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Salmiakki crew 憤りと理性の狭間でもがくオルタナティブ・シティロック:sprayer Interview

うみのて、FILMREELで活動するムルアイ(Vo,Gt)を中心に、海部翔太(Ba / ex.夜に駆ける)、松田タツロウ(Dr / SuiseiNoboAz)、アビー・ロウ(Gt)という4人で結成されたバンド・Salmiakki crew。自ら「オルタナティブ・シティロック」と形容するその音楽性は、洒脱なリズム隊の演奏に荒々しいギターサウンドと剥き出しの歌声を衝突させることで、冷たい都市の中に埋もれまいと叫ぶムルアイの詞世界を巧みに具現化させている。

4月10日には、ライブの定番曲としても支持の熱い楽曲「opamp.」をシングルリリース。学生時代にムルアイがノートに記した言葉から生まれた同楽曲で、バンドの表現はさらに鋭さを増したようだ。メンバー4人に、結成の経緯から「opamp.」の裏側、5月2日に下北沢THREEで開催される1周年記念企画『飴』やその先のビジョンについて聞いた。

ポップじゃなくても誰かに愛される音楽を

[L→R] アビー・ロウ(Gt)| ムルアイ(Vo,Gt) | 海部翔太(Ba) | 松田タツロウ(Dr)

ー今回はSalmiakki crewが結成された経緯から掘り下げていければと思います。元々、ムルアイさんがフロントマンを務めていたFILMREELが活動のペースを落とし、ソロ名義での活動を本格化させ始めたのが2021年の夏ごろからでしたよね。

ムルアイ(Vo,Gt):はい。僕が作ったトラックを再現できるメンバーを集めて、ソロをやりたいという気持ちが強かったんです。FILMREELは学生時代からやっていたバンドなんですけど、メンバーの生活環境の変化もあり、現在のような状況になって。そのタイミングで、改めて音楽に立ち向かえる人を集めて、ムルアイ名義での活動を始めることにしました。

ムルアイ(Vo,Gt)

ー始動当初は、あくまでバンドではなくソロプロジェクトという構想だった?

ムルアイ:そうですね、元々ソロでトラック出してSNSだけで活動する構想もありましたが、バンド編成でステージに立ちたい欲望があったので。このメンバーで何回か"ムルアイ(バンドセット)"としてライブもしました。あ、海部くんは旧友で飲み友達。で、松田くんは僕がうみのてのメンバーとして出演したサーキットイベントで出会って、めっちゃドラムのセンスが良いってマークしてて。最初はその3人でスタジオに入ったんですけど、もう一本ギターが欲しいとなり、Xでギタリストを募集したんですよ。そしたら……会社の同僚からDMが来て、それがアビーっていう(笑)

ー会社の同僚だったんですね! ソロプロジェクトとして構想していたものがバンド化したのは、どのような意思の変化だったのでしょう?

ムルアイ:自然と、それぞれ違うキャラクターを持った4人だし、皆が建設的なヴィジョンを提案してくるから、作ってるものは僕だけのものじゃないなっていう意識になっていきましたね。あとは、グッズデザイン等は僕がやってるんですけど、ビジュアルイメージも固めた上でグッズを作りたいなと思って。

ー「サルミアッキ」は、世界一まずい飴とも言われるフィンランド名物のお菓子ですよね。どういった意味合いが込められたバンド名なのでしょう?

ムルアイ:サルミアッキって、まずい飴って言われてはいるけど、昔から好きな人には愛されている飴でもあるんですよ。そこに自分たちの音楽性を重ねました。僕の好きな音楽って、そんなにポップなものじゃないんで。

ーちなみに、サルミアッキを食べたことはあります?

ムルアイ:ありますよ。案外悪くないと思いますけど(笑)人を選ぶとは思いますよね…

ームルアイさんに誘われスタジオで音を合わせたみなさんは、4人でバンドとしてやっていけそうだという手応えを掴んでいましたか?

松田タツロウ(Dr):単純に、仲が良いからやっていけるだろうなっていう。そもそも、ムルアイさんのデモを聴いたときに「あ、良いな」って思ったから参加したので、その時の感覚が今までずっと続いてます。

松田タツロウ(Dr)

ーバンドのプロフィールには「バンドメンバーの確かな音楽性とは裏腹、人間性のギャップもSalmiakki crewの魅力として捉えられている」と書かれていますし、お互いのキャラクターもバンドとしてまとまったきっかけになっているんですね。

松田:ある時、ムルアイさんに誘われて海部くんの家で宅飲みしたんですけど、それが僕と海部くんの初対面だったんですよ。だから、最初から飲み友達として出会った感覚で。

海部翔太(Ba):お酒を飲んで一緒に遊べる友達(楽器ができる)、って感じですね。

海部翔太(Ba)

松田:この間も4人で花見しましたからね。

ムルアイ:基本ネットミームで勝手に盛り上がってますね(笑)

ーアビーさんは、会社の部下であるムルアイさんによるギタリスト募集を受けて自らDMを送ったとのことですが。

アビー・ロウ(Gt):ムルアイさんが音楽をやってるのは以前から知ってて、カッコいいなと思ってました。ただ、最初はバンドとして活動していくとは予想してなくて、一回サポートでギターを弾くみたいな感じかなと思ってまして。軽い気持ちで行ったら、すごいメンバーの中に加わっちゃった、みたいな。ただ、本当に良いメンバーですし、ムルアイさんの曲もいつもカッコいいので、一緒にやれて嬉しいです。

アビー・ロウ(Gt)


好きなもの全部乗せの「オルタナティブ・シティロック」スタイル

ーSalmiakki crewは、自身の音楽性を「オルタナティブ・シティロック」と表現していますよね。このサウンドには、どのように辿り着いたのでしょう。

ムルアイ:シティ・ポップやクラブミュージック、オルタナティブ・ロックも好きなので、それをブレンドしたら面白いだろうなというのが、ソロ活動を始めた時からのねらいでした。ただ、自分でもジャンルが明確にわからないまま曲を作っていたところ、アビーが「オルタナティブ・シティロック」というフレーズをどこかに書いていて。「良いやん」と思い、今もその肩書きを掲げています。

ムルアイ(Vo,Gt)

ーそのスタイルのリファレンスになったようなアーティストはいますか?例えば「〇〇+〇〇=Salmiakki crew」というイメージとか。

ムルアイ:元々、Portishead、Battles、Neon indianといったバンドに加えて、Warp Records系のテクノとかをよく聴いてて。ミニマルなバンドアレンジのアプローチでいえばD.A.NとかTychoの要素もすごく好きで。一方で、詞の世界観はSyrup16gやART-SCHOOLがめちゃくちゃ好きなんです。それらを混ぜて、僕の好きなもの全部乗せみたいなバンドにしたいなと思ってました。

ーいわゆる「鬱ロック」に、ポストロックやミニマルテクノ、エレクトロニカやテクノといった要素を加えていくというビジョンがあったんですね。

ムルアイ:そうですね。

ー楽曲はどういった流れで制作していますか?

ムルアイ:僕がデモを作ってメンバーに共有してみんなが予習しつつ、スタジオでアレンジしています。最初は結構、僕のやりたい方向でデモを作り込んでいたんですけど、最近はメンバーに委ねる気持ちで、デモもラフになっていますね。

ーメンバーの皆さんは、ムルアイさんのソングライティングにどのような印象を持ってアレンジに取り組んでいますか?

松田:ムルアイさんのデモがすごく面白くて、そのデモにある独特のムードを守りたいと思ってます。その気持ちを大事にしながらバンドで発展させていくようにしていますね。

海部:ムルアイさんは、いつもその曲の独自性や個性をイメージしながら制作しているというか。新しい良さがあるな、個性的な曲だなと毎回思えるデモを作ってくれますね。

アビー:デモの段階で、ムルアイさんならではの世界観が完成されているんですよね。一方、4人でアレンジを進めるとある意味カチッとしちゃったりもするので、それをムルアイさんの個性とどうやって馴染ませていくかを日々試行錯誤しています。あとはやっぱり、歌詞がなんというか……すごく良いんですよ(笑)。その言葉と音楽の雰囲気をマッチさせることも意識しています。

ームルアイさんから見て、Salmiakki crewならではの強みや個性はどういった点だと思いますか?

ムルアイ:上品にも振る舞えるし、気持ちが昂ったり、エモーショナルな表現もできるっていうのは強いと思います。


鬱屈とした10代の記憶から生まれた最新シングル「opamp.」

ー4月10日にリリースされた「opamp.」について伺わせてください。制作されたのはいつごろ?

ムルアイ:初めて自主企画(2023年7月30日に下北沢LIVE HAUSで開催された『SLCR FILE#1』)をやったころだから、去年の7月ぐらいですね。色んな人から、「早く音源聴きたい」「リリースまだ?」と言われてました。

ー歌詞はムルアイさんが高校時代に日記帳に記した言葉から制作されたとのことですが、どういった思いで作られた楽曲なのでしょう。

ムルアイ:高校時代は色々と暗黒な思いをしていて、本当に地獄だったというか。教室の隅でヘッドホンを付けて、「音楽だけが友達」みたいな孤独感を抱いてました。ある日、クラス会誘われてカラオケに行ったときに、Radiohead「High and Dry」を入れたんですよ。クラスメイトに演奏中止のボタンを押されて。泣きながら帰って、その日に日記に書いた言葉が、そのまま「opamp.」のサビの歌詞になってます。大人になって思いますけど、その鬱屈とした気持ちがあまり変わらなくて。キレて衝動的になっても上手く行かないし、かといって理路整然とも生きてはいけない。どこにも行けなさ、閉塞感みたいなものを歌いたかったし、自分も含め当時のような感覚を抱えたままの人もいるんじゃないかって。いま歌おうと思ったんです。

ークラスメイトに対する憎しみとも違う、怒りのやり場の無さが言葉になっていますよね。曲名のオペアンプ=オペレーションアンプは、ギターアンプにも使われる小さな信号を増幅させる回路のことですが、この曲名も意味深に感じます。

ムルアイ:「opamp.」は、BOSSのDS-1っていうディストーションのエフェクターを買ったらめちゃくちゃいなたくてNirvanaみたいな音が鳴って、その衝動のまま作った曲なんですよ。最初は「真空管」っていうタイトルにしようって話してました。でも、真空管はライブハウスで使うようなデカい音がする"本物"っぽいアンプだから、部屋でちまちまとディストーションギターを弾いてる時の衝動を表現するなら、「opamp.」の方が良いなと思って。

ーなるほど。個人的な解釈としては、10代の鬱屈した感情が今も心の奥に残ってて、それを増幅させながら音楽を続けてるということを表しているのかなとも思いました。

ムルアイ:確かに、高校時代のくすぶった気持ちをディストーションに込めようという思いはありましたね。そのころの遺恨っていうのは、今もめちゃくちゃあると思います。むしろ、バンドを組むことによって復活してしまったみたいな(笑)

ーサウンド面では、前作『MENOU EP』よりさらに進化し焦点の定まったプロダクションになっている印象です。

ムルアイ:レコーディングはみんなで試行錯誤してますね。ミックスに関しては海部くんがやってくれてます。

海部:前作ではアンプにマイクを2本ずつ立てた上でその内の1個だけを使ったりしていたので、引き締まったサウンドになってましたけれど、今回はギターだけで8トラックぐらい録って、ディストーションの壁を作るようなイメージでサウンドメイクしました。着々とムルアイさんの歌唱も成長しているので、歌録りもやりやすくなってますね。

ーMVはムルアイさんの実姉でありプロスケーター・フィルマーの村井祐理さんが撮影しています。ロケ地はムルアイさんが10代に過ごした場所とのことですが、詳しくお話しいただけますか?

ムルアイ:高校時代、学校をサボってダラダラするときに過ごしていた場所です。家族にバレないようにしていたんですけど、ある日姉に見つかって、殴り合いの喧嘩になり、ボロ負けして(笑)。でも、それ以来すごく仲良くなったんですよね。だから、姉に撮ってもらうならあそこだなと。

ー現代のクリアな映像とノスタルジックなフィルムカメラの映像が組み合わさっていて、楽曲の背景ともマッチしたMVになっていますね。

ムルアイ:スケーターの映像作品では、あえて躍動感を捉えるために未だにDVテープのビデオカメラを使って撮影する人もいるみたいで。そこは彼女の映像の持ち味だと思っていたので、使ってもらいました。


一人でも多くの記憶に残りたい

ー5月2日には、バンドの1周年を記念した自主企画『飴』が下北沢THREEにて開催されます。Marie Louise、Doonaという対バン相手はジャンルレスでありつつ、両者の間をSalmiakki crewが繋ぐ絶妙なラインナップですね。

ムルアイ:オルタナティブロックの深淵にいるのがMarie Louiseだと思っていて、ずっと共演したいなと。松田くんとライブを見に行って震えました。Doonaは、若手のこれから爆発する存在としてアビーが目星を付けてて、絶対に共演したいという気持ちで呼ばせてもらいました。

ーDoonaには以前インタビューしたことがあるんですが、めちゃくちゃやんちゃで、若いエネルギーにあふれたバンドでした。

ムルアイ:僕らもそれなりにやんちゃかもしれないですよ…!(笑)

ー『飴』はどういったイベントにしたいと考えていますか?

ムルアイ:Salmiakki crewがこういうバンドだということをみんなにわかってもらって、改めてSalmiakki crewの良さを、そして僕たちが集めたバンドが属するシーンの良さを感じて帰ってくれたら嬉しいです。

ーそれでは最後にひとりずつ、Salmiakki crewとしてどんなバンドになっていきたいか、ビジョンや目標を聞かせてください。

松田:共演したい人たちがたくさんいるので、もっと規模を大きくして色んなバンドと一緒にライブできたらいいなと思ってます。それこそ、さっきムルアイさんが挙げてくれたSyrup16gとやれたらいいなと思ってたり。

松田タツロウ(Dr)

海部:純粋に聴いてくれる人を増やしたいので、そのためにも自分たちの音楽をもっと確立できたらいいなと。Salmiakki crewらしさをもう少し強めて、より個性的な楽曲も作っていきたいです。

海部翔太(Ba)

アビー:私はいち音楽ファンとしてすごくミーハーなところがあるので、立ちたいステージや共演したいアーティストがたくさんいます。たとえば新代田FEVERや渋谷WWWでライブをやってみたいし、貪欲に色んなバンドと対バンしたい。BillyrromやHALLEYといった今勢いのあるおしゃれなアーティストと近い将来共演できたらと思いますし、ゆくゆくはSyrup16gやART-SCHOOLであったり、時代を作ってきたバンドと同じステージに立ちたいですね。

アビー・ロウ(Gt)

ムルアイ:あれっ、武道館は?

アビー:(笑) やっぱり私はミーハーなので、「バンドやるからには武道館に出たいですね」みたいなことをよく言ってまして。

ムルアイ:武道館への道のりをまとめて、ちゃんとスプレッドシートで書いてくれたりして。

アビー:King Gnuは何年、Official髭男dismは何年、Kroiは何年……とかね(笑)

ムルアイ:みんなの言ったとおり、憧れのバンドと共演するっていうのもそうだし、単純に僕たちを記憶に刻んでくれるお客さんを増やしたい。一人でも多くのリスナーに沁みて感動して貰えるような存在でありたいです。あ、僕個人としては、もっと売れて代官山でワインをあおって高笑いできるようになりたいと思ってます(笑)

ムルアイ(Vo,Gt)


Text:サイトウマサヒロ(@masasa1to
Edit:sprayer note編集部


Profile:Salmiakki crew

Salmiakki crew(サルミアッキクルー)は「うみのて」「FILMREEL」で活動するボーカル&ギターのムルアイを中心に2023年に結成。ベースの海部翔太(ex.夜に駆ける)、ドラムの松田タツロウ(SuiseiNoboAZ)、ギターのアビー・ロウという4人編成。 ムルアイが作詞・作曲で生み出す仄暗く厭世的で感傷的な世界観は、前身バンド、ソロプロジェクトから一貫して確固たるオリジナリティを持ち、屈強なリズム隊による確かな演奏技術に裏付けられた楽曲は、時にオルタナティブ・ロック的な荒々しさ、時にシティポップ的な軽やかさを演出し、バラエティに富んだ楽曲を力強く表現する。 バンドメンバーの確かな音楽性とは裏腹、人間性のギャップもSalmiakki Crewの魅力として捉えられている。インターネット黎明期のミームを中心にしたシュールなネタを突発的に発信する、飾るようで飾りきれない良さを出している。 2023年5月に下北沢THREEで初ライブの後、2023年7月からは下北沢のライブハウスで自主企画イベント「SLCR FILE」を主宰。インディーズシーンを盛り上げるバンドと共演を続けている。

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