシラスでは、この様なやや粗雑な"分科会"や"尾身会長""(感染症)専門家"などへの具体性を欠いた辛辣な批判が継続していたと思われます。

もちろん、やり易い飲食店などが対策で狙い撃ちされた感への経営者としての怒りは私も共感します。
しかし社会全体としては、感染防御と経済とのバランスある対策をグラデーションの中で決断している分科会に対しては、ではどのバランスの対策なら良かったのかとの対案含めた具体的な批判が必要になると、思われていました。

以前ゲンロン にも出演していた八代嘉美さん(幹細胞生物学)は、
専門家の限界、科学的助言の限界についてはその通りと思いますが、端的に言い切ることは、責任を専門家に押し付けて切り離そうとする政権側の思惑通りになるのではないかと…」(八代嘉美 2021年6月22日)と、東さんの「専門家」への批判に応答しています。

また『ゲンロン11』でも執筆している作家の柳美里さんは、自身の新型コロナ オミクロン株への感染経験から
「オミクロンは、断じて、ただの風邪ではない」
「闘病中のわたしが感じたのは、体の弱い幼児やお年寄りや基礎疾患を持つ人が、わたしと同じオミクロン株の症状に襲われたら、果たして耐えられるだろうか?命の危機に瀕する人もいるのではないかということです。」
(NHK 2022年2月7日)
と取材に答えています。

事実、当初軽症との予測がされていたオミクロン株はその感染力も含めて、日本ではこれまでより新規で2倍以上の死者を出してしまいました。 (OUR WORLD DATA)

ゲンロン・シラスでも、新型コロナに関しては東さんと(恐らく)立場の違う例えば八代嘉美さんや柳美里さんなどを交えて、(安易に敵味方や、対策の放棄かそうでないかに分けない)感染防御と経済・日常生活とのグラデーションの中で、具体的なより良い対策とは何だったのか、を議論する機会が必要だったのではと思われています。

これが個人的な新型コロナに関しての東浩紀さん、ゲンロン ・シラスへの違和感です。

※補論H-2:東浩紀さんへの違和感、ロシア・プーチン大統領によるウクライナ侵略に関する発言について

個人的な東浩紀さんへの違和感は、今回のロシア・プーチン大統領のウクライナ侵略に関してもあります。

プーチン氏は当時のエリツィン大統領に後継者として指名され、副首長、首長となり、第二チェチェン紛争の成果で2000年の大統領選に勝利し大統領になります。

チェチェン紛争は、ソ連崩壊前後にソ連内のチェチェンが独立を宣言、それを認めなかったロシアのエリツィン大統領がチェチェンに独立阻止の為の軍事行動を行う所から始まります。(第一次チェチェン紛争1994~96年)
その後、1999年にプーチン首相(当時)が再び行ったのが第二次チェチェン紛争(1999~2009年)です。

チェチェン紛争での民間人の死者は、アムネスティ(2007年)によると、第一次チェチェン紛争で数十万人、プーチン首相(~大統領)が始めた第二次チェチェン紛争で2万5000人(+行方不明者が数千人)という凄まじさでした。(アムネスティ2007年5月)
(2005年のアルジャジーラ報道では第二次チェチェン紛争だけで20万人の民間人死者との話も(週刊文春 2022年3月9日))

特にチェチェンの首都グロズヌイでの空爆は悲惨で、国連は「地球上で最も破壊された町」と当時表現していました。(Newsweek 2016年10月14日)
(参考)
2000年、チェチェン首都グローズヌィにおけるプーチンの「特殊作戦」(常岡浩介 2022年3月7日)


ところで、この第二次チェチェン紛争は、合わせて300人以上の死者を出したモスクワなどでのロシア高層アパート連続爆破事件(1999年8月31日~9月16日)のテロ翻訳)が発端になっています。

プーチン首相(当時)は、この連続爆破テロはチェチェンによるものだと断定し、その怒りを背景にチェチェンに空爆などの軍事進行(第二次チェチェン紛争)を行います。

ところがこの間に不可解な事が起こります。
一連のアパート連続爆破のさなか、ロシアのリャザンのアパートの地下で爆弾が見つかり、テロを未遂で防いだ事件(リャザン事件)がありました。
ですがこのテロ未遂事件に、ロシア連邦保安庁(FSB、旧KGB)が関わっているという事実関係が出て来たのです。
(不審者の通話先がFSB、爆薬の工場がFSBの管理下、FSBがダミーの訓練だったと関連を認めるなど)
(「Russians wonder: Bomb plot or drill?」 ロサンゼルス・タイムズ 2007年3月4日(翻訳))
林克明/日刊SPA!  2022年03月12日
「プーチン・ファシズム」常岡浩介/月刊現代2004年11月号

つまり、連続アパート爆破テロにロシア政府(当時のプーチン首相)が自作自演で関わっているかもしれないという疑惑です。

疑惑はこれでは終わらず、後にアパート爆破事件にFSBが関わっていたかどうかを調査していた、セルゲイ・ユシェンコフ下院議員が2003年4月17日に射殺されます。翻訳

同様の調査していた独立系新聞ノーバヤ・ガゼータのユーリ・シェコチーヒン記者翻訳)も、2003年7月3日に「髪が抜け落ち、全身の皮膚が剥がれ、内臓が次々に麻痺」するなどして不可解に亡くなります。(COURRIER 2021年10月21日)


チェチェンによるとされたテロに関しては、2002年10月23日に起こったモスクワ劇場占拠事件翻訳)もあります。
死者は人質で約130人、犯人側で約40人に上りました。(死者のほとんどはロシア側が突入時に使用したガスによるものでしたが‥)

ところがこのモスクワ劇場占拠事件にも、ロシア政府あるいはロシア連邦保安庁(FSB)が関わっていたという疑惑が浮上します。

独立系新聞ノーバヤ・ガゼータのアンナ・ポリトコフスカヤ記者翻訳)は、それまでのチェチェンでのロシア軍などの蛮行を記事にしていて、モスクワ劇場占拠事件ではチェチェンの犯人側から占拠後に求められ、ロシア政府との間の交渉役として関わります。

ところが、このモスクワ劇場占拠事件の犯人側にいたはずのハンパシャ・テルキバエフという男が、なんと事件後の2003年4月にフランスで行われた欧州議会にロシア政府の代表団員として現れます。
「プーチン・ファシズム」常岡浩介/月刊現代2004年11月号
チェチェンニュース Vol.03 No.43  ※注2 2003年11月26日)

ポリトコフスカヤ記者はこのテルキバエフという男にインタビューします。
欧州議会ロシア政府代表団員となっていたテルキバエフは、モスクワ劇場占拠事件の犯人グループを先導し自らその一員として現場にいた事実を認めます。
そしてその証言の後の2003年12月に、テルキバエフはチェチェン首都グロズヌイで交通事故により亡くなります。

テルキバエフを取材したポリトコフスカヤ記者も、その後もチェチェンでのロシア軍を含めた殺害やレイプなどの蛮行の記事を書き続けプーチン政権を批判していましたが、2006年10月7日に射殺されます。( GLOBE朝日 2021年10月20日)



元FSB職員のアレクサンドル・リトビネンコ氏翻訳)も、ロシア高層アパート連続爆破事件とモスクワ劇場占拠事件は、双方共にロシア連邦保安庁(FSB)が関わっていると証言しました。

しかしそのリトビネンコ氏も、亡命先のイギリス・ロンドンで、2006年11月23日に放射性物質ポロニウム210により亡くなります。(産経 2016年1月25日)
その後、イギリスの内務省は2016年1月21日に、リトビネンコ氏の暗殺事件について「プーチン大統領がおそらく承認した」とする調査結果を発表しています。(日経 2016年1月21日)


個人的には、チェチェンが関わったとされる2004年9月1日に起こった北オセチアでのベスラン学校占拠事件翻訳)(ロシア側の突入により386人以上が亡くなる(うち186人が子供))も合わせて、例えエリツィン大統領とプーチン大統領がチェチェン独立を阻止する為に行ったチェチェンでの戦闘や空爆などによるチェチェン人への殺戮が酷過ぎていたとしても、テロで直接関係ない民間人を標的にするのは私は許されないと思っています。

しかし一方で、ロシア高層アパート連続爆破事件とモスクワ劇場占拠事件などに、ロシア連邦保安庁(FSB)やロシア政府(プーチン大統領)が関わっている疑惑が出て、それを調査していた記者や政治家や関係者が次々と殺されて行った事実は、異様を通り越して異常であると思われます。

プーチン政権に批判的な記者はその後も何人も殺害されています。(COURRIER 2021年10月21日)



プーチン大統領はメディア支配にも手を伸ばします。

実業家のボリス・ベレゾフスキー氏はORT(ロシア公共テレビ、現在のチャンネル1)の当時オーナーでした翻訳)が、プーチン大統領の圧力によりORT(ロシア公共テレビ)の経営権をほぼ強制的に手放さざるを得なくなりました。ORTの編集権はその後クレムリンに譲渡されます。
ベレゾフスキー氏はその後、2013年3月25日に亡命先のイギリスのロンドンで首を吊って死亡しているのを発見されます。(ロイター 2013年3月26日)

独立テレビ(NTV)の当時オーナーだったウラジーミル・グシンスキー氏翻訳)も、資金不正使用を口実に2000年6月13日に逮捕され、経営権の譲渡が釈放の条件になりました。
(「言論を支配せよ~"プーチン帝国"とメディア~」NHKスペシャル 2008年5月12日)
その後、独立テレビ(NTV)はロシアの半国営企業ガスプロムに強制的に買収されます。

こうしてそれまでは自由にプーチン首相~大統領を批判していたTV局(大場正明/Newsweek日本版 2022年04月07日)は、プーチン大統領の支配下に入ります。
そして、元あった国営テレビ(ロシア1)と、2005年に開局し特にプーチン大統領のプロパガンダメディアと指摘されているRT(元ロシア・トゥデイ)と合わせて、主要なTV局はプーチン大統領が全て意のままになる体制が出来上がりました。


その後プーチン大統領は、シリアのアサド政権の安定の為(BBC 2015年10月12日)に、2015年9月30日にシリアで空爆を開始し、シリアに軍事介入します。(BBC2015年10月1日)


シリアでは2011年のいわゆるアラブの春に民主化運動が起きました。
シリアでの当初の民主化運動は非暴力の運動でした。
その非暴力の民主化運動のデモに対してアサド政権は銃を撃ち、自国民を複数回、時に100人以上の死者のレベルで殺害します。
その結果、民主化デモの参加者は非暴力を諦め、アサド政権・大統領に対して銃を取って戦い始めます。
(参考:映画『それでも僕は帰る』2015年シリア)

その後シリアのアサド大統領は、拷問や殺害、子どもまでも拉致し殺したりとの国民弾圧を続けていました。
(「シリア 国民弾圧の実態」BS世界のドキュメンタリー2012年4月19日/ITN Productions イギリス2011年)
アサド政権は2011年からの5年間で1万3000人を絞首刑したとアムネスティから報告される国民虐殺も行っています。(「アサド政権「5年で1万3000人を絞首刑」 アムネスティが非難」 AFP 2017年2月7日)

元国際法廷主任検察官3人が2014年に出した報告書では、シリア内務省所属の憲兵隊から離反した人物から提出された、1万1000人の被拘束者の(中には目のない遺体や、絞殺や電気処刑のあとがみられる)遺体を写した約5万5000点のデジタル画像がある事を証拠として示されています。
(「「アサド政権による虐殺の証拠入手」元国際法廷検察官らが非難 シリア」 AFP 2014年1月21日)

プーチン大統領は、そんな国民弾圧と虐殺と徹底した反政府組織への空爆をしていたシリアのアサド大統領を助ける為に、2015年にシリアに軍事介入します。
そしてプーチン大統領は、アサド大統領と一緒になってシリアの反政府組織への無差別空爆を続けます。

元々はイラクやシリアなどで残虐行為を続けていたIS掃討の為の空爆だったはずですが、ロシアの空爆の比重は、ISに対してよりも反政府組織に対しての方が重点的でした。
(ISW 2015年11月20日)


ロシア軍はシリアの反体制組織への空爆を無差別で行い、それはチェチェンのグロズヌイでの空爆を思い起こさせました。
(参考:『アレッポ最後の男たち』2017年/デンマーク・シリア 監督: フェラス・ファヤード
https://www.youtube.com/watch?v=kTCd7BesU9g

その結果、シリアでは無差別空爆による破壊に次ぐ破壊で犠牲者は38万人を超えました。(朝日2021年3月25日)
反政府組織がいた地域に関しては、ほぼアサド大統領とプーチン大統領がやった事です。

プーチン大統領(当時首相)による1999年からのチェチェンのグロズヌイでの無差別空爆は、シリアでも反復されました。
そして今回のウクライナでもさらに反復されています。
(「ウクライナを見守るシリアの人々、アレッポでの惨状が再び」CNN 2022年3月21日)


ロシア国内では、ロシアによるシリア軍事介入の前の2015年2月27日に、プーチン政権を批判していたボリス・ネムツォフ氏(エリツィン大統領の時の第一副首相)翻訳
射殺されます。(ハフポスト 2015年02月27日)


2020年8月20日にはプーチン大統領を激しく批判していた野党指導者のナワリヌイ氏翻訳)に毒が盛られて(AFP 2020年8月20日)、9月8日に意識が回復するまで意識不明の重体でした。

ナワリヌイ氏は2021年1月18日治療を受けたドイツからロシアに帰国直後に拘束され(BBC 2021年1月18日)、過去の有罪判決の執行猶予が取り消され禁錮3年6カ月の刑を受けます。(BBC 2021年2月3日)
さらにナワリヌイ氏の罪は2022年3月23日に禁錮9年に大幅延長される判決を受けます。(BBC 2022年3月23日)


最近も2021年のロシア下院選挙にナワリヌイ派の女性候補者が選挙活動を妨害され、最後には立候補すらさせない決定がなされた事を伝えるドキュメンタリーが日本でも放送されました。
(「プーチン政権と闘う女性たち」 BS世界のドキュメンタリー2022年2月25日/イギリス2021年)


テロの自作自演が疑われ、その疑惑を調査したり告発した記者や政治家や関係者が次々に殺害され、TV局を強制的に国の配下に収め、チェチェンやシリアで数万~十万人以上の民間人合わせた死者を出す無差別空爆を行い、政権批判する政治家が殺害されたり毒を盛られたり拘束されたり立候補を出来なくさせられる‥
プーチン大統領はそれら全てに関わったり関わりの疑いが持たれています。

プーチン大統領への評価はもう十分材料が出揃ってないですか?
プーチン大統領への評価は、プーチン大統領によるウクライナでの蛮行の反復を待つまでもない話だと思われます。

方やウクライナやゼレンスキー大統領にプーチン大統領に匹敵する落ち度があったとは私には思えません。

東欧の国も、このような全体主義的なロシアか自由民主主義の西欧かのどちらを選択するか、自主的に選択して来たまでの話だと思われます。
東欧の国がEUやNATOに参加するかを決定するのは、その国の国民や政権であって(東野篤子 筑波大准教授)、(例えロシア、アメリカの双方からの働き掛けがあったとしても)決定するのはロシアでもアメリカでもないのです。

個人的には、東浩紀さんの言うウクライナとロシアは「どっちもどっち」(東浩紀 2022年3月21日)という考えにはほとんど全く同意する事は出来ません。

20年以上に渡り粗雑に敵味方に分けて妄想的に敵を殺害などで排除して来た(訂正可能性を否定し破壊し続けて来た)のはプーチン大統領の方なのです。
東さんの思想からも、20年以上に渡り訂正可能性を否定し破壊して来た全体主義的なプーチン大統領こそ、まず批判され退けられる対象だと思われてなりません。

※補論H-3:橋下徹氏のロシア侵略に対する見解への違和感について

ところで今回のロシアによるウクライナ侵略に関して、東浩紀さんと近い考えとの個人的な受け止めの人に橋下徹氏がいます。

この件に関する橋下氏の主張には様々あるのですが、橋下氏の主張の根本は「NATOとロシアで政治的妥結をはかるべき」(橋下徹 2022年3月12日)だと思われます。

橋下氏は、オリバーストーン監督によるインタビュー映像を見て「NATOとこじれていくプーチンの怒り」(橋下徹 2022年2月27日)を感じ、NATOの東欧拡大が今回のロシア・プーチン大統領によるウクライナ侵略の要因と見ているようです。

しかし、自国民の敵対者や批判する記者を殺害したり、万単位の民間人を空爆などで殺害して行く(訂正可能性を否定し破壊して行く)全体主義的なロシア・プーチン大統領と、アメリカなどからも働き掛けがあったとしても自由民主主義の欧米とで、どちらを選択するかの権利は、東欧の国々にとってもその国の国民や政府にあります。
プーチン大統領が、東欧の国々がロシアを選択しなかった理由を理解せず、プーチン大統領自らが省みる事をしないで責任を他者に転嫁しているのであれば、個人的にはプーチン大統領は肥大した被害妄想に覆われていると言うしかありません。

また、今回のロシアの停戦条件は2022年2月28日の時点で、(ウクライナがNATOに加盟しない中立化だけでなく)ウクライナの非武装化や、クリミア半島のロシア主権の承認が含まれ(産経2022年3月1日)、NATOに関連しない項目もありました。
そして特に、ウクライナの非武装化や、クリミア半島のロシア主権承認は、ウクライナが到底受け入れられる条件ではありません。

また2022年3月7日の停戦協議では、ロシアの停戦条件に、東部のドネツク州とルガンスク州の全域での親ロシア派による主権承認も加わります。(AFP 2022年3月7日)
しかし、東部のドネツク州とルガンスク州の全域で親ロシア派による主権を承認する事も、到底ウクライナは受け入れる事は出来ません。
それは武力による侵略で主権国家の領土を奪う行為を、認める事になるからです。

つまり、橋下氏がいくら「NATOとロシアで政治的妥結」を主張しても、NATOとは関係のない、ウクライナが受け入れられない、クリミア半島や東部の領土をロシア領や親ロシア派領として認める事がロシアの停戦条件になっているのです。
つまり、その停戦条件の変更をロシアに促さない限り、停戦合意は不可能だと言う話です。

3月29日の停戦協議でも、ウクライナはクリミア半島や東部に関して15年かけて協議や交渉と譲歩していますが、ロシアは東部やクリミア半島に関して一切妥協していません。(東京2022年3月31日)


私個人も、戦争が早期に終結し停戦が早く行われる事を願っています。
しかし一方で、侵略した側の武力による領土割譲の言い分が全て通る停戦条件を飲む事など、ほとんど不可能です。
その中で苦慮している侵略された側の政権を単純化して批判する事など、さすがに許されないでしょう。
停戦協議でも批判対象は武力による領土割譲で妥協しないロシア・プーチン大統領にあるはずです。
また、ロシアの武力による領土割譲の要求に対して疑問や批判を持っている人を、"停戦を望んでない人"と単純化して批判するのも、粗雑に敵味方に分ける間違った考えだと思われています。


あと補足ですが、ロシアはこれらに加えて非ナチ化を停戦条件に加えています。(産経2022年2月26日)

しかしウクライナの極右政党は、2019年のウクライナ最高議会選挙翻訳)では、全ウクライナ連合「自由」(スヴォボーダ)翻訳)や右派セクター翻訳)などが統一名簿で戦うも、全450議席中で1議席しか獲得出来ておらず、極右政党は既にウクライナ国民の支持を得られていません。

またウクライナでは2015年に、(共産主義と共に)ナチス的全体主義を非難し、それらのエンブレムを用いたプロパガンダを禁止する法律が制定されています。(「脱共産主義法に関する考察」田上雄大、「共産党やナチのシンボルを使用することが禁止」アムネスティ 2015年12月25日)

あと、よく名前が上がるアゾフ大隊(連隊)も、当初は問題も指摘されていましたが、CNNの取材に対する声明で「ファシズムやナチズム、レイシズムに関する疑惑を否定」しています。
隊にはユダヤ系の隊員もいて、ゼレンスキー大統領がユダヤ人である事も指摘し、アゾフ大隊(連隊)がレイシズムやナチズムと結びつけられるのは全くばかげていると反論(CNN 2022年4月2日)しています。

ロシア・プーチン大統領による、ネオナチがウクライナを支配しているかの様な主張は、いささか針小棒大に個人的にも思われています。

反対に、チェチェン、シリア、そして今のウクライナで行っている民間人への空爆や射殺などによる殺害などの蛮行によって、ロシア・プーチン大統領の方がナチに近いとの評価は、おおよその国際理解なのではないでしょうか。

(※ところで、2014年から始まったウクライナ東部での紛争では、ウクライナ政府軍と親ロシア派武装勢力の双方による拷問や民間女性への性暴力が報告されています。

政府軍のある兵士は、「ウクライナに栄光あれ」という入れ墨を入れていた右腕を親露派におので切断されたと訴えている。また、ドネツク(Donetsk)で政府軍に拘束されたある親露派戦闘員は、顔にポリ袋をかぶせられて窒息させられそうになった上、繰り返し殴打されたと明かしている。」(AFP 2014年11月21日)
ウクライナ紛争で「政府軍と親露派双方が拷問」 国連報告書」 (AFP 2014年12月16日)
ウクライナ紛争ではびこる性暴力…政府軍と武装勢力双方による性暴力が吹き荒れている」(Newsweek 日本版 2017年12月18日)

当然、2019年までに報告されているウクライナ政府軍と親ロシア派武装勢力の双方の暴力行為は、許されない暴挙として批判する必要があるのは言うまでもありません。)

※補論H-4:東浩紀さんの新型コロナやロシア・プーチン大統領への発言と、オープンレター提出者との共通項について

ところで、新型コロナや、ロシア・プーチン大統領のウクライナ侵略における東浩紀さん発言への私的違和感は、歴史学者の呉座勇一氏のTwitter発言に関するオープンレター問題にも通じていると個人的には感じています。

呉座勇一氏のTwitter発言に関するオープンレター問題とは、呉座氏が自身のTwitter鍵アカウントの中で、イギリス文学者の北村紗衣氏を揶揄し中傷する発言をしていた所から始まります。
Twitter鍵アカウントとは、そのアカウントの持ち主にフォローを許可されたフォロワーしかツイートを見る事が出来ないアカウントの事です。

その呉座氏の鍵アカウントでの北村紗衣氏に対する揶揄中傷ツイートが、北村氏本人に2021年3月17日伝わります。(北村紗衣 2021年3月17日)
その後も同様の揶揄中傷ツイートが北村氏に伝わって行きます。([1][2][3]

その数日後の2021年3月20日に、呉座氏は北村氏に、
北村紗衣さんに対する一連の揶揄、誹謗中傷について深く反省し、お詫び申し上げます。…」(呉座勇一 2021年3月20日(アーカイブ))
と謝罪します。

私はこの件を随分後で知ったのですが、この呉座氏の謝罪の時点で止まっておけば良かったと思われています。
なぜなら、呉座氏の鍵アカウントでの揶揄や中傷は良くないと私個人も思われますが、一方で、内容自体は本人が謝罪しているのを超えてさらに批判を重ねる内容でもないと思われたからです。
私達は(良くないですし、私個人はほぼやりませんが)裏の仲間内で、相手の揶揄や中傷めいた事を憂さ晴らし的に発言する事も少なくないと思われます。
それは政治的な左派右派でそう変わらないとも思われます。

私個人は裏で中傷めいた事を言い合うのは好みでないですが、一方で(良くないですが)左派右派立場関わらずそう言わずにはいられない人間のサガを否定するのも違うと思われています。
そんな(左派右派など関わらず)ちょっとした裏側の憂さ晴らしまで、取り締まり的に発言を封じて行く社会の方が私個人は恐怖を感じます。

この呉座氏の謝罪の直後の2021年3月23日に、呉座氏が大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の時代考証を降板したと発表されます。(朝日2021年3月23日)

大河ドラマの時代考証の降板は呉座氏本人からの申し出との事ですが、私個人は降板の必要はなかったと思われます。

2021年3月24日には、呉座氏の所属先である国際日本文化研究センターから呉座氏への厳重注意と関係者へのお詫びのリリースがあります。
(「国際日本文化研究センター教員の不適切発言について」(※2021年3月26日追記)(アーカイブ))

そしてその後の2021年4月4日に「女性差別的な文化を脱するために」とのオープンレターが連名で出されます。(アーカイブ)
(このオープンレターは2022年4月4日に公開が終了しています。

このオープンレターは賛同者の署名が勝手に使われる(古谷経衡 2022年2月15日)などの問題も起こるのですが、そもそもオープンレターの内容自体も問題あったと個人的には感じています。

オープンレターでは、「中傷や差別的発言を、「お決まりの遊び」として仲間うちで楽しむ文化」を「男性中心主義文化」として厳しく批判しています。
そして「中傷や差別的言動を生み出す文化から距離を取ることを呼びかけ」ています。

この内容は一見正しい様ですが、しかしよく考えてみると「男性中心主義文化」の定義は大変曖昧で、さらに「中傷や差別的言動」の線引きも曖昧で、これでは恣意的にこれは中傷だ差別だとの指定が可能になり、一方的な言論萎縮効果を生み出しかねません。

これではちょっとした仲間内での揶揄的な発言も全く禁止されるというゾッとする話になってしまいます。
オープンレターの呼びかけ人や賛同者は左派識者も多いと思われますが、右派発言をしている人に対して全く揶揄や中傷などやった事のない人達ばかりなのでしょうか。
それとも左派界隈での右派への揶揄中傷は許されて他は許さないとの主張なのでしょうか。

個人的には、【裏での】揶揄や中傷は(良くない事だと思われますが)、程度が軽いものであればある程度は許される行為とも思われています。
もちろんそれが公になってしまえば、本人に謝罪は必要になる場合もあるでしょう。
その時は撤回謝罪あり以降改善されるのであれば、それで終わりにした方がいいと私個人は思われています。


オープンレターの後、呉座氏は2021年9月21日に所属の国際日本文化研究センター(日文研)から懲戒処分を受け(京都新聞 2021年10月20日)、呉座氏はその前の2021年8月に日文研の准教授の決定を取り消され、日文研に対して地位確認の訴訟を行います。(京都新聞 2021年11月25日)

裁判がどうなるかは不明ですが、私は日文研の処分はさすがにやり過ぎだと思われています。


ところでこの呉座氏に関するオープンレター問題と、新型コロナや、ロシア・プーチン大統領のウクライナ侵略における東浩紀さんの発言とが通じているとはどういう事でしょうか。

それは、オープンレター提出者と東浩紀さんは、双方共に自身の領域に踏み込まれると、相手を敵味方に分けて厳しく批判しブレーキが掛からない(掛かり辛い)傾向があるのでは、という話です。

それを示したのが下の図アになります。

しかしオープンレター提出者と東浩紀さんでは、その領域の立ち位置は違うと思われます。

オープンレター提出者は、図アの左下の青い楕円の「排他的な人権的自由」(左派的:排他的な「離脱」による回復)が領域だと思われます。
一方で、東浩紀さん(あるいは橋下徹氏)は、図アの右下の緑の楕円の「排他的な経済的自由」(右派的:排他的な「欲望」の解放)が領域だと思われます。

「人権的自由」、つまり「「離脱」による回復」については、(「人間の矛盾を理解出来なくなった私達へ…」の)1-3.[消費場面]についてで詳しく説明しました。
「経済的自由」、つまり「「欲望」の解放」については、(「人間の矛盾を理解出来なくなった私達へ…」の)1-1.[生産場面]についてで詳しく説明しました。

双方の「排他」性の意味は以下になります。
オープンレター提出者の「排他」性は、呉座氏が既に謝罪しているのにブレーキを掛けられず、「人権的自由」の領域に踏み込まれたと、相手を「男性中心主義文化」と粗雑に敵味方に分けて、相手の存在が無くなる域まで批判し続ける印象を指しています。
東浩紀さんの「排他」性は、自身の「経済的自由」の領域に少しでも抵触すると、相手のグラデーションある立場を具体的に踏まえないまま、粗雑に敵味方に分けて相手を批判し続ける印象を指しています。

東浩紀さんは新型コロナに関しては、様々な研究成果や、分科会メンバーの考えの様々なグラデーションある違いを踏まえないまま、グラデーションを踏まえた上での対案を示さず規制を全批判したり、粗雑に分科会のメンバーをまとめて批判したりして来たと思われます。
東浩紀さんはロシア・プーチン大統領のウクライナ侵略に関しては、そもそもプーチン大統領が20年以上粗雑に敵味方を分け敵を弾圧して来た(訂正可能性を否定し破壊して来た)蛮行の連続性に対して、グラデーションある苦渋の決断と行動をしているウクライナ側の具体的考えを踏まえないまま、ウクライナへの批判を行って来たと思われます。
また国際政治学者への辛辣な批判も続いていると思われます。

東さんは、ロシア・プーチン大統領に対して、今回のウクライナ侵略に対しては批判していますが、プーチン大統領の20年以上の蛮行についての明確な批判や否定は薄いと思われます。
そして、ロシア・プーチン大統領による粗雑に敵味方に分けて敵と見做した者を殺害したり投獄したり弾圧したり抑圧したりして来たりその疑いがある(あるいはプーチン大統領が助けたシリア・アサド大統領の)全体主義的体制を、東さんはしっかりと否定し退けられているとは感じません。

それは、中国政府が、香港での一国二制度の国際的な約束を反故にし言論の自由を明確に抑圧(BBC2021年4月17日)していたり、ウイグルでの裁判のない100万人の強制収容(BBC 2019年11月26日)や民族浄化の疑い(西日本新聞2021年2月4日)に対しても、同様だと思われます。

この理由は、東さんが、図アの右下の緑の楕円の「経済的自由」(右派的:「欲望」の解放)が守られるかどうかが第一の関心であり、「経済的自由」が守られさえすれば、東さんは結果的に(訂正可能性を否定し破壊する)全体主義的体制も容認してしまっている所にあると思われます。
(「経済的自由」以外の問題には関心が薄い「排他」性)
つまり、<他者を敵味方に安易に分けてはいけない>という東さんの思想の根本からの瓦解です。

なぜなら、今の全体主義的なロシアも中国も、政権に歯向かったり政権の領域に踏み込まない限り、「経済的自由」はある程度は補償されるからです。
そして「経済的自由」に重きを置く思想は、次第に全体主義的国家や政権を黙認し容認して行く事になると思われます。
いわば、全体主義を容認し全体主義の準備に手を貸してしまう危険性の話です。

(※「経済的自由」で全体主義的政権に歯向かい逆に制裁を受けた例としては、ロシアでは、ミハイル・ホドルコフスキー氏翻訳)が、2003年クレムリンでの新興財閥オリガルヒが集まった円卓会議でプーチン大統領に直接、ロシアでの賄賂横行やロシアの国営石油企業ロスネフチの不正を告発も、逆に脱税や詐欺で逮捕され10年間収監された例。翻訳)(VANITY FAIR 2012年4月号)
「経済的自由」で全体主義的政権の領域に踏み込んだ例としては、中国では、アリババグループが、アリババ副総裁の不倫に関する一般SNS発言を、アリババが出資するウェイボーから削除し、メディアと世論の監視を担当する中国共産党中央宣伝部から「中国共産党の領導を弱体化させる動きを断固防止しなければならない。資本による世論操縦のリスクを断固抑止しなければならない」と強い批判を受け、それをきっかけにモバイル決算や過剰な個人情報の取得などが問題視され、独占禁止法違反で182億2800万元(約3000億円)の制裁金を受けた例。(高口康太/現代ビジネス2021/4/16)
はあります。)

この、ロシア・プーチン大統領の様な、粗雑に他者を敵味方に分けて敵側を排除して行く(訂正可能性を否定し破壊して行く)全体主義的体制に、「排他的な経済的自由」の基盤によって引き寄せられてしまうのであれば、それは東さんの思想の弱点だと思われます。
そしておそらく東さん自身が1番その弱点を分かっていると思われます。

そしてその、粗雑に他者を敵味方に分けて敵側を断罪する「排他的な経済的自由」の感情は、オープンレター提出者が「排他的な人権的自由」に少しでも抵触した時に起こす感情と、残念ながらコインの裏表だと思われています。

また人々が妥協的に解決を求めて行く「民主主義」も、「経済的自由」を抑圧する一因にもなります。
東さんが「民主主義」を批判する(東浩紀 2019年9月26日)のもそこが根本理由と個人的には思われています。

ところで私達の多くは、「経済的自由」(右派的な「欲望」の解放)も「人権的自由」(左派的な「離脱」による回復)も、どちらも重要であると考えていると思われます。
そして「経済的自由」と「人権的自由」の深層は、((「人間の矛盾を理解出来なくなった私達へ…」の)1-2-1.[寛容場面]についてで触れた「<寛容>的な関係性」や、1-4.[蓄積された法秩序]についてで触れた「(蓄積され)明文化された人間関係のルール」と相まって)矛盾に満ちた人間を形成していると思われます。

そんな重層的なグラデーションの中での不断の具体的な解決策の決断が必要になるのです。

その時、暫定的に「経済的自由」や「人権的自由」にも妥協が求められます。
それに対する批判は、もちろん具体的に対案が示される形でなされる必要が出てきます。
なぜなら対案なき批判は、スローガン的に敵味方を分けて敵を断罪して自己慰安を獲得する、多くの私達にとっては、一部の党派にしか有効でない不毛で害悪な主張だからです。

今回のロシアによるウクライナ侵略に関しても、例えば停戦を主張するのであれば、具体的にどの様な停戦条件が必要かを自ら示す必要があると思われます。
対案の必要性は新型コロナに対する感染防御規制への批判でも同様だと思われます。
その是非は、関係する全員にとって(ロシアのウクライナ侵略ならロシアとウクライナの国民や住民の全員にとって、日本の新型コロナ対策なら日本の国民や住民の全員にとって)よりベターなのかで判断されます。

そしてそれに対しての更なる具体的な反論があれば、更に議論を深めて行く必要があると思われます。
それが一般から識者に求められる姿勢なのだと思われています。

東浩紀さんの思想は本来、(私の感違いでなければ)そんなグラデーションの中での具体的決断(訂正可能性)の話をしていたのだと思われます。
(訂正可能性を否定し破壊する)全体主義的な政権の粗雑に敵味方を分けて敵の存在を亡き者にして来た思想や考えを、退け批判した上で、様々なグラデーションの中で具体的に(時に自らも妥協を引き受ける形で)議論が出来る場所に、東さんの思想が示していた本来の場所に、東さん自身が戻られる事を、東浩紀さんの思想の読者としても強く願っています。

そして東さんに近い人だからこそ、安易に敵味方に分けて相手を断罪する場所からの共の離脱を、促して欲しいと思われています。

※補論H-5:ゲンロン代表の上田洋子さんの重要な立ち位置について

ところで、補論H-4でも示した図アの左側にゲンロン代表の上田洋子さんを示しています。

上田洋子さんは現在、ゲンロン代表(中央公論.jp 2021年11月12日)を務めていますが、その発言や文章の内容から個人的には左派的で、「人権的自由」(左派的な「離脱」による回復)に共感ある人だと思われています。
いわば「経済的自由」(右派的な「欲望」の解放)に重心がある東浩紀さんとは逆の立場と言えます。

しかし上田さんは単純なスローガン的「人権的自由」を唱える「排他」的な人ではありません。
そして上田さんはロシア文学が専門でもあり、単純なロシア批判の人でもありません。
しかし一方で、20年以上に渡るプーチン大統領の(訂正可能性を否定し破壊して来た)全体主義的な言動に対して強い批判がある様にも伝わって来ます。

さらに上田さんはゲンロン経営者として、「経済的自由」(右派的な「欲望」の解放)の重要性も体感しています。

つまり上田さんは、プーチン大統領の様な安易に敵味方に分け殺害含めた敵の排除をし続けている(訂正可能性を否定し破壊して来た)全体主義的な政権や国家を無意識に肯定してしまっている東さんを、本来のグラデーションの場所に引き戻す重要な役割が出来る人とも思われています。

上田さんは、ゲンロンが明確に(訂正可能性を否定し破壊して来た)全体主義的な政権や国家を批判して退け、その上で「人権的自由」と「経済的自由」との間にグラデーションで存在する(もちろんロシアや中国などに暮らす一般人々を含めた)様々な人々を肯定する為の、大切な役割を担う人になると思われています。

<参考文献>

身体の比較社会学 Ⅰ』大澤真幸/勁草書房
共同幻想論』吉本隆明/角川文庫
母型論』吉本隆明/思潮社
ゲンロン12』「訂正可能性の哲学、あるいは新しい公共性について」東浩紀/株式会社ゲンロン

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