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『アナスターシャ』/乃木坂46の歌詞について考える

※「~~に関係する内容の可能性がある」の注記が表示されていますが、言うまでもなく、歌詞を引用した結果文中に〈ロシア〉と含まれているだけなので悪しからず。

乃木坂46・25thシングル『しあわせの保護色』にカップリング収録された、2期生メンバーによるユニット曲『アナスターシャ』。

2期生楽曲はこれまでも作られていたが、『アナスターシャ』は今までの楽曲以上に所謂”2期推し”の方々に愛されているように思う。愛されているというより、ひたすら惹かれているようですらある。

そしてそのために(かつ、表現が抽象的な事も相まって)、この曲は特に多くの解釈を生んでいる。むしろその複雑さが、この曲が多くの人を惹き付けていることの要因と言ったところか。

その解釈は「楽曲のテーマ」という広いところから、「あのフレーズの意味」というフォーカスを絞ったところまで、それはもう探して色々見れば見るほどその例は増える一方である。

なので今更一つや二つ増えたところで変わらんだろう、という思いの元、「個人的にはこう読んでいます」というのを書いてみることにした。

どうぞお付き合い下さい。

ロシアの貨物がゆっくりと通り過ぎてく

この曲のキーワードはサビに用いられる〈ごめん〉である。

これを「誰が」「誰に」「どのような理由で」言った言葉なのかを紐解くことで、ひいてはこの楽曲自体が示すところに答え(※解釈)を出すことができる。

しかしそのためには、まず他の箇所を順に探っていく必要がある。

というわけでまずは1Aメロ。

岬の先をロシアの貨物がゆっくりと通り過ぎてく
そのコンテナに何を載せるのか
夢はどこへ向かうのだろうか

この箇所は、リリース当時グループからの卒業を控えていたメンバー・佐々木琴子のことを想起させるために用意されたものとしておそらく間違いない。

彼女をイメージする〈ロシア〉というワード、それが〈岬の先〉=視線の向こうにおり、〈ゆっくりと通り過ぎてく〉=去って行く。〈そのコンテナに何を載せるのか/夢はどこへ向かうのだろうか〉という行先を気に掛けるラインも含め、このAメロのブロックでは「琴子の卒業」を示している。

ではこの『アナスターシャ』は琴子の卒業ソングと言えるものなのか、〈ごめん〉とは彼女に向けた言葉なのか、と疑問が生まれるが、そうとは言えないように思う。

それも確かに含まれるが、それだけではない。

たった一羽の渡り鳥よ

1Aメロから続くBメロを読み解いてみたい。

その上空を旋回してるたった一羽の渡り鳥よ
何度日が沈み何度昇れば
遥か彼方の大陸に辿り着く?

注目すべきは〈渡り鳥〉の箇所。「鳥」ではなく〈渡り鳥〉とされていることが重要である。

おおまかな言葉の意味としては「季節によって長距離移動をして住処を変える(習性の)鳥」。

そんな〈渡り鳥〉が、〈上空を旋回〉し続け、目的地であるはずの〈遥か彼方の大陸〉にいつまでも行き着くことをしない。「移動するはずの鳥が移動していない」と示している描写と言える。

そして〈僕〉がその様子を見ている。逆に、飛び続けている〈渡り鳥〉もまた〈僕〉やこの一帯を見ている。

むしろ、〈僕〉がこちらを見る〈渡り鳥〉の存在に気付いた場面、としてもいいだろう。

〈渡り鳥〉は空を〈旋回〉し続け、〈僕〉を観察し続けている。そうした存在として歌詞中に登場している、と読み解くことが出来る。

では、〈僕〉を観察し続けている存在とは何か。

例えば、手塚治虫作『火の鳥』に登場する火の鳥を思い起こせる。

火の鳥は、漫画全体を通して様々な時代が描かれる中で、度々現れては登場人物達を観察し、時に干渉する。移りゆく歴史に常に存在し、そこで行われる営みを俯瞰で見続けているのである。

『アナスターシャ』における〈渡り鳥〉も、そうした歴史を目撃し続ける観察者としての役割を託された存在ではないか。

そして、そのような存在がいる事は、逆に観察しうる歴史・物語がそこにある事を示している(1Aメロで描かれた場面はその長い物語のチャプターの一つに過ぎない)。

つまり『アナスターシャ』では歴史が描かれている。その歴史とは、琴子の卒業を「現在」として、そこから遡ることで辿っていける「2期生の歴史」。

そしてサビで描かれる〈君〉とは、その歴史において、かつて別れていった仲間のことではないか。琴子の卒業を起点としていることも含め、トップ画像として掲載した『アナスターシャ』MVの冒頭でも3つの空席(対面する白い2席と明らかに区別されたもの)がその存在を示している。

つまり〈ごめんアナスターシャ〉とは、かつて研究生として乃木坂46に在籍していながら、昇格を待たずにグループを離れてしまった西川七海、矢田里沙子、米徳京佳に向けられた言葉ではないかと思うのです。

約束を守れずに

〈ごめん〉の対象は研究生時元メンバー3人である。

この仮説は、例えば先に挙げた〈ロシア〉のような特定のメンバーに紐付いたワードを基にしたものではない。あくまで上記の通り個々の描写から連想を重ねたものであり、確定情報とは言い難いのは事実。

しかしながら、そう仮定した上でサビの歌詞を見てみると、割と言葉そのまま受け取る事が出来るように思う。

ごめんアナスターシャ
約束を守れずに

〈ごめん〉という言葉は、〈約束〉を守れなかったこと、〈君〉のことを〈止められなかった〉ことに対して発されたものであるという。

では、元メンバー3人との〈約束〉とは何か。

グループ加入当時の2期生は14名。全員が研究生として在籍していたが、7thシングル選抜発表に際し、堀未央奈が一人選抜メンバー(センター)に選ばれる。

彼女は、同じく地方出身メンバーであり上京する以前はよくホテルで同室になっていた鈴木絢音と「研究生として時間をかけて一から実力を付けていって、いつか選抜メンバーに選ばれるようになれたら」という旨の会話をしていたという。

そんな折に突然のセンター抜擢があり、予測を超えた彼女のストーリーが始まってしまったわけだが、それはまた別のお話。

注目すべきは、上述した絢音ちゃんとの会話である。この文ママではないが、おおむね同意の発言・やり取りがあったことは堀ちゃん自身が各所で明らかにしている。

この発言こそ堀ちゃん自身の意志表明であるが、同時に絢音ちゃんとの間で「同じように協力して頑張っていこう」という意図も含まれていたはず。

故に、堀ちゃんのセンター抜擢後、絢音ちゃんは直接「おめでとう」と言えないまま夜を過ごし、それではいけないと思い直して後日メールで……といったエピソードが彼女の口から語られたことがある。

こうしたやり取りはこの2人だけで行われてはいないだろう。

つまり、こうしたやり取りが2期生14人の間でも交わされていたのではないか、ということである。

加入当初に、同期の仲間同士で「これから一緒に頑張ろう」と話したかもしれない。「一緒にこんな活動をしよう」「こういう瞬間を共有しよう」そんな風に語り合ったかもしれない。

それこそが上記の元メンバー3人との〈約束〉に当たるものではないだろうか、ということです。

愛すことのその重さ背負えなかった

そうした〈約束〉が曲における〈僕〉、つまり現在まで在籍している2期生メンバーの心にしこりのように残っていたのではないか。

あの夜の僕には勇気が無かった
ごめんアナスターシャ
君はまだ若すぎて止められなかった

早々にグループを離れることを選んだ3人のメンバー。乃木坂46に対し「ここに賭けるしかない」とするには彼女達は〈若すぎて〉、違う道を行くことを〈僕〉は〈止められなかった〉。

当時は研究生であり活動の先行きも見えていなかったであろう時期である。彼女達に「辞めないでくれ」と懇願するには、根拠を用意することもままならなかった。

それこそ、もし言うとしても「約束したじゃないか」と情に訴える方法を取らざるを得なかったかもしれない。しかしそれを"止めるため"に言うには、相手の人生を背負う(そして背負わせる)覚悟が必要だった。

愛すことのその重さ背負えなかった
僕さ

その〈勇気が無かった〉。1サビにおいては、そうした〈僕〉の独白が語られていると読み取れるように思う。

君は未来信じていたんだね

「現在」を見つめていた冒頭から続くように過去への後悔を蘇らせた〈僕〉は、更に回想を遡る。

僕の教科書に走り書きをされた
知らない街のアドレス
もしはぐれたらここで会おうと
君は未来信じていたんだね

これは上記の〈約束〉を交わしたばかりの頃、2期生のグループ加入当時に当てはめられる場面だろう。

というよりむしろ〈約束〉の内容であるとも読み取れる。

〈もしはぐれたらここで会おう〉というフレーズはつまり、活動の中で例え何があっても(例えば選抜とアンダーに別れようとも)一緒にいること、仲間として支え合うことを約束した言葉と取ることが出来る。

〈君は未来信じていたんだね〉という言葉からも当時抱いていた希望を感じ取れるが、現状を思えば、その後に「しかし……」と続いてしまう。

前後するが、「メモ帳」などではなく〈教科書〉とされているのも、学びの途中である「研究生」の時期のことであることを示唆している。

胸の痛みは跡形さえなくなるの?

今この手にはチケットがある
国境超えたリグレットよ
何度夢を見て何度醒めれば
胸の痛みは跡形さえなくなるの?

ここでは、明確に過去と現在に線を引いている。

〈国境〉というワードで示しているのは明らかに『ボーダー』。2期生がまばらに正規メンバーへと昇格していく中で、最後に研究生から昇格した6人によるユニット曲である。

最後の国境
この愛と一緒に超えよう
古い地図は書き換えるんだ

これはつまり、2期生の研究生時代とそれ以降を『ボーダー』を通して現している。

上で書いたように、まばらな道を歩んでいた彼女達の道程を、この時点をもって過去/現在と分断し、そしてこれから更に未来へと進んでいくことを〈チケット〉を以て示している。

その上で持ってきてしまった〈リグレット〉(後悔)の存在もまた明らかにする。その後悔とは、もちろん〈ごめん〉に現れた感情。

それはどれだけ時が経とうとも〈胸の痛み〉として今なおしこりとして残る。

その意味に苦しむべきだと思う

いつかアナスターシャ
悲しみを訪ねよう
目に浮かぶ面影 心の迷路を

ここからはその別れそのものを振り返り始める。

当時仲間として過ごしたメンバーの〈面影〉を思い起こすと共に、自らの〈心〉に残った迷いの記憶も掘り起こし、徐々に自分自身に意識が寄っていく。

これまでは現在から遡って過去を回想し、〈ごめん〉という後悔のタームにいた〈僕〉。

だが実際のところ、〈僕〉がそんなにまで〈ごめん〉と繰り返すほどの責任を負っているのだろうか。〈約束〉が守れなかったのは本当に〈僕〉のせいなのだろうか。

結論から言えば違う。そもそも言うまでもないことである。

ここまで〈僕〉に〈ごめん〉と言わせてきた〈約束〉は、決して〈僕〉が反故にしたわけではない。あくまでも「引き止める」という数ある内の選択肢を採らなかっただけでしかない。

故に〈僕〉の中では、次第に怒りに近い感情が湧いてくる。その感情を〈君〉に向けた言葉として露わにし出す。

いつかアナスターシャ
埋められぬ過ちの傷口辿って
愛されてたその意味に苦しむべきだと思う

つまりは〈君〉に対して「辞めたことで手放してしまったものがあるだろう」と言いたくなる。

それは〈いつか〉という言葉と共に内に秘められたものだが、〈僕〉の中に確かに沸き出てしまう。

自分の感じた〈ごめん〉という感情を〈君〉も感じるべきだ、〈愛されてたその意味〉を噛み締めるべきだ、という想いに駆られる。

ごめんアナスターシャ

しかし、それもまた〈僕〉の心からの感情ではない。

後悔の中にある悔しさが、不意に怒りに転じてしまっただけのものだ。

だからこそ〈僕〉はまた後悔のタームに引き戻される。何度も同じ感情を繰り返してしまうのだった。

ごめんアナスターシャ
約束を守れずに
あの夜の僕には勇気が無かった
ごめんアナスターシャ
君はまだ若すぎて止められなかった
愛すことのその重さ背負えなかった
僕さ

まとめ

ということで、こうした形で〈僕〉が過去を振り返っているものだと個人的には読みました。

やけに深刻な感じになってしまいましたが、冒頭に書いた通り数多くある解釈の一つと言うことで。

歌詞単体では〈僕〉が過去を思い返しては色々感じている様のみが描かれていますが、それを踏まえた上でメンバー達は前に進んでいる、という事を表明している2期生の為の曲であると思います。

さらに深掘りするなら、MVは「その先」を描いていたりするのかな、とか。

以上!







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