WBCはBaseballのGlobal化に繋がるか?~北米4大スポーツのGlobal戦略~

昨日のWBCの準決勝は日本代表にとって非常に悔しい結果となった。私も現地(LA)で試合を観戦していたが、今回の日本代表は予選から非常に投打のバランスの良いチームだっただけに、残念な気持ちでいっぱいである。一方で、野球の未来という観点では、日本予選ラウンドでのオランダやイスラエルチームの躍進・盛り上がりに加えて、アメリカ側にいると、ドミニカ、ベネズエラ、メキシコ、プエルトリコ等中南米諸国の盛り上がりを感じることができ、さらに米国も初の決勝進出ということで、過去例を見ない盛り上がりを見せていることは、WBCがGlobalなBaseballの認知度向上やアテンションの増加の観点でポジティブであろう。WBCという大会が少しづつBaseballの国際化に寄与しているというのは事実ではあるが、一方で選手のゲガのリスクやコンディショニングの観点でMLBやNPB等の国内リーグとのConflictを懸念する声も多く、WBCへの出場を辞退する選手も少なからずいる中、こうした国際大会がそれぞれのスポーツリーグ自体のビジネスにどう影響を与えるか、考える機会の多い大会だった。

今回のSSACでもMLB含む北米4大スポーツGlobal戦略については、多くのセッションで議論がなされていた。これは、1)中所得者層の増加により拡大する新興国でのスポーツ市場を取り込むというOpportunityの観点と、2)メディアやスポンサー企業のGlobal化によりそのコンテンツプロバイダーであるスポーツリーグ・チーム側にもGlobal展開が求められているというExternal Pressureの2つの背景が大きい。SSACの中の"International Growth: Targeting a Bigger Market"というパネルセッションが、4大スポーツ(但しMLBのrepsentativeはなし)のGlobal戦略に関して特に示唆に富んだセッション出会った。パネラーはNHLのMedia and international Strategy担当EVP David proper、NBCのDeputy Commissioner and COOのMark Tatum、NFLのEVP of InternationalのMark Waller、NFL Team Boston CelticのCo-ownerでBain CapitalのMDでもあるStephen Pagliucaとリーグ・チームオーナー両方の視点からGlobal戦略を読み解くセッションとなっていた。以下は、議論が出た中で面白かった内容である。

各リーグのGlobal戦略:NBAが最も早く海外市場への積極的な展開を開始して、今最も先をいっている。NBAが最初の中国オフィスを設置したのが2002年で、現在では12カ国にオフィスを持ち400名が海外勤務となっている。NBAの海外最大市場は中国、Next Marketはインドを見ている(人口の大きさと中間所得者層の拡大の観点)。

NFLはNBAに比べると後発。国内市場での存在感・収益・市場サイズが十分にあったことが海外展開の遅れに影響している。ただ、直近になりGlobalのMediaプラットフォームの発達や中国・インド・中南米等のスポーツ市場成長を機会と捉えて積極的な海外展開を開始している。中国を最も重要な市場として捉えており、UKやメキシコでのNFLの公式戦の開催も視野に入れている。

NHLはもともと欧州各国にNFLとは独立したレベルの高いアイスホッケーリーグがあるので、それらの欧州リーグとNHL間の積極的な提携を進めている。

海外市場の開拓戦略:NBAの中国市場開拓は2002年ごろから始まり約10年かけてNBAの認知度の向上、収益化に漕ぎ着けた。海外の市場開拓は回収までに時間のかかる長期投資となると覚悟を持って進める必要がある。海外市場開拓におけるターゲット国での認知度・人気向上のための手段は大きく4つに分けられる。1つはそのスポーツをPlayする人口を増やすこと、2つ目はそのスポーツリーグの試合をTVで見てもらうこと、3つ目はその国の出身の選手がリーグで活躍すること(例:イチローがMLBで活躍する等)、4つ目はe-sports含めたDigital戦略である。この中で最も大きな起爆剤となるのは、3つ目であるというのがNBA、NHLの総意であった。中国でのNBAのビジネスの成功はYao MingがNBAで活躍したことが大きいし、日本のMLB人気も野茂やイチローの影響は大きい。実際にNBAは25%がアメリカ・カナダ国外の出身選手であり、外国人選手を増やすために欧州・アジア・アフリカ・南米各国で選手育成のためのアカデミーやコーチ指導等も積極的に行なっている。

一方で、長期的なファンの獲得という意味では、1つ目の競技人口増加も重要。データによると最も熱狂的なファン層は、1)12歳までにそのゲームのファンになること、と2)実際にその競技をプレーしたことがある、の2点が重要なファクター。この観点から、NBAやNFLは欧州、アフリカ、メキシコ、中国等でも子供向けのチームの運営や大会の実施を行なっており、子供の競技人口増加に焦点を当てている。

2つ目のTVでの放送は1つ目・3つ目の観点からターゲット海外市場でのその競技に対する興味が高まっている段階で、それをマスに認知度を広げてゆくためには重要。NBAは30年前に中国の公共放送局にNBAの試合のビデオを持って行きタダで放映してもらった。これが中国におけるNBAの認知度の向上に繋がっており、だからこそ今ビジネスとして上手くいっている。

最後に4つ目のe-sportsの観点はそのほかの要素の大きな補強材料になり得る。例えば実際に自分がバスケットをプレーしたことがなくてもe-sportsでバスケットのゲームを経験することで、ゲームのルールや選手・チーム名等を覚えれもらうことができる。これは新たなグローバル展開のプラットフォーム・ゲートウェイツールになり得る。

海外でのリーグ戦ゲーム開催の可能性:上記の4つの要素をおさえて行き、対象市場での認知度が一定程度向上したあとは、更なる人気向上の手段として、その海外でのリーグ戦公式戦の開催もしくは北米スポーツリーグと並ぶレベルの同等の質の別リーグを育ててゆくという2つの方法がある。前者はNBAやNFLが後者はNHLやサッカーが該当する。後者の場合は各国内リーグが高いレベルを維持し、国際大会等(サッカーでいうW杯やChampions League)を行うことでその交流を通してさらに盛り上げるというアプローチになる。前者のケースとしてはNBAが2017年からメキシコでの公式戦開催を予定している。NBAとしては過去欧州での開催も検討したが難しいのは時差管理。時差があると選手のパフォーマンスや怪我への影響が大きく懸念される。その点でメキシコは北米と時差がないのでやりやすい。一方でNFLの場合は試合数が1週間に1試合と少ないことがメリットで、時差等を調整する時間もあるので国外での公式戦開催はしやすい。メキシコやUKでの公式戦の開催はNFLとしてトッププライオリティで調整してゆくつもり。一方でNBAやNFLの選手側はスポンサー等とのやりとりを通じて、グローバルなプレゼンス・ブランディングの必要性をよく理解しているので、自らオフシーズンに中国を訪問するNBA選手も多い等、こうしたGlobalを意識した取り組みに対しては原則協力的。

NBAやNFLがこうした国外での公式戦開催を検討する中、我々はF1やテニスのトップ選手から多くを学ばないといけない。彼らは極限の集中力が要求される競技環境の中で、世界中を飛び回って転戦している。この点は非常に興味深いbest practice。航空会社やホテル等とも協力して、時差やフライト移動をどう上手くマネージしてコンディション管理をするか、詰めてゆくことは、最終的にはビジネスパーソンにも応用できる価値の高いことと捉えている。

ミレニアル世代への対応:ミレニアル世代は2時間・3時間黙って一つの試合をTV観戦するというよりは、ハイライト動画等の短いSnackな動画を見る方が好きである。こうしたコンテンツ消費カルチャーの違いはコンテンツを提供する側としても対応していかないといけない。デジタル世代はTVでのスポーツの試合中にCMを流すことも慣れていないので、スポンサー広告もゲームの合間に入れるのではなく、コンテンツ広告や動画の外での広告掲載等、工夫してゆかないといけない。ゲームの進行に対しても、若い世代は早い試合進行を望むので、それに向けたルール改正等も柔軟に対応してゆくべき。

ここからは上記の議論を踏まえた上で、MLBやNPBが海外市場にどのように展開してゆくかという私見であるが(そもそも海外市場にゆくべきか否かというのはこれだけエンターテイメントやスポーツコンテンツのグローバル化が進む中、グローバル展開しないことは他の競合コンテンツに最終的にパイを食われてしまうということに繋がることになり、mustであるという前提)、Baseballの場合、すでにMLBやNPBが選手の質・インフラ・国内ファンの規模等含めて、唯一無二の存在となっていることから、これと同等レベルのリーグを他国に作ってゆくのは非常に難しく、MLBやNPBの試合の一部を他国で開催するもしくはフランチャイズチームを他国都市に置くというのが現実的な戦略とも思える。具体的には、時差の観点があるので、MLBは中南米、NPBは東・東南アジアが候補地となり得る。あとはそれらのマーケットでの国外選手を育成するアカデミーやコーチ育成の仕組みや(e-sports含めた)若い層の競技人口を増やす取り組みは待ったなしで行うべきことである。NPBの場合はコナミのパワプロのような非常に質の高いコンテンツもあるので、これらをアジア展開の起爆剤として使うことも面白そうである。徐々にWBCも定着してきている中、これを単なる4年に1回のお祭り騒ぎで終わらせずに、草の根のGlobalなBaseballファンの増加に繋げるためには、NBAやNFLのような海外市場開拓の取り組みを10年単位の長期戦略で実施してゆくことがセットで必要だろう。NPBが国内人口・ファンの減少を課題と感じている中、アジア市場は時差の観点からもMLBよりもNPBによる開拓の可能性が高い。今こそピンチをチャンスに変えて、BaseballやWBCがGlobalなものになって行けるか、侍ジャパン以上にNPBに覚悟が問われているように感じる。

次記事:学生スポーツとビジネスについて考える


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SatoshiYamada

MIT SSAC訪問レポート

全米最大のSports Analytics Conferenceである、MIT Sloan Sports Analytics Conference 2017の訪問レポートです。Sports x Techに興味のある人に是非見て頂ければと思っています!
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