スプーン

無益な自己紹介などする気は無い。 私がどこで生まれ、何をして、どう死んでいくかなど、誰…

スプーン

無益な自己紹介などする気は無い。 私がどこで生まれ、何をして、どう死んでいくかなど、誰にとっても(私にとってさえ)本質的には無意味だ。 日本語が殺され、空虚と倦怠が主役としてのさばるこの時代に、伝えるべき事はただひとつ 「真の愛と美のみを感受せよ」

最近の記事

浅草紀行

5月31日の朝8時に、私はこっそりと自宅を抜け出した。 そうでもしなくても旅には出れたが、すべて大事なのは機を捉える事であるから。 天気は曇り。初夏の涼しき朝風に羽織物は長袖を選んだ。 先日「あなたは寺町が好きねぇ」と母に言われた。 幼少期に住んでいた仙台の北山は、伊達家由来の寺町である。 浅草で電車を降りた。 学生と外国人が半数ずつを占めた浅草寺は、さながら「人類の理想郷」であった。 言葉も人種も違う多国籍の人々が、争いも無く境内で融和している。 聖観世音菩薩もお喜びであ

    • 序文

      思へばドイツ旅行の折、雲間からバスに差し込んだ陽光に、 「ゲーテに歓迎されてるな」との、我が直感は、間違いではなかった。 これから幾度か紀行文を載せていく所存である。 「アポロの杯」は長年の文化的風雪で干からびてしまつたが、  杯に一滴でも美酒を垂らせれば、九人姉妹も喜ぶであらう。

      • 丸尾的珈琲のススメ

        私は珈琲を飲む、ゴクゴクゴクゴク、珈琲を飲む。 珈琲は生き血でせう、労働者の生き血でせう。 生活苦の奥さんが堕胎した我が子から流れ出た生き血でせう。 失業した旦那が腹立ちまぎれに絞め殺した夜の女の吐き血でせう。 借金で首が回らず人前で身包み剝がれた息子さんの悔し涙でせう。 娘さんがしたヌードモデルの客が無理やり出した濁った精液でせう。 納屋で首を吊ったお爺さんの緩んだ膀胱から流れ出た排尿でせう。 珈琲は生き血でせう。 何にも変わらない社会への、反骨の、庶民から

        • 円環を包含した裸身

          純文学、ないし書籍全般が、私に与えた影響ははかり知れない。 それは週末のバーでギムレットを頼むだけに飽き足らず、 日々研鑽を積むべき事柄にも脈々とした思想をそこに流し込んだ。 すべての書籍の真義がボルヘスの語る様に「円環」であるとするならば、 共にテーブルの上に並ぶ珈琲が志を同じくしているであろう事に疑いの余地は無い。 又、珈琲それ自体の真義が「円環」であるならば、 混沌とした我々の一見、直線に見える生活を「円」であると多岐に知らしめ、 「slowdown」させる役割を珈琲は

          通(ツウ)向け海外文学5選

          「予告された殺人の記録」 G・ガルシア₌マルケス著 日々の行いが、 不思議な運命の糸に操られているのを、 うっすらとでも感じた事があって、 何か人智を超えた大きなものに、 突き動かされて生きている人間の、 憐れでいて、崇高な役目を、 知って置きたい方に、おススメです。 予告された殺人の記録 (新潮文庫) | G. ガルシア=マルケス, Garc´ia M´arquez,Gabriel, 文昭, 野谷 |本 | 通販 | Amazon 「伝奇集」 J・L・ボルヘス著 本を

          通(ツウ)向け海外文学5選

          あじさいに教わり

          疲れていたので、紫陽花を観に松戸の本土寺へ向かった。 何の種類かはわからないが、年輪と歴史が刻まれた太く大きな参道の樹々が、入り口で歓迎してくれた。 紫陽花は五万本あるらしく、見頃を迎えた者も、見頃を過ぎた者も、皆同じ様に咲いていた。 ジグザグに配置された頼りない木道を一歩一歩注意しながら歩く。 一通り見終わり参門を出て、タンブラーに入れて来た珈琲を五重塔に見守られながら飲んだ。 「受け入れてみるかぁ」とひとりつぶやく。 バッグに入れて来たビジネス本はゴミ箱に捨てた。

          あじさいに教わり

          彼女と別れ話をしました。

          「結局あなたは努力してないのよ」 カフェで女は責める口調で男に言った。 「何をやっても中途半端じゃない。 そんなんじゃ何も出来ないと思うわ。 常識が無いのよあなたは。常識を持ってよ!」 男は黙っていた。呼吸が浅くなっていた。 「結局私のことなんか愛してなかったんだわ」 言い終えると女は黙ってしまったが、目だけは男の方を見ていた。 いつの時代も、女性の男性への挑発が、どの感情の源泉から流れ出ているかを冷静に見極めるのが関係性の改善に最も重要だという事を、この無口を装った若輩者

          彼女と別れ話をしました。

          三島風散文

          敷地の裏庭に面したプールでの水浴が終わると、 マーブル模様の入った前掛をした女給仕が、 窓際のテラス席にアイスコーヒーを置いてくれるのは、 ローマから越して来てからの常だった。 グラスの中でカラカラと音を立てる四角い氷たちの音色は 風になびく軒下の風鈴と共鳴し、 ヴァルプルギスの季節が終わり、盛夏の訪れが近い事を示していた。 テーブル上のガリマール版が、熱風にさらわれるかのように、パラパラとめくられると、 胸騒ぎと共に、甘美なる背徳の記憶が回顧され、 飲み終えたアイスコーヒー

          三島風散文

          価値に気づける人

          日本で言う「仕事」は、世界的にも悪評が高い。 傲慢で、鼻高々、威圧的で、人間味が無い。まるで昔の軍人の様。 現代日本では、この一言でふっ飛ばせるモノがたくさんある。 趣味、休暇、休憩、休日、健康的な食事、運動、スポーツ、 誠実さ、真面目さ、コツコツ、地道、 恋人、夫、妻、子供たち、家族、老いた両親、友人、恩人、 家事、育児、会話、優しさ、思いやり、愛、 本心、政治、選挙、ニュース、自治問題、人権、戦争、 オシャレ、ファッション、綺麗な色、 文化、音楽、文学、映画、絵画、楽器

          価値に気づける人

          バッジとかいらねぇよ(笑)

          バッジとか勲章とか要らねぇよ(笑) ガキじゃねぇんだから。 そんな物の為に書いて無い。

          バッジとかいらねぇよ(笑)

          愚書の選び方

          本日は愚書の選び取り方をわかりやすく教示致します。 ①国内ベストセラーを中心に買うべし 日本は世界に誇る出版大国である。 2020年の出版物の国内市場規模は4821億円にのぼる。 ここに宝が紛れ込まない訳が無い。 海外のベストセラーなどは無視して、ただひたすら国内ベストセラーを漁るべし。 ②政治家、経済人、軍人、タレントの本はマストバイである テレビに出ている人は多くの場合、才能が有り努力家で我慢強く、運が向いた一流の人達である。 一流の人達が書いた本が一流でない理由がど

          愚書の選び方

          聖夜

          我々が日々行っている感情の起伏や正誤の認識、 またはそれらの結果として出て来る人間関係の摩擦は、 遥か遠き忘れ去りし日々の過ちの贖罪である。 贖罪に寄って得られる偉大なる父の愛は、 我々の存在を許し、認め、愛で、 汝が地上で祝福された一旅客者である事を物語っている。 その一切の始まり、それがすなわち聖夜である。 メリークリスマス。

          私は珈琲が嫌いだ。

          私は珈琲が嫌いである。 あの褐色の飲み物に、私の精神は常に幻惑される。 やわらかい朝日、夏の日の一杯の清涼、秋風のすがすがしさ、雪の日のカップの温かさ。 家族や友との語らい、音楽や読書の最高のお供。 珈琲はそれらの良質で善良なものを思い起こさせる。 苦みや、コク、酸味もまた私に自然の恵みから成る深みを感じさせてくれる。 朝、異性と飲む珈琲の味を誰が否定しうるであろう? (それはすなわち人生の否定である) 感情的否定の根本は何であろうか? 好きの反語は嫌いでは

          私は珈琲が嫌いだ。

          価値ある人生

          「硬貨になりそこねたのさ」 アスファルトから突き出した鉄棒は、吐き捨てるように言った。 「オレの人生は硬貨にならなきゃダメだったんだ。 小さい頃からそう言われて育った。 硬貨になって人から人の手に渡り、日本中を飛び回る。 それが価値ある生き方だって教わった。 でも硬貨にもなれなかったし、ここじゃただの曲がった鉄棒だ。 もう生きてる意味も無い。」 鉄棒は話し終えると下を向いて黙ってしまった。 黄落の気配に夕暮れは早かった。 陽が陰りだすと、 アスファルトか

          価値ある人生