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新藤兼人監督の「人間」を観たが、やっぱり重かった

新藤兼人監督の「人間」を観た。タイトルからして重そうな映画っぽいなと思って観たら、やっぱり重かった。

船で何十日間も漂流するという極限状態に置かれた場合、人間というものはどう狂うか、がテーマになっていると感じた。

映画を観始めたときから、結末が気になってしかたなかったが、救いがあると言うか、日本的と言うか、あるいは倫理的と言うか、そういう結末だったと感じた。新藤は、人間をけっこう信頼しているのだなとも思った。

主な舞台は古い木造船、主な登場人物はたった4名だけ、というシンプル(低予算?)な映画だが、このシンプルさこそが、この作品の魅力、ひいては新藤作品の魅力だと思った。

好きなシーンは、おちょこで水を分け合うシーンだ。最初なにをしているのかわからなかったが、残りわずかな真水を皆に公平に分け合っているのだ。船長が一升瓶からどんぶりに水を注ぐ、他の3名は食い入るように見つめる、ただそれだけのシーンだが、この4名が置かれた状況というものを凝縮したシーンだと感じたからである。

役者の中では、佐藤慶が良かった。一番シンパシーを覚えたからである。実質的な主役は佐藤だと思った。なにをしでかすかわからない「飢えた人間」というものを、きっちり演じていると感じた。

誰だが知らないが、最後に出てきた刑事(?)っぽい役柄の芝居にも感心した。目つきは終始穏やかだが、漂流者に対し、矢継ぎ早に鋭い質問を浴びせかける。この人物の登場によって、「事件」は急転直下、解決に向かうのだが、この芝居、演出は素晴らしいと思った。