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清水宏監督の「簪」は,今観ても普通に笑える

清水宏監督の「簪(かんざし)」を観た。非常におもしろかった。おもしろかったというのは、笑えるという意味である。

とくに、斉藤達雄演じる「片田江先生」が最高だ。「気難しい先生」という役柄だが、「こういうヤツ、実際にいるわ〜」と思った。例えば、蓮實重彦とかだ。

斉藤の存在は、小津の作品で知った。小津の「淑女は何を忘れたか」の斉藤も好きだったが、「簪」の斉藤の方が上回った。ついでに言えば、戦前の役者では、斉藤が一番好きだ。今のところだが。

笠智衆も良い。笠のコメディセンスは、小津の作品でも感じていたが、この作品でもよく出ている。

日守新一は小津や黒澤の作品で、シリアスな演技をしているイメージしかなかったが、この作品では、斉藤と笠に負けず劣らずの、ユーモア溢れる演技を見せている。

この作品は、一般的にはコメディ映画とは考えられていないようだが、後半はともかく、前半は明らかにコメディだと思う。

「新解釈三国志」みたいに、あざとく狙いにいったコメディではなく、自然に笑いが生まれる類のコメディだ。この点、良質なコメディだと言える。良質なコメディである所以として、一連のシーンでは誰も笑っていない点を指摘しておきたい。

この作品が一般的にコメディとして考えられていないのは、後半でシリアスな展開を見せるからだと思われる。後半にもユーモラスなシーンは何度か出ているのだが、それよりもストーリーが気になる向きが強いからだと考えられる。

ここまでさんざん「簪はコメディだ」と書いておいて、こう書くのは矛盾を含むことになるかもしれないが、もし簪を観るなら、コメディだという先入観は一旦捨ててから、観るの得策だ。その方がもっと笑えるからである。

80年以上の映画が、今観ても普通に笑えるのは、おもしろいことだと思う。ここで言うおもしろいとは、スゴい、興味深いといった意味である。