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海外スタジアム・アリーナの「複合施設化」のトレンド

前回のnoteでは、スタジアム・アリーナの建設がその周辺の都市開発を促進させ、地域の魅力から商業活動も活性化し、ホテル、レストラン、バー、カフェ、小売店などが増え、そこに新たな消費者が集まるなど地域経済が活性化されていくことについて紹介しました。
スタジアム・アリーナで開催される興行によってその周辺地域の経済が活性化することはとても良いことですが、たとえ興行が無い日であっても、別の目的で周辺施設を訪れることができれば、1年を通じてその地域を盛り上げることに繋がります。

そこで今回は今後、日本でも参考となり得る海外スタジアム・アリーナの複合施設化に向けた取り組み事例を紹介します。

365日多様な体験価値を提供するザ・バッテリー・アトランタ(アトランタ)

 名称:ザ・バッテリー・アトランタ(The Battery Atlanta)
 所在地: 800 Battery Ave SE, Atlanta, GA 30339
 スタジアム:トゥルーイスト・パーク(Truist Park)
 チーム:アトランタ・ブレーブス
 開業:2017年2月21日
 建設費:4億ドル

ザ・バッテリー・アトランタは、ショージア州カンバーランドに位置するMLBのアトランタ・ブレーブスが2017年から本拠地として使用している「トゥルーイスト・パーク」を中心とした複合施設であり、スタジアムを囲むように大型劇場を含むエンターテインメント・商業施設の他、オフィスビルや居住施設などが併設されており、消費者が最大限に楽しめるように設計されています。

野球観戦だけ無くライブミュージックやスポーツ観戦、シミュレーションゴルフ等を楽しみながら飲食ができるレストランやバーがあり、また、ブレーブスのグッズショップはもちろん、アパレル、電子機器、自動車まで幅広くショッピングを楽しむことができます。さらにボウリングや脱出ゲーム、映画、コンサート会場、ホテルなど、365日楽しむことができる様々な体験価値を提供しています。

このような複合施設化の背景にはアトランタ・ブレーブスの球場を新たに建設し、周辺地域の再開発を行うことにありました。
以前の球場は老朽化が進んでいたことに加え、球場までの交通アクセスが整っていない事や周辺地域が決して治安が良いとは言えない状況であったことから、ブレーブスにとってファンが球場に足を運びやすい環境を整えることが目的でした。それに対しアトランタ郊外でベッドタウンであるコブ郡が誘致に動いたことで、現在の位置に移転しました。また、以前のターナー・フィールドは『アトランタ-フルトン郡レクリエーション協会』が所有し、ブレーブスが球場周辺を開発する権利は一切認められていない状況だったことに対し、コブ郡はブレーブスに球場周辺の開発権を認めたことで、ブレーブスにとってより集客性や地域全体の魅力と活力を高めることを目的に複合施設化が進みました。

ボールパークを中心とした複合施設化に取り組むボールパーク・ビレッジ(セントルイス)

 名称:ボールパーク・ビレッジ(Ballpark Village)
 所在地: 601 Clark Avenue St. Louis, MO 63102
 スタジアム:ブッシュ スタジアム(Busch Stadium)
 チーム:セントルイス・カージナルス
 開業:2006年4月4日
 建設費:3億6,500万ドル

ボールパーク・ビレッジは、ミズーリ州セントルイスに位置するMLBのセントルイス・カージナルスが本拠地として使用している「ブッシュスタジアム」の隣接する複合施設です。地元の歴史や文化を反映したデザインが特徴的であり、セントルイスの魅力が様々な工夫とともに引き出されています。

設立の背景としては、スタジアム周辺地域において商業施設や娯楽施設が不足していたことに対する再活性化と地域経済の成長促進という部分では前述のザ・バッテリー・アトランタと似ていますが、取り組みの中で特徴的な施設のひとつが「カージナルス・ネイション」というスタジアムのすぐ隣の施設です。4階建ての施設にはレストラン・バー、カージナルスのグッズショップや殿堂博物館が入っていますが、特に特徴的なのが「ホフマン ブラザーズ ルーフトップ」です。屋上部分の2つのデッキが330席のスタジアムの座席になっており、まるでスタジアムの中にいるかのような観戦体験が出来る等、ボールパークを中心とした複合施設化が進んでいます。(同様の事例としてはシカゴ・カブスが本拠地としているリグレー・フィールドが有名ですが、こちらは民間が主導で行っていたことに対し、セントルイスの場合は球団が商業施設を運営していることで一体となった世界観を作り上げているという点が特徴です。)
また、ライブ音楽やイベントが開催できる屋外ステージや家族向けのアクティビティ施設など、試合日以外でも地域のエンターテインメントを楽しむことができる施設を豊富に揃えています。これらの施設は訪れる人々に試合以外の日でも充実した時間を過ごしてもらえるよう配慮されており、より地域の魅力をさらに高める役割を果たしています。2020年には約3億ドルをかけてエリアを拡張し、近隣には30階建ての高級住宅タワー、4つ星ホテル、オフィスビルなどが設立され、さらなる複合化を進めています。

2つの施設の取り組みの特徴

ザ・バッテリー・アトランタとボールパーク・ビレッジの2つの施設について紹介させていただきましたが、2つの施設とも地域経済の成長促進という部分では共通していますが、その取り組みの特徴には違いがあると思い、以下のように整理してみました。

上記はあくまでも筆者の考察となりますが、これらの違いは、どちらが良い悪いではなく、それぞれの地域の特性やニーズに合わせた施設や取り組みが行っていくことが大切であり、この2つの施設はそれぞれに合った取り組みであると考えております。

最後に

今回は2つのスタジアム・アリーナの事例から、複合施設化に向けた取り組み事例を紹介させていただきました。
活気のあるコミュニティとスポーツが中心の街づくりには、24 時間 365 日の中で何かしら消費者との接点を持つことが鍵となり、レストラン、小売店、居住空間、オフィス、その他の会場やイベント等の様々な施設と一体となったスタジアム運営こそが、365日楽しむことができる体験価値の提供につながると考えます。

活気ある複合施設は、住民、労働者、そして訪問者を一日中さまざまな時間帯に引き込み、スタジアム・アリーナでの興行以外にも足を運ばせる必要があり、このような活動がより持続可能で多様性のある地域社会を生み出すと考えており、今後、建設が進む国内のスタジアム・アリーナにおいても、検討すべき取り組みのひとつと考えます。

引き続き、様々な角度から、今後の国内のスタジアム・アリーナ建設のヒントとなり得る事例を紹介できればと思います。


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