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やりすぎ注意!トレーニングの落とし穴【DoctorTのスポーツ・エクササイズ医学】

こんにちはDoctorTです。突然気温が下がりましたが、みなさん、体調はいかがでしょうか。よく寝てしっかり食べて、そして動くことをお忘れなく!

今回はトレーニングのピットフォールに目を向けます。以前にも過度なトレーニングによって引き起こされるオーバートレーニング症候群を紹介しました。

今回の内容は、練習量の調整の仕方です。やり過ぎによる故障(overuse)を経験している方には特に読んでもらいたい記事です。
参考資料はこちら↓

Australian Sports Commissionより
オーストラリアのスポーツに関する公的機関

スポーツパフォーマンスはいくつかの要素に影響を受ける

パフォーマンスというのは運動のスキルがあればそれがそのまま発揮されるわけではなく、①疲労度合い②栄養③メンタルなどの状況によっても左右されます。トレーニングの計画にはこれらも加味する必要があります。

やればやるほど良い訳ではない!

トレーニングは「適切に」実施すればパフォーマンスが上がり、ケガや病気が減りますが、不足・やり過ぎは逆にケガや病気の原因になります。

さぼりに比べやり過ぎは気づきにくい

これがトレーニングの落とし穴だと思います。うまくなるためにやっているはずのトレーニングが害になるなんて普通は思いませんよね。痛い理由が使いすぎだとはなかなか気付けないのです。

そこでスポーツドクターやアスレチックトレーナーの出番

障害の種類からやり過ぎによるものかどうかを判断し、必要ならば練習量を減らすようにアドバイスします。実際、喜んで練習量を減らす選手は少なく、コーチもその選択をするのは容易ではないと感じます。そこで医療チームからの提案が必要になります。

アスリートの「現在のキャパ以上」の練習負荷が問題

アスリートひとりひとりの能力は違います。そして、同じアスリートでも日によって調子は変わります。
 チームで同じ練習をしてもケガをしてしまう選手がいたり、同じ選手でも今までは平気でやっていた練習で故障してしまうことがあるのは、こういった理由からです。

「徐々に」負荷を上げていく

負荷を上げていくのはトレーニングの基本ですが、「急激に」やるのが失敗の原因です。ではどうしたら穏やかに上げていくことができるのでしょうか。週単位(週の合計負荷)で考えます。

運動量を見る

運動時間、頻度、スピードや動く距離などがこれに当たります。比較的わかりやすい指標ですね。(負荷調整法は下のオプション参照)

選手の反応を見る

選手の疲労度合いを本人が数字で示したり、心拍数を測ったりして把握します。同じ運動量でも選手によってその反応は様々なため、捉えにくい指標ですが、とても大切です。
疲労が回復していないときや気持ちが追いついていないときは立ち止まりましょう。

適切な運動負荷が見つかったら

トレーニング効果の持てる最低ライン(floor)とこれ以上やるとケガをする上限(ceiling)の間でトレーニング量を調整しましょう。この範囲であっても変化は緩やかな方がよいです。

最適なトレーニング量を維持するというのは思っている以上に難しいのです。なぜならシーズンを通して、選手の体調やチームの状況も変わっていくからです。

下に負荷アップの失敗例を示します。
アップダウンに関わらず、急な変化(紫バー)がケガの原因になっています。

紫→調整の失敗、赤→ケガ、茶色→リハビリ、
ピンク→ケガをする可能性のある潜伏期間

追い込んでケガをしたほうが結果的に損失が大きい

長期的視点で考えてみましょう。
ケガをしてしまうと、リハビリ中、その選手のゲームへの貢献はほぼゼロになり、ケガ前の状況に戻れるという保証もないのです。そしてリハビリ期間は思っているより長いのが現実です。

まとめ

  • トレーニングは適切にやってこそ効果あり

  • やり過ぎは気づきにくい

  • 徐々に負荷をあげる

  • 客観的運動量だけでなく選手の反応も見る

  • ケガによるマイナスは思ってるより大きい

ちょっと今回はマニアックな内容になってしまいましたが、実際にチームスポーツに医師として携わって、ケガした選手とチームの辛さを現場で目の当たりにしてから、さらに予防の大切さを感じています。思ったよりも回復に時間がかかります。

同時にコーチや選手のうまくなりたい、勝ちたいという気持ちも近くにいるからこそ、とてもよくわかります。上を目指す熱意と冷静な判断はときに拮抗することがあります。それがスポーツの難しさであり、奥深さだと感じています。

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オプション
【練習量調整をより詳しく知りたいひとへ】
練習負荷設定の考え方を紹介します↓

過去1ヶ月のトレーニングの負荷の平均と直近1週間を比べる

Chronic loadとAcute load

過去4週間の負荷の平均をchronic load(慢性的な負荷)
この1週間の負荷をacute load(直近の負荷)といいます。

負荷の増量の指標にAcute Chronic Workload Ration (ACWR)を使います。
ACWR = Acute load / Chronic load <1.1が望ましいと言われています(過去4週の平均から10%以内の増加)が、まだコンセンサスは得られていません。

上のグラフで言うと第4週から5週目への増量は許容範囲内ですが、第8週から9週目への増量はACWRが1.1を大きく超えるのでケガのリスクが高くなるということです。この影響は、負荷を許容レベルに戻したとしても2-3週間続くと言われています。

一方でケガなどやむを得ない理由以外でAcute loadを下げすぎると次に負荷を上げにくくなる(ACWR>1.1になる)ので、後々ケガの原因になります。
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