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溝口健二監督の「瀧の白糸」を観た。

突然ですが、クイズです。

溝口健二監督は、何度も失敗する役者に対して、「君は脳梅毒か」という言葉を投げつけるパワハラ監督としても有名ですが、この言葉を真に受け、病院で診察を受けた役者は誰でしょう?

ヒント 「瀧の白糸」にも出演しています。

変化をつけたかったので、とりあえずクイズを出してみた。本題はこっから。

後年の溝口作品を観慣れた目には、スゴく新鮮に映った。溝口作品にありがちな、ウワッと目を背けたくなるような、ドロドロしたイヤな感じのものがなく、スッと作品世界の中に入っていけた。この作品は、ボクがこれまでに観た溝口作品の中では、最良の部類に入る。

無声映画で、画質はかなり悪いが、今観ても全然楽しめる。おそらく原作の出来が良いのだろう、知らんけど。ボクが観たのは、法廷(?)シーンが終わったかと思うと、岡田の静止画像がしばらく流れて、いきなり終わってしまった。おそらくエンディング欠損バージョンだろう。

なお、視聴したバージョンは活弁入りだったが、うるさいだけなので、ミュートで視聴した。

タイトルの「瀧の白糸」は、入江たか子演じる水芸人(噴水のように水をピューピュー飛ばすヤツ)の芸名だ。この瀧の白糸と岡田時彦演じる馬車の運転手(のちに検事代理)との恋愛関係と言うか、パトロン関係(瀧の白糸が援助する側)と言うか、とにかく、この2人の信頼関係みたいなものを中心に描いた作品だ。

ボクは最近、どういうわけか知らないが、この映画にも共通する戦前の作品(この映画の舞台は明治時代だが)に無性に心惹かれる。映画を観るなら、戦前に撮られた邦画に限るみたいなノリがあるのが、われながら不思議に思っている。

それはともかく、この作品で一番感じたことは、主演の入江の演技がスゴいということだった。お嬢様育ちの役者で、後年溝口とスゴくモメたことぐらいしか知らなかったが、お茶目かと思えば、妖艶だったり、クールな芝居をするかと思えば、鬼気迫る激しい演技を見せたりといった感じで、その存在感に魅了された。

月並みだが、「良い役者は目が違うな」と改めて思ったもちろん演出した溝口の手腕もあるのだろうが、やっぱり役者の力量だと思っている。

演出で言えば、岡田が検事代理として登場するシーンがある。おそらくこの作品の見せ場の一つだろうが、このシーンを観たとき、思わず唸った。このシーンのカットはこんな感じになっている。

うつむいたまま入室する入江+後姿の岡田→入江のバストショット→岡田のバストショット→入江の顔アップ(後退りする)→歩み寄る岡田(見つめ合う二人)

全部でだいたい30秒ぐらいなのだが、このうち、岡田のバストショットはたった2〜3秒ほどしかない。一番重要だと思われる「検事代理は岡田だった」というカットを、「こんなにあっさり演出するのか」ということで、唸ったのである。「岡田だと分かればそれで十分だ」と言っているかのようだ。おそらく、このシーンで観せたいものが、他にあったからだろう。