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英語の言葉遊び(12):「スナークを求めて」その三

完璧な韻文で書かれた物語詩、ルイス・キャロルの「The Hunting of the Snark」。

韻文とは文字通りに韻を持つ文のこと。

文章の終わりの単語の音のパターンと、続く文の終わりの音の形が一致すると韻を踏んでいると言います。英語でRhyming。

See you later,
Alligator

スィー・ユー・レイター
アリゲイター

現代詩には韻を踏まない詩が多いのは、韻を踏むと伝統的な形式を踏襲する詩の形式を持つようになり、格調高くなるといえますが、逆に音の言葉の形式にとらわれて自由なことを語れなくなるからです。

韻と踏まない詩ならば誰でも書けるけれども、韻を踏んだ、音のリズムを重んじて書かれた詩はまさに名人芸の言葉遊び。

そういう詩は音読すると詩の面白さが最大限に楽しめます。

韻文と言っても、格調高い文章ばかりではなく、語呂合わせや言葉遊びに特化した詩もあり、そういう作品はジャンル的に Limerick(五行で書かれたユーモア詩、韻を踏むことが決まり)と呼ばれます。

個人的には英語の俳句よりもずっと面白いと思います。

英語俳句は韻を踏む必要はないので自分には面白くない。音の面白さが欠如しているのです。

例えば、シェイクスピアを揶揄ったリメリックには次のようなものがあります。シェイクスピア劇の物語を知っているとニヤリと笑えます。

音読してみてください。

ハムレット版
訳すと韻がなくなってしまいますが、英語ではDane、Slain, Insane、
そしてLiesとDiesの音が呼応します。
いわゆるAABBAというパターンがLimerickの特徴。
文章内のアクセントの位置を揃えたりはしないで、最後だけを揃えればいいのです。
「昔メランコリーなデンマーク人がいて、
お父さんが殺されたことを発見した、
彼は嘘ばかりに取り囲まれていて、
それからみんな死んでしまった
そして死者の数は相当に常軌を逸していた」
ハムレットがどんなお話かを五行でまとめるとこんな感じ
内容よりも音の遊びですが、そこにどれだけの内容が取り込めるかが大事
マクベス版
韻はSaid, Led, Instead, そしてRule, Cruel
「『いつかお前は王になる』魔女はみなそう語った
スコットランドの王座にまでマクベスは導かれるだろう
征することを決心
彼のしたことは残虐
挙句にはマクベスは報いとして首を切られてしまった』

韻を踏んだ言葉の面白さを楽しみながら読み進めてゆくのは、英語というリズミカルな言語を理解できて本当に良かったと思える瞬間です。

物語そのものよりも、むしろ英語のリズムや音の面白さを味わうことに、英語詩を読む醍醐味があるかもしれません。

英語詩は音楽なのです。

ルイス・キャロルの詩は、英語の中でも最も音楽的に楽しいものの一つです。

作者は言葉遊びの達人なのですから。

我々が優れた楽しい日本語で書かれた百人一首や谷川俊太郎の現代詩を楽しめるように、英語ネイティヴはこんな音の響きの多彩さを楽しむのです。

ですので、日本語に訳されたものだけ読んでも、おそらく原詩の面白さを半分も味わえないことでしょう。

だから英語の詩に挑戦してみてください。詩は子供のためのものもたくさんあり、難しいものばかりではないのですから。

音読を聞いてみる

でもルイス・キャロルのスナークはあまりに長いので、少しずつ頑張って声を出して読むか、誰かに呼んでもらうか、無料の音読版をYouTubeなどから聞いてみるといいですね。

読み上げると30分前後かかるにもかかわらず、音読がいくつかYouTubeに上がっています。

コメント欄には「子供の頃に夢中になって読んだ、小学生の頃に舞台で演じた、英語のリズムを最高に味わえる」などの楽しいコメントを読むことができます。

音読は最初から最後まで読むと30分前後かかりますが、それでもとても愛されている物語詩なのです。

詩を原語を理解しない外国人が味わうのはなかなか困難なのですが、解説付きで読むと、何が面白いのかをすこしずつ理解できるようになり、世界が広がると思います。

この淡々としたナレーターの朗読はとても良いですね。

こちらは女声によるよりドラマチックな音読。

舞台で俳優たちに読まれることもありますが、この人形劇による映画はなかなか楽しいです。

ご理解いただけたでしょうか?

ルイスキャロル特有の造語も混じっているので、完璧にこの詩を理解できる人はいるはずもありませんが、音の面白さゆえに聞けてしまうのです。

でもゆっくりと各行の意味を吟味しながら読むと面白さは倍増します。

だから自分としては、わざわざ日本語に翻訳してみて、こうしてアウトプットして皆さんと楽しんでいます。訳すと深く文を理解しながら読むので、とても勉強になります。

三回目の今回は、第一部で記憶喪失で自分の名前を忘れてしまったけれども、それ以外のことはたくさん覚えているパン屋(パン焼き)のお話。

船に乗るために42個の荷物を用意して
全て海岸に置き忘れてしまったという不思議な人物が
ベイカー(パン焼き)
「パン屋」というよりはパン焼き職人と訳す方がいいですね

Fit the Third:The Baker's Tale 
第三部: パン焼きの話

They roused him with muffins—they roused him with ice— 皆はマフィンで彼を元気づけた、氷で彼を元気づけた
They roused him with mustard and cress— カラシとクレソンで元気にした
They roused him with jam and judicious advice— ジャムと思慮深い助言で励ました
They set him conundrums to guess. 彼に想像を絶する難解を突き付けた

卵の殻で育てたクレソン

When at length he sat up and was able to speak, 長いこと夜更かしすると彼は喋ることができた
His sad story he offered to tell; 喋るのは彼自身の悲しい物語
And the Bellman cried "Silence! Not even a shriek!" 伝令は「静粛に、叫んだりしてはいけない」
And excitedly tingled his bell. と興奮してベルを震わせた

There was silence supreme! Not a shriek, not a scream, 最上級の静寂、金切り声や大声なんてない。
Scarcely even a howl or a groan, 唸ったり、呻き声さえもない
As the man they called "Ho!" told his story of woe 大昔のスタイルで悲痛に溢れる物語を
In an antediluvian tone. 皆が気を使う人が語るような

なんだかいつも大きな声を出す人ばかりなのかも
やはり自閉症な人はすぐにムキになる人が多いので
そういう人のことが想定に置かれているのでしょうか

"My father and mother were honest, though poor—" 「僕の父と母は貧乏だけれども正直者でした」
"Skip all that!" cried the Bellman in haste. 「そこ全部カット!」と伝令は大急ぎで叫んだ
"If it once becomes dark, there's no chance of a Snark— 「暗くなったら、スナークの機会はなくなるー
We have hardly a minute to waste!" 1分たりとも無駄にはできないのだ」

"I skip forty years," said the Baker, in tears, 「四十年飛ばします」とパン焼きは涙ながらに言った
"And proceed without further remark 「これ以上そこは語らないで
To the day when you took me aboard of your ship スナークを見つけることを手伝う船に
To help you in hunting the Snark. 乗った日までお話を進めると

"A dear uncle of mine (after whom I was named) 「自分と同じ名前の僕が大好きなおじさんはこう言ったのです
Remarked, when I bade him farewell—" お別れをいう時-」
"Oh, skip your dear uncle!" the Bellman exclaimed, 「ああ、大好きなおじさんもカットして」と伝令は叫んだ
As he angrily tingled his bell. ベルを鳴らしながら怒ったように

"He remarked to me then," said that mildest of men, 「おじさんはそしてこう語ったんだ」と船員の中で最も穏やかな彼は言った
"'If your Snark be a Snark, that is right:「おまえのスナークが、ただのスナークなら、良いことだ:
Fetch it home by all means—you may serve it with greens,「何としても家まで持って帰っておいでー野菜をあげるといい
And it's handy for striking a light. そして火をつけるのに便利だし」

Strike a lightは驚かせるの意味もあります
掛け言葉的に使われているのですが、ここではスナークは火をつけるのに役立つものだと
文字通りに解釈しておきます
やはり動物?でも草食?そして火を起こしてくれる?
裁縫するのに役立つ「指抜き」

"'You may seek it with thimbles—and seek it with care;「指ぬきで探すかもしれない、注意深く
You may hunt it with forks and hope; フォークと希望で狩りたてて
You may threaten its life with a railway-share; 鉄道株で命の危険を感じさせるほどに脅して
You may charm it with smiles and soap—'" 笑顔と石鹼で惹きつけることができるかもしれない」

このパン焼きのおじさんの言葉は詩の後半で何度も繰り返される言葉です
スナークとは何なのか?
鉄道株は19世紀英国で最も価値のあった株
産業革命時代真っ盛りの頃ですから

("That's exactly the method," the Bellman bold(「まさにこのやり方だ」出しゃばりな伝令は
In a hasty parenthesis cried, いらいらした様子で言葉を挟むように
"That's exactly the way I have always been told「わたしがいつも話していた
That the capture of Snarks should be tried!") スナークの捕まえ方でやるべきことそのものだ」と叫んだ

"'But oh, beamish nephew, beware of the day,「だが、ああ無邪気な甥っ子よ、その時は気を付けよ
If your Snark be a Boojum! For then お前のスナークがブージャムだったならば!そのときは
You will softly and suddenly vanish away, 穏やかにあっという間にお前は消えてなくなってしまう
And never be met with again!' 二度と会うこともないだろう」

Beamishはルイス・キャロルの造語
Beamedで顔からビームが出るように笑顔で喜ぶという意味ですが
それを無理やり形容詞化した言葉

"It is this, it is this that oppresses my soul,「それなのだ、わたしの心の奥深くを締め付けるのは
When I think of my uncle's last words: おじの最後の言葉を思うと
And my heart is like nothing so much as a bowl 僕の心はお皿いっぱいに
Brimming over with quivering curds! あふれそうになって揺れてるヨーグルトほどにも胸がいっぱいなんだ

"It is this, it is this—" "We have had that before!" 「それなのだー」「我々はそんな思いを前にも抱いていた」
The Bellman indignantly said. 伝令は憤然としながら言った
And the Baker replied "Let me say it once more. そしてパン焼きは答えた「もうひとこと言わせてください
It is this, it is this that I dread! それなのです、怖くてたまらないことは」

"I engage with the Snark—every night after dark—「僕はスナークとかかわりあったことがあるー夜更けに毎晩
In a dreamy delirious fight: 夢みたいで無我夢中に争って
I serve it with greens in those shadowy scenes, 僕はそのぼんやりした場所でサラダを与える
And I use it for striking a light: そして火をつけるのに使ったんだ 

"But if ever I meet with a Boojum, that day,「でもブージャムに出会ったとしたら、その日は
In a moment (of this I am sure), その瞬間に(そうだと確信している)
I shall softly and suddenly vanish away— 僕は音もたてずに急に消えてしまう
And the notion I cannot endure!" そんな風になるなんてことに、僕は耐えられないんだ」

こうして、謎のスナークがビージャムだったら、自分たちは一瞬にして消えてなくなってしまうということをパン焼きの口から聞かされた船員たち。

スナークがなんであるのか、いまだにさっぱり意味不明なのですが、次からは長い航海の末にたどり着いた島を探索してスナークを探すのです。

ルイス・キャロルのノンセンス

作者の形容詞はかなり矛盾だらけなのですが、それがまたノンセンスらしさ。

静寂だと言っておきながら、金切り声なんてないとか。普通ならば、木の葉一つ動かないとか虫の声しかしないとかなのに。

やはりルイス・キャロルはおかしな人です。

そして彼の詩が発表されてから150年を経ても、こうして彼のヘンテコな詩を楽しんでいる人たちがたくさんいるわけです(笑)。

英語学習はキャリアやビジネスなどのための道具かもしれませんが、英語という言語そのものをこうして楽しめると、趣味としていつまでも遊べる対象になりますよ。

言葉遊びできるようになると、言語学習は最終ステージです。英語で駄洒落を言えるようになりましょうね(笑)。

英語圏の子供たちの間で大人気の駄洒落
保育園などでは保母さんは小さな子供に
「See you later, Alligator、after a while Crocodile」
と言ってお別れします。


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