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中判カメラ・ロクロク物語 その1

実質無料で最後まで御覧いただけます

亡父が隠していたロクロク

 この記事はシリーズ物なので、よかったら「中判カメラ・ロクロク物語」別記事も御覧ください。

 亡父は認知症の症状が出始めた後も、「どうしても施設に入りたくない」といって在宅療養となり、およそ10年ほどワガママの限りを尽くしました。家族にも知られないように、亡父は書斎の鍵付きロッカーに何台もの高級なカメラを隠していました。そのなかにプロが使うようなマミヤRB67とかいうドデカい中判がありました。それを写真学校に通っていた姪に形見分けしたあとで、もう一つ中判カメラが出て来ました。スクエアフォーマットのロクロクで、RB67に比べたら格段に軽快なハッセルブラッド500C/Mです。

 ロクロクというのは、フイルムの上に6cm×6cmの正方形に撮像することで6×6すなわちロクロクです。35mmフイルムの場合は24mm×36mmです。

 亡父が死去したのが2003年10月でしたから、遺品整理で大量のカメラ類を掘り出したのは、2004年春から夏にかけてのことだったと記憶しています。すでにデジタル化の波は押し寄せていましたが、まだ中判用のブローニーは何種類も生産され続けていましたから、多様なフイルムから好みの発色のものを選んで買うことが出来ました。しかし、近い将来には少しずつ廃番が増え、やがてフイルムを選んで買うことが出来なくなるのは予見できました。好みのフイルムで撮る機会が失われないうちに撮らねばなりません。かねて御承知とは思いますが……フイルムには消費期限があって買い置き出来ないのです。

まずは作例を御覧ください

 例によって組み写真を御披露しますが、今回はコマ割りなしで上から下に順番どおり御覧ください。

 タイトルは『梅は咲いたか』です。2005年1月撮影

中判の味わい

 先に白状しておきましょう。四枚目のアップは、併用していたデジタルで撮りました。それ以外は中判カメラで撮ったものに相違ありません。

 ハッセルブラッド500C/Mはレンズ交換式ですけれども、あいにく単焦点80mm f2.8が一本しかないので、アップを撮るにも二枚目くらいが精一杯。爆笑した表情を撮るのにもう少し寄りたかったので、ここだけはデジタルで撮っています。

 さて、ほかの四枚をマジマジと見てください。ボケ味が35mmフイルムと違います。もちろんデジタルとも違います。人物が背景から浮き出るような立体感は、いまのフルサイズのデジタルカメラでも容易に再現できません。これこそが中判の味わいでしょう。

 そして、いまや廃番になってしまったフジのアスティアというフイルムで私好みの色合いに撮れています。もうアスティアが手に入らないのは非常に残念に思います。

自分の個性とはなにか

 良いボケ味に撮れるのは、レンズの個性です。同様のレンズを持っている誰もが、同じボケ味を得ることができます。

 好みの発色に撮れるのは、フイルムの個性です。同じフイルムを選択した誰もが、同じ発色を得ることができます。

 私は、それらレンズやフイルムの個性を、自分の個性だと勘違いしていた時期がありました。そのレンズやフイルムを失ったとき、それらが「自分の個性ではなかったのだ」ということは誰にでもわかるでしょう。幸か不幸か私はアスティアが廃番になる前、そのことに気づいて中判から離れていったのでした。

 アマチュア写真家といえどもクリエーターの端くれです。他の誰とも比べようがない、自分の表現を追求したかったのです。それには中判のレンズやフイルムの個性に頼っていてはイケナイと考えたのです。

学ぶに如かずとはいうものの

 私の場合は、最初に受けた写真講座が「虎の穴みたいな講座」だったのが写真歴のなかで重要な位置を占めています。

 よくある写真講座だと、講師から「こういう具合に撮りましょう」と説明されて、それを受講者みんなで真似をして、講師の技法を学び取るといった内容が多いでしょう。講座に通うくらいのことで修得できてしまう技法が、撮り手の個性にはなりえません。わずかな努力で誰でも修得できてしまうのですからね。

 私が学んだ虎の穴みたいな講座は、全然違いました。講座だというのに、さきに教えてはくれません。まず受講者に撮らせて、撮影する様子を観察、そのあと撮った写真を見ながらダメ出しするという講座でした。

「写真の撮り方に正解はないが、不正解はある」

 ということを精神的な痛みとともに叩き込まれる講座でした。そういった不正解を潰していきながら「不正解に近いがギリギリ正解」というような、きわどい表現が個性になり得るのかもしれません。

 たとえば『梅は咲いたか』の二枚目など、単写真だったらアンダーすぎて選べない写真です。組み写真の中に入れば、昼なお暗い森の中に入ったのを表現するのに適しています。私は写真を組むようになってから、こういった常識外れな撮り方を平気でやるようになりました。デジタルであれば液晶で結果を見ながら塩梅できますがフイルムでもヤルという、たぶん、その辺が現時点の私の個性なのだろうと、それくらいは言えると思っています。とはいえフイルムで撮る機会は激減しましたけどね。

おわりに

 この記事は実質無料です。わざわざお買い求めくださらないで大丈夫ですけれども、投げ銭として買ってくださると嬉しいです。

追記

 現在、ロクロクの中判カメラを主人公に据えた、フォトストーリーを制作しております。先日、予告編を公開しましたので是非御一覧のほどを。

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