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バスを改造して気づいた、モノづくりできる人たちが「かっこいい」わけ

バス改造のDIY、毎週末バスチームとボランティアのみなさんで進めています。バスの塗装は、小学生から大人までみんな一緒になってやりました。

失敗は成功のもと。いろいろな個性豊かな人たちが、ああでもない、こうでもないと試行錯誤しながら楽しんでいます。

移動型クリエイションスタジオ」spods(スポッズ)のプロジェクトから生まれた“新しい場”とは?   DIYに参加してくれているライターすみさんが、前編に続いて、現場の様子をレポートしてくれました。

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参加2日目と3日目は、車体の塗装と内装設備の作成、加工が主な作業だった。

内装はDIY経験者に任せることにし、僕ら素人軍団は主に塗装を担う。バンパーやタイヤを覆うフェンダー部分を蛍光の黄色にし、上部をシックなネイビーグレーにする予定だ。

2日目。集合時間より少し遅れて現場に着くと、10人弱の参加者が汚れないように白の雨合羽をまとい、すでに色を塗り始めていた。

ガレージの中では、自動車メーカーを定年退職された男性が音頭を取り、娘くらいの年齢の女性たちと一緒に刷毛を動かしている。


男性の名は、今井武さん。「カーナビのレジェンド」ともいわれる今井さんは、現在は自動車技術協会のフェローのほか、モビリティと防災に関する取り組みなどをされているという。

車内ではspodsバスのデザイナーさんと、特装車などを手がける車体改造のプロフェッショナルの男性が2人で内装作業に励んでいる。

近くでは、動画撮影担当の男性が、ボソボソ独り言をつぶやきながらカメラの設置場所を探していた。

映像作家のChing Nengさん。スライダーカメラという特殊なカメラで、水平な映像を撮影している。

飾らない大人になりたい

このバス作りのおかしさというか面白さの一つが、様々な肩書きや役職の人たちが横並びで地味な現場作業に取り組んでいることだ。

会社社長、敏腕営業マン、一流大学の学生ーー。このガレージに入れば、そんなステータスは意味をなさない。

せっせと塗装に励む今井さんや、車内で作業するデザイナーさんは、おそらく会社ではかなりの役職を経験している人だろう。でも、みんな自分の地位や経験を誇示することなく、自然に周囲に溶け込み、同じように汗をかいている。

みんなの作業風景をカメラに収めているうち、僕も手足を動かしたくなってきた。

バスを見上げると、まだ屋根の部分は手付かずで塗装されていなかった。

「これ、屋根を先に塗った方が良くないですか?」と今井さんに言ってみると、「あ、そうですね。やろう、やろう」と、すぐに脚立や刷毛を探しに行ってくれた。

屋根の上で作業をしていると、刷毛に着いた塗料が乾くたび、地上の人に刷毛をもう一度塗料に浸してもらうようお願いしないといけない。

これはなかなか手間が掛かるなと思ったが、すぐに今井さんが、「僕が下の人に刷毛を取り替えてもらうので、それを使ってください」と優しい気遣い。

作業上の問題点にすぐに気がつき、進んで解決策を提案する。黙々と刷毛を動かす今井さんの横で、「この人の下で働けた部下の人たちは、楽しく仕事ができただろうな」などと想像した。

僕が屋根の最後の塗装を終えて下に降りようとする時には、「私が支えるよ」と言って脚立を支えていてくれたし、一日の作業を終えると僕らを駅まで車で送ってくれた。

彼は、参加者一人一人をリスペクトし、自らも純粋に作業を楽しんでいるように見える。

「自分もそんな飾らない大人になりたいな」

2日目が終わり、今井さんの車の助手席に座りながら、そんなことを考えていた。

モノづくりは「失敗は成功のもと」

モノづくりほど「失敗は成功のもと」という言葉がぴったりなこともない。

ビジネスの世界では「失敗を恐れるな」とよく言われるが、実際のところ失敗したら大体怒られるので、大多数の人はリスクある行動は慎むものだ。

でも、工作やDIYの現場では、失敗を怖がっていては話にならない。

一つ一つの選択が全部間違っていた、ということは当たり前だ。

当然、spodsのガレージでもたくさんミスは起きる。

例えば外装の塗装では、下の蛍光色から塗り始めてしまったばかりに、上部をネイビーグレーのペンキで塗ると塗料が垂れ落ち、もう一度下の方を塗らなければいけなかった。

会社で言えば、プレゼン資料を部単位で印刷すべきところを、うっかりページ単位で印刷してしまった、といったところだろうか。

僕は正直「ほらやっぱり」とも思ったが、「あららら」などと笑いながら塗り直すみんなの姿を見ていると、これはこれで思い出になるからいいか、と思い直した。

みんな経験がない中でやっているんだから、一つ一つ、コツや術を覚えていけばいい。

モノづくりで試される、知恵とたくましさ

前回のレポートでも少し触れたが、僕は幼少期、父の建てた山小屋によく遊びにいき、とにかく山と戯れていた。モノづくりと同様に、山を楽しむのにも、最初はいろいろなミスをする必要がある。

遊び相手は山や川だった。当然、自然は人間の思い通りには動いてくれない。渓流沿いで遊ぶときは、濡れた石を踏んでしまって転んだこともあったし、夏はスズメバチに付きまとわれて生きた心地がしなかったことが何度もある。

だが今にして思えば、そんな苦い体験を積み重ねるうち、知らない間に自然を安全に楽しむ術のようなものを身に付けていたのだと思う。

スズメバチが自分の体にとまっても、じっとしていればいつか飛んでいく。クワガタは、木を思い切り蹴れば地面に落ちる。チェーンソーで太い木を切るときは、多方向から切り込みを入れないと、刃が食い込んで動かなくなる。山の急斜面を下る時は、草木の根の上を踏めば滑りにくい。

こうした学びは、まず一度体験してみないことには身に付かない。

太古の人々は、最初から綺麗な土器を作れただろうか。
一回の挑戦で獲物を仕留められただろうか。

きっと彼らも様々な失敗や試行錯誤を経て、最適な解を見つけていたはずだ。

慣れた手つきでDIYするかっこいい女性

参加者の女性と2人で、外装についた汚れをカッターで取ろうとしている時、どうすれば周りの塗装を傷つけずにできるか困っていた。

すると、別の女性が「ワックスを付けてみれば?」とアドバイスをくれた。言われたようにやってみると、軽い力で削り落とせた。

彼女のこの対応力も、会社や教室で得たものではなく、様々な実体験を糧に身に付けたものだと思う。

僕らにワックスを手渡してスタスタと持ち場に戻り、慣れた手つきで木材の加工にいそしむ女性の姿は、何ともスタイリッシュでかっこよかった。

このように、モノづくりや遊びの現場で力を発揮し、柔軟な対応力を示せる人に僕は強く憧れる。生きる力や知恵、たくましさのようなものを備えていると感じるからだ。

バスが、物語の舞台になる

spodsでは、このプロジェクトに使うバスを「移動型クリエイションスタジオ」と呼んでいるが、どんなイメージなのだろうか。

「クリエイション(creation)」を辞書を引くと、「何かを実在させるまでの行動や過程(The action or process of bringing something into existence)」とある。

つまり簡単に言い換えれば、このバスが「何かを生み出す舞台・スタジオ」になるということだろう。

すでに初回の投稿でも書かれているが、世界の一流シェフが地域食材を使い地元民に振る舞ったり、メディアアーティストが地方の祭りや伝統芸能などとコラボしたり、アイディア次第でその使い道は無限に広がる。

そのクリエイションの現場がバスということだ。

大げさに聞こえるかもしれないけれど、互いに面識のない僕たちが集まり、汗水垂らして作業した日々もまた、このバスを舞台に生まれた1つの物語だ。

作業で筋肉痛になったり、休憩時間に互いの趣味を語り合ったり、ランチのおはぎやサンドイッチの美味しさにみんなで驚嘆したり。僕が参加したのは数日間だが、このプロジェクトのことはきっと10年後も記憶に残っているだろう。

人々をつなぎ合わせる存在に

3日目の帰り道。ガレージ近くのバス停に向かい1人で歩きながら、このバスが将来、どんな使われ方をするのか考えてみた。

僕のお気に入りの映画の1つに「リバー・ランズ・スルー・イット」という作品がある。ロバート・レッドフォード演じる厳しい父親と、若きブラッド・ピットらが演じる兄弟との、親子の物語だ。衝突や喧嘩を繰り返す彼らだが、共通の趣味のフライフィッシング(毛針を使う釣り)をする時だけはいつも、穏やかな笑顔で互いを認め合い、尊敬し合う。

タイトルの「リバー・ランズ・スルー・イット(A River Runs Through It)」は、人生には喜びや悲しみなど色々なこと(It)が起きるけれど、フライフィッシングの舞台の川だけは変わることなく流れ続ける、といったニュアンスで、作中では3人を繋ぎとめる存在として川が描かれている。

僕は、spodsのバスもこの作品の川と同じようなものになってほしいと思う。

このバスを使う人たちは、きっといろいろなバックグラウンドを持っているはず。

新婚の人もいれば、恋人にフラれたばかりの人もいるだろう。人々の事情は千差万別でも、spodsのバスは変わることなく存在し、そこに集まる人たちを繋ぎ合わせる。そんな光景が広がっていると、綺麗だなと思う。

バス作りのレポートなのに、山や川の話ばかりになってしまった。

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前編 》spods、「バス改造のDIY」スタート! 情報過多の時代に見つけた「モノづくり」の時間
関連記事 》spods、バスの改造DIYはじめます。もっと自由に動き、アイデアと創造を運びだすために。

text: Hiroyuki Sumi
photo: Eriko Kaji, Hiroyuki Sumi, Nobuhiko Ohtsuki
edit: Neko Sasagawa

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